このページの目次 | ||
第7章 宇宙の構造(3) | ||
3. 銀河群から超銀河団へ | ||
a.銀河群、銀河団、超銀河団 | ||
b.遠い銀河までの距離の求め方 | ||
4. 宇宙の果てへ | ||
用語と補足説明 | ||
参考になるサイト |
3. 銀河群から超銀河団へ
恒星がグループを作るように、銀河もグループを作る。われわれの銀河系も伴銀河である大小のマゼラン星雲、さらにはアンドロメダ銀河など30個以上の銀河とともに局部銀河群をつくっている(局部銀河群を構成している銀河の数は理科年表2004による)。この局部銀河群のように、3個以上から数十個の銀河が直径150万光年程度の範囲のおさまっているが銀河群である。
この銀河群がまた集まってさらに大きな階層である、銀河団をつくる。銀河団は50個以上から数千個の銀河から構成されていて、大きさは1000万光年程度である。われわれに最も近い銀河団は、直径1200万光年のおとめ座銀河団で、われわれからの距離は6000万光年ある。
ヒクソン・コンパクト銀河群。たくさんの銀河が狭い領域に密集している。 | おおくま座の銀河団。広がりを持っているものすべてが銀河である。 |
国立天文台 天文情報普及室:http://www.nao.ac.jp/Gallery/index.html |
そしてこの銀河群や銀河団がまた連なりあって超銀河団をつくる。超銀河団は1億光年以上の大きさを持っている。われわれの銀河系もおとめ座銀河団などとともに超銀河団をつくっている。こうした超銀河団が取り囲む銀河がほとんどない領域を超空洞(ボイド)と呼ぶ。この超銀河団とボイドという構造がわれわれ宇宙で一番大きな構造である。
真ん中が銀河系、各点が銀河。おとめ座を中心とする超銀河団をつくっている。(理科年表2004) | 連なる超銀河団とそれに囲まれたボイド構造が見える.円の半径は約7億光年(理科年表2004) |
さらに遠方まで、また広い領域を見る。中心が銀河系、外周は約19億光年。スローン・デジタル・スカイ・サーベイ。
http://sdss.physics.nyu.edu/pie/
こうした遠い銀河団までの距離はどう測るのだろう。近い銀河団なら、その中にケフェイド変光星を見つけて、その変光周期光度関係から絶対等級を求め、見かけの等級と比較することで距離を求める。さらに遠く、ケフェイド変光星が見つけにくくなったら、銀河の平均の明るさは絶対等級-21ということを利用する。つまり、銀河団の中で中間の明るさの銀河は絶対等級が-21等と見なして、見かけの等級と比較することによって距離を求めるのである。また超新星の中で、タイプI型(Ia型)はもっとも明るくなったときの明るさ(絶対等級)がほぼ一定であるので、それを利用して(見かけの等級と比較して)、距離を求めることができる。これ以外にも遠い銀河を求める方法があり、複数の方法が使える銀河では、それぞれの方法で求めた距離の比較検討(クロスチェック)ができる。
そして、さらいに遠い銀河団では、後退速度が距離に比例するというハッブルの法則を用いて距離を求めるのである。これらはこちらも参照。
近い恒星までの距離は年周視差、もう少し遠くて年周視差が測定できない恒星は分光視差、もっと遠く恒星からのスペクトルがとれないような銀河までは変光周期光度関係という具合に距離の測定方法を変えるのである。
こうした距離の測定方法は、あくまでも年周視差が基本である。つまり分光視差の方法も、年周視差の方法で求めた距離からわかる絶対等級とスペクトル型との関係(すなわちHR図)が、年周視差が測定できないほど遠い恒星でも成り立つとしている。そして、ケフェイド変光星の変光周期光度関係も、年周視差や分光視差から距離がわかる恒星・星団でその関係が成り立つので、年周視差や分光視差が測定できないような遠い銀河の中のケフェイド変光星でもそれが成り立つだろうとするわけである。さらにこのような方法で求めた距離からわかる銀河(団)、すなわち見かけの等級から絶対等級がわかる銀河の平均光度が-21等ということになれば、ケフェイド変光星を見分けることができないような遠い銀河団も、その中の銀河の見かけの等級から距離を推定できることになる。このような方法で遠い銀河団までの距離を推定し、その距離と後退速度の関係(ハッブル法則)が明らかになった。今度は、もっと遠い銀河団、さらにはセイファート銀河やクエーサーも、ハッブルの法則に従って、その距離に比例する速さでわれわれから遠ざかっているとして、距離を求めるのである。こうして距離の段階ごとに、距離の測定方法を変えることを距離の梯子という。
年周視差の測定も、その小ささから誤差がかなりあると考えなくてはならない。そしてこれをもとに推定に推定を重ねる遠い天体までの距離にはたい変異大きな誤差が含まれているということを常に考えなくてはならない。つまり、宇宙の果てまでの距離や、宇宙の年齢の値はまだ不確かさが大きいということである。
