2. 銀河系と銀河
a.銀河系
散開星団、あるいは球状星団、さらにはそれらに属さない恒星、あるいは星雲、星間ガス・星間粒子(星間塵)などが巨大な集団をつくっている。こうした大集団を銀河という。その銀河の中でわれわれ(の太陽)を含む銀河をとくに銀河系という。英語では単純に the galaxy と the our galaxy といえばいいわけだが、日本語でいちいち「われわれの銀河」というかわりに、銀河系というのである。
銀河系は数千億個の恒星からなる大規模な銀河の一つである。しかし、銀河系内にいるわれわれには返ってその全体像を見ることは難しい。銀河系の中心部方向は星間ガス・星間粒子が多く存在しているので、光は遮られてしまうからである。そこで利用されるのが光よりも波長が長く、こうした障害物に強い電波である。宇宙にたくさん存在している水素は波長21cmの電波を出す。この電波源(水素がたくさんある場所)とその動きを見るのだ。
電波で見た銀河系。電波でも銀河系の中心方向は見えない。:国立科学博物館「宇宙の質問箱」
http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/galaxy/galaxy02.html
このようなことから、銀河系全体は下図のような構造をしていることがわかった。銀河系は直径10万光年にも及ぶ広がりを持っている。それを上(本当は宇宙では上も横もないが)から見ると左のような渦巻き状の構造をしている。横から見ると円盤状の形になる。太陽は中心から2.8万光年の位置にあり、約2億年の周期で銀河系の中心のまわりを回っている。その速さは220km・s-1にもなる。
直径1.5万光年ほどの中心部をバルジといい、年老いた恒星が多い。そのまた中心には恒星やガス・塵が濃厚に集まった中心核があり、強い電波を出している。銀河系の中心には巨大なブラックホール(太陽質量の106倍程度、ただし他の銀河の中心に存在しているブラックホールの質量は太陽質量の108〜1010倍程度なのでそれよりは小さい)が存在しているらしい。
円盤面も恒星や星間物質が多く存在している。上から渦を見ると、その中でも恒星の多い部分(腕)がある。太陽もその腕の一つの中にある。散開星団はこのようなところに分布している。ここには比較的若い恒星が多い。いわゆる天の川は、そうした恒星の多いところを見ていることになる。
また銀河系全体をハローが取り巻いている。球状星団はこうしたところに分布している。
国立科学博物館「宇宙の質問箱」
http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/galaxy/galaxy02.html
JAXAスペースノート
http://spaceinfo.jaxa.jp/note/ginga/j/gin102_look.html
b.さまざまな銀河
この宇宙には、われわれの銀河系以外にもさまざまな銀河存在している。形だけを見ても、棒状のもの(棒状銀河)、棒の先に腕が伸びたもの(棒渦巻き銀河)、だ円状のもの(だ円銀河)、渦巻き状のもの(渦巻き銀河)、円盤状のもの(円盤銀河)、不規則な形(不規則銀河)などである。もっとも、形はそれを見る向きに依っても変わるので、注意が必要である。われわれの銀河系も上から見れば渦巻き銀河、横から見れば円盤銀河となる。これら銀河の一つ一つが恒星の大集団なのである。
また中には衝突している銀河もある。太陽に一番近い恒星までの距離は4.4光年。これは太陽の半径の6億倍もある。だが、われわれの銀河系の近くで銀河系に匹敵する大きさを持つアンドロメダ銀河までの距離は230万光年。これは銀河系の半径の46倍でしかない。つまり、恒星どうしの距離と比べて、銀河どうしは大変に近いところにある。だから、恒星の衝突は考えられないが、銀河どうしの衝突は大いにあり得るのである。もっとも銀河どうしが衝突しても、それを構成している恒星が衝突するのではなく、銀河の衝突によって片方がもう片方に吸収されたり、あるいはお互いの形が変わったりするのである。また、銀河同志の衝突をきっかけに、恒星の誕生が盛んになったりすることがあるとも考えられている。
棒渦巻き銀河 | だ円銀河 |
円盤銀河(円盤部のガス・塵のためそこが黒い線状(エッジ)に見える。 | 渦巻き銀河 |
珍しい車輪銀河 | 銀河の衝突 |
国立天文台 天文情報センター普及室:http://www.nao.ac.jp/Gallery/index.html |
われわれの銀河系に最も近く(といっても230万光年の彼方)、大きさも同じような銀河がアンドロメダ銀河である。このように遠い天体までの距離は、ケフェイド変光星の変光周期光度関係で求める。つまり、アンドロメダ銀河のなかでケフェイド変光星を見つけることができれば、その変光周期から絶対等級がわかる。これを見かけの等級と比較することによって、距離を求めることができるのである。
このような大きな銀河には、その近くに小さな銀河が存在することが多い。この小さな銀河を伴銀河という。
下の写真ではよく見えないが、アンドロメダ銀河の中心は二重になっており(二重中心核、二重ブラックホール)、中心から円盤部に垂直に激しくガスを噴き出している。こうしたことら、アンドロメダ銀河は、その伴銀河の一つが数十億年前に衝突合体したもので、中心核の一つが中心まで落ち込んだ伴銀河のなれの果てだろうと考えられている。下のアンドロメダ銀河には、まだ衝突していない伴銀河が見られる。
アンドロメダ銀河とその伴銀河。 | アンドロメダ銀河の中心部 |
国立天文台 天文情報センター普及室:http://www.nao.ac.jp/Gallery/index.html |
われわれ銀河系も伴銀河を伴っている。これが大小のマゼラン星雲である。星雲という名が付いているが、れっきとした銀河である。だから大マゼラン銀河、小マゼラン銀河といった方がいいのかもしれない。われわれの銀河系から直径3万光年の大きさを持つ大マゼラン星雲までの距離は16万光年、直径1.5万光年の小マゼラン星雲までの距離は20万光年である。これら二つのマゼラン星雲は、日本のような北半球からは見えず、南半球からしかみえない。この二つの星雲(銀河)をヨーロッパ社会に紹介したのは、世界一周を成し遂げたマゼラン(1480年ころ〜1521年)であった。そして、この二つの伴銀河もいずれは銀河系に吸収されるだろうといわれている。また、1987年には大マゼラン星雲に超新星が出現した。
また銀河系とアンドロメダ銀河は秒速1000kmで互いの距離を縮めつつあり、このままでは30億年後に衝突する。そのとき何が起こるのだろう。
大マゼラン星雲(不規則銀河): http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap961023.html Anglo-Australian Telescope Board |
小マゼラン星雲(不規則銀河); http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap000430.html UKS Telescope |
波長21cmの電波:水素が出す波長21cmの電波ついては、裳華房の電波輝線放射(Radio Line Emission)のページ参照。
水素ガスの動き:水素ガスが、銀河系の中心(C)のまわりを下図のように回転しているとする。そのガスが出す電波のドップラー効果を見る。水素ガスがA、A'の位置に来たとき、観測者に対する速度(視線速度)が最大になる。Aでは水素ガスは観測者に近づくように動いているので、波長は短い方にずれ、その波長のずれ(Δλ(デルタ・ラムダ))は最大となる。A'では波長は長い方にずれ、その波長のずれはAのときと大きさは同じ、向きが逆になる。
水素ガスがBとB'の位置に来たときには、観測者に対する視線速度は同じ(青い矢印)になる。これはAの位置での視線速度よりも小さい。だから波長のずれもAの位置のときよりは小さくなる。またここでは、B'からの電波は途中の物質によって遮られるので弱くなっている。
A'の位置ではAと逆向きで最大になる。こうしたことを観測すると、水素ガスの動きがわかる。
こうして得られた速度分布を下に示す。中心の近くの中心から約100光年付近で最大(300km・s-1)になり、以後あまり回転の速さは変わらない。太陽系の位置ではほぼ220km・s-1(2.2×105m・s-1)である。こうした運動から、銀河系の質量を見積もってみる。
銀河系内の回転速度分布(理科年表2004)
銀河系の観測:実際には水素(中性水素原子(HI(エイチワン)))が出す電波だけではなく、一酸化炭素分子(CO)が出す電波、また分子雲(一酸化炭素、水蒸気や、水酸基(OH)、アルコールやアンモニアなど)が出す強い電波(メーザ)、また水素原子(HI)や水素原子(H2)の分布などを用いて、より詳しく正確な銀河系の構造を求めようとしている。その成果は下のサイトを参照。銀河系の形は、より正確には棒渦巻き銀河に近いともいわれている。
銀河系の3次元立体地図作成プロジェクト(VERA):http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/outline/index.html
2006年天文学会春季大会記者会見資料(中西
浩之氏、祖父江 義明氏):http://www.nro.nao.ac.jp/~hnakanis/Research/Press060326/
銀河系の質量:太陽系では太陽の引力によって惑星はそのまわりを回っている。そして太陽の引力は距離の二乗に反比例して弱くなる。だから、惑星が太陽のまわりを回る速さは、太陽から遠い惑星ほど遅い。厳密にいえば、惑星の公転速度は太陽からの距離の平方根に反比例する(ケプラーの第3法則より)。
ここでは単純に、銀河系に対してケプラーの第3法則を当てはめてみる。すると、太陽を基準にした銀河系の質量を求めることができる。考え方は、連星系の質量の求め方と同じである。
太陽の位置は、銀河系の中心から2.8万(2.8×104)光年。1光年は光(3.0×108m・s-1)が1年(3.16×107s)かかって進む距離=9.5×015m。また1AU(天文単位)は地球−太陽間の距離(1.5×1011m)を1とする単位だから、1光年=6.3×104AU。つまり、太陽は銀河系の中心から2.8×104×6.3×104AU=1.8×109AUのところを回っていることになる。
また太陽は、銀河系の中心を中心とした半径2.8×104×9.5×1015mの円周=2π×2.8×104×9.5×1015mを、速さ2.2×105m・s-1で回っているので(水素ガスの動き参照)、1周に要する時間は(2π×2.8×104×9.5×1015m)÷(2.2×105m・s-1)=7.6×1015s。つまり2.4億年(2.4×108年)の周期で回っていることになる。
つまり、銀河系は太陽の質量の1000億倍もの質量、すなわち太陽程度の恒星が1000億個も集まってできていることになる。
しかし、上に書いたように銀河系の回転は中心から遠ざかっても遅くなっていかない。これは太陽系では惑星の質量は無視できて、太陽系の質量=太陽の質量と考えるてよいこととは違い、銀河系では中心部以外の質量を無視できないということを示す。
最近の研究(国立天文台・天文ニュース515(2002年1月24日))では、銀河系の質量は太陽の約2兆倍にもなるという。しかし、それ見合うだけの恒星や星雲は観測されていない。つまり見えない質量(ダークマター)がたくさん存在していることになる。
宇宙航空研究開発機構の「オンライン・スペースノート」:http://spaceinfo.jaxa.jp/note/note_j.html