4. 宇宙の果てへ
遠くの宇宙を見るということは、光が到達するまでの時間を考えると昔の宇宙を見ているということである。たとえば、1億光年の彼方の銀河団からやった来た光は、1億年前に発せられたわけだから、その銀河団の1億年前の姿ということになる。だから遠くの宇宙を見るということは、宇宙の歴史を見ることでもある。
だが、遠くの宇宙から来た光は大変に弱い。逆にいえば明るい天体でないと見えない。こうした目的に適するものが、セイファート銀河であり、クエーサーである。
セイファート銀河は非常に活動的な銀河で、そのエネルギー源はよくわかっていないが、強い光とともに、X線、赤外線、電波なども出す銀河である。セイファート銀河NGC4051のすばる望遠鏡による画像はこちら。
さらにクエーサーはもっと明るい。しかも数光年の範囲から通常の銀河の100倍以上の強い光を出す天体である。狭い範囲から光を出すので準恒星的天体という意味で準星という場合もある。銀河の中心核で爆発的現象(重力エネルギーの解放らしい。銀河の中心に存在する巨大ブラックホールに落ち込むガスがつくる降着円盤からエネルギーが放出されるらしい。毎年太陽質量程度のガスがブラックホールに落ち込めば、通常銀河の100倍というエネルギーが説明できる)がおき、大変に強い光を出す。だから非常に遠いものも見える。現在一番赤方偏移(Z)が大きいクエーサーのZは5だという(理科年表2004、すばる望遠鏡による画像はこちら)。これは光速の95%ほどの速さで後退しているということになる。理科年表2004が採用しているハッブル定数の75km・s-1・Mpc-1を使うと3800Mpc(124億光年)彼方の天体ということになる(Mpcはメガ・パーセクと読み100万pc(パーセク)、また1pc=3.26光年である)。つまり、124億年前の光、124億年前の宇宙を見ていることになる。光速の95%で後退しているということは、光速で後退している宇宙の果て(宇宙の地平線)までの距離の95%までのところが見えたということでもある。
※ 国立天文台の巨大望遠鏡“すばる”を使った観測チームは、128億8千万光年彼方の銀河の観測に成功した。これが2009年12月4日現在で発見されている最遠の銀河である。
国立天文台アストロトピックス(242、2006年9月15日)
このように遠いクエーサーからの光は途中の銀河団の質量により曲げられて(銀河団の質量がレンズとしてはたらいて)、一つのクエーサーがたくさんに見えたりすることもある。こうした重力レンズによるクエーサーのすばる望遠鏡による写真はこちらを参照。
またこの章は、<第一部-1- 宇宙の歴史>の<第1章 ビッグバン>の章も参照。
銀河団:下は銀河団の表(理科年表2015より作成)である。なお、赤経、赤緯についてはこちらを参照。また、表中の後退速度(V)は赤方偏移を使って、筆者が求めた。そのとき、赤方偏移Zが大きいので、V=c×((1+z)2-1))/((1+z)2+1)という式を使った。Zが小さければ(Z<0.5くらいなら)、V=cZでよい。ここでcは光速(3.0×105km・s-1)である。
名称 | 2000 | 等級 | 銀河数 | 赤方偏移 | 距離 | 後退 | 速度|
赤経 | 赤緯 | z | (億光年) | (km/s) | |||
h m | ° ′ | ||||||
おとめ座団 | 12 30.8 | +12 23 | 9.4 | 45 | 0.0039 | 0.59 | 1.17E+03 |
ろ座団 | 3 38.5 | -35 27 | 10.3 | − | 0.0046 | 0.63 | 1.38E+03 |
ポンプ座団 | 10 30.0 | -35 19 | 13.4 | 1 | 0.0087 | 1.2 | 2.60E+03 |
ケンタウルス座団 | 12 48.9 | -41 18 | 13.2 | 33 | 0.011 | 1.5 | 3.28E+03 |
うみへび座T団 | 10 36.9 | -27 31 | 12.7 | 50 | 0.0114 | 1.6 | 3.40E+03 |
くじゃく座U団 | 18 47.2 | -63 19 | 14.7 | 8 | 0.0139 | 1.9 | 4.14E+03 |
かに座団 | 8 20.6 | +21 04 | 13.4 | − | 0.016 | 2.2 | 4.76E+03 |
ペルセウス座団 | 3 18.6 | +41 30 | 12.5 | 88 | 0.0183 | 2.5 | 5.44E+03 |
− | 11 44.5 | +19 50 | 13.5 | 117 | 0.0215 | 3. | 6.38E+03 |
かみのけ座団 | 12 59.8 | +27 58 | 13.5 | 106 | 0.0232 | 3.2 | 6.88E+03 |
− | 16 28.6 | +39 31 | 13.9 | 88 | 0.0309 | 4.2 | 9.13E+03 |
ヘルクレス座団 | 16 5.2 | +17 44 | 13.8 | 87 | 0.0371 | 5.1 | 1.09E+04 |
− | 0 41.6 | -9 20 | 15.7 | 59 | 0.0518 | 7. | 1.51E+04 |
かんむり座団 | 15 22.7 | +27 43 | 15.6 | 109 | 0.0721 | 9.1 | 2.09E+04 |
− | 10 58.3 | +56 46 | 17.0 | 74 | 0.136 | 17. | 3.80E+04 |
− | 4 54.3 | +2 56 | 17.4 | 186 | 0.203 | 25. | 5.48E+04 |
− | 2 39.8 | -1 35 | 17.8 | 40 | 0.373 | 41. | 9.20E+04 |
Cl0024+1654 | 00 26.6 | +17 10 | − | − | 0.392 | 43. | 9.58E+04 |
C10013+1609 | 00 18.6 | +16 27 | − | − | 0.55 | 54. | 1.24E+05 |
MS1054-0321 | 10 57.0 | -03 37 | − | − | 0.82 | 70. | 1.61E+05 |
RDCS J0910+5422 | 09 10.0 | +54 22 | − | − | 1.11 | 83. | 1.90E+05 |
XMMXCS J2215 | 22 15.9 | -17 38 | − | − | 1.46 | 94. | 2.15E+05 |
C1J1449+0856 | 14 49.2 | +08 56 | − | − | 2. | 106. | 2.40E+05 |
この表を使って、距離と後退速度の関係(ハッブルの法則)を求めてみる。下のように距離(億光年)と後退速度で、Microsoft Excelのグラフ作成機能でグラフをつくり、近似直線の式(傾き=ハッブル定数の値)をlinest関数で求めた。
非常にきれいに距離と後退速度が比例していることがわかる。この直線の傾き(ハッブルの定数)は1億光年につき2280km・s-1となる。この値は、69.9km・s-1・Mpc-1である。理科年表2015ではハッブルの定数(おとめ座を除きとして)として70km・s-1・Mpc-1としていて、ほとんどみごとに一致する。これは当たり前で、理科年表では赤方偏移から後退速度を求め、「宇宙論」から距離を求め、それらからハッブル定数を出している。だから、理科年表の赤方編移と後退速度からハッブル定数を出すということは「逆算」しているだけなので、一致するのは当たり前である。なお、Y切片を0として傾きを求めると2275(km・s-1・億光年-1 (74.2km・s-1・Mpc-1))となる。1Mpc=106pc。
遠い銀河までの距離の求め方:上に書いた方法以外にも、「銀河の回転速度とその銀河の絶対等級は比例する」という経験則を利用したりもできる。ただ、これらの方法は6億光年程度までの距離しか測れないという。そこでさらに遠い銀河については、銀河団により宇宙背景放射(3K放射)が変化することを用いて(宇宙背景放射の変化の度合いは銀河団内の電子の温度や密度、銀河団の大きさに比例するが、銀河団内の電子の温度や密度はX線の観測からわかるので、残りの銀河団の大きさがわかる)、その銀河団の見かけの大きさから、三角測量の原理で逆に距離を求めることができる。
クエーサーの明るさ:最初に発見されたクエーサーは3C273という名前のクエーサーである。赤方偏移Zは0.158なので、上の銀河団での式を使って後退速度は4.4×104m・s-1となる。ハッブルの定数70km・s-1・Mpc-1を採用すると、このクエーサーまでの距離は、550Mpc(5.5×108pc、約18億光年)になる。一方、このクエーサーの見かけの明るさは12.9等級である。見かけの等級(m)と絶対等級(M)、距離(rpc)の関係式 m-M=5log(r/10) より絶対等級を求めると、M=-25.8(約-26)となる。これはふつうの銀河の明るさ-21より5等級小さい、つまり100倍明るいということがわかる。
宇宙航空研究開発機構の「オンライン・スペースノート」:http://spaceinfo.jaxa.jp/note/note_j.html