第1章 生命の誕生
目次 | ||
1. | 生命の誕生 | |
a.生命とは何か | ||
b.化学進化(分子進化) | ||
c.生命発生のシナリオ | ||
d.生命誕生の痕跡 | ||
用語と補足説明 | ||
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1.生命の誕生
a.生命とは何か
生命を定義するのは難しい。生命の定義を考えるより、生命を研究する方が簡単だともいわれている。ここでは、あまり難しく考えず、漠然としたイメージの生命を考える。その特徴を列挙していくと、炭素を鎖として使っている高分子(有機物)で体をつくり、膜で外部(外界)と内部をわけ、外界との物質のやりとりをして内部の環境をほぼ一定に保つことができる(代謝)、化学反応のエネルギーを利用する、化学反応の場として液体の水が必要である、さらに自己増殖をする、ということであろうか。ここではウィルスはどうかなどはとりあえず考えないでおく。
木星の衛星エウロパの氷の下には、ほぼ確実に液体の水がある。生命が存在しているかもしれない。また、土星の衛星タイタンの表面には水ではないが、液体(おそらくメタン)が存在していることも明らかになった。ここにも生命が存在しているかもしれない。もっとも水の代わりにメタンを使う生物など、どのような生物になるか想像もつかないが。将来、こうした場所、あるいはほかの場所にでも生命が見つかったら、生命とは何かということに対する理解が深まるだろう。
b.化学進化(分子進化)
原始地球の原始大気、あるいは原始海洋のなかで生命は誕生したと思われる。その前段として、自然界の中で簡単な分子から高分子が合成されていったのだろう。これを化学進化(分子進化)という。高分子の中には生物の体を作るたんぱく質の構成要素であるアミノ酸も含まれる。
すでに1920年代に旧ソ連(ロシア)のオパーリン(1894年〜1980年)はこうした考えを発表している(1922年の講演、1936年の論文「生命の起源」)。彼は自然に無機物からできた有機物が、原始の海で濃厚な「有機物のスープ」をつくり、その中でアミノ酸、核酸、さらにはたんぱく質ができてくる。そのたんぱく質は膜を持った粒状の組織となり(オパーリンはコアセルベードと名付けた)、それがそのうちに自己増殖の能力を持つようになったと考えた。こうしたオパーリンによる、生命の発生に至るまでの基本的な考え方は今日も変わっていない。しかしもちろんまだ、実験室で生命をつくることはできていない。
現在、世界最古の岩石は、カナダのスレイブ地域のアカスタ片麻岩(花こう岩質片麻岩)で、その年代は約40億年である。また世界最古の鉱物は、西オーストラリアのジャック・ヒル地域から採集されたジルコン(ZrSiO4)で、その年代は44億年前という。これらの岩石・鉱物から、当時すでに海が存在していたらしいことがわかるといわれている。
こうしたことから、40億年前にはすでに現在の海水とほぼ同じ組成の海、また、酸素がないことをのぞけば現在の大気組成と変わらない大気がすでにあり、その中で分子進化が起き、さらにはいつのころかはわからないが、35億年前以前には生命が誕生していたと考えられる。
かつては、原始大気はメタン(CH4)やアンモニア(NH3)を主成分とするいわゆる還元的な大気と考えられていた。こうした還元的な大気を想定した有機物の合成実験を初めて行ったのがミラーで、1953年のことであった。彼は下に示した簡単な装置で実験をした。水の入った下のフラスコが原始海洋、上の大きなフラスコが原始大気、火花放電は化学反応を起こさせるためのエネルギー源で、自然界での雷を想定している。このような状態で1週間後には、グルシン、アラニンなどのアミノ酸を含むいろいろな種類の有機物が合成されることを確認した。
現在は原始地球の原始大気としてこれほど還元的なものは想定されていない。だが、ミラーの実験が無意味だったわけではもちろんない。生命の体を作るもととなる有機物(アミノ酸)は簡単に合成されることを示したのである。そういう意味でこれは衝撃的な実験だったのだ。今日においても、「生命体の基本素材は比較的容易に得られる」という基本的な結論は揺らいでいない。
その後、現在考えられているような二酸化炭素や窒素を主成分とする大気内で、またとくに火花放電などいうエネルギー源を想定しない(粘土鉱物などを触媒として利用する)など、あるは深海の熱水の噴出ブラック・スモーカーのような場所などのさまさまな環境を想定し、そうした環境でのアミノ酸の合成実験が行われている。
生命の材料の供給源と有機物生成のエネルギー源として考えられているもの。
「地球惑星科学入門」(岩波講座地球惑星科学1、1996年)の図4.1をもとに作成。
原始大気、すい星、微惑星、超新星、宇宙線、太陽、火山(火山ガス)、ブラック・スモーカーはそれぞれを参照。
最近注目されているのは、上の図の海底熱水噴出孔(ブラック・スモーカー)である。深海での圧力のために100℃以上になっている熱水(200℃〜350℃)が噴き出ている場所である(熱エネルギーが供給される)。この熱水噴出孔からはメタン、水素、硫化水素、アンモニアなどのガスが噴き出している。また、鉄、マンガン、銅、亜鉛などの金属イオンもたくさん噴き出てくる。こうした環境は有機物の合成に有利な場所であり、このような場所が生命発生の場所の一つの有力候補となっている。
いずれにしても、生命は原始の海で誕生したのだろう。じっさい、人体が利用している元素は地球表層の元素よりも海水の組成に似ている。地球表層に多いSi(ケイ素)やAl(アルミニウム)は、人体ではあまり使われていない。下の表では海水中の5位の元素であるMg(マグネシウム)が人体に入っていないように見えるが、人体では11位である。逆なのがP(リン)である。人体中では6位であるが、海水中の濃度は低い。Pは水中では安定なリン酸イオンとなり、DNA、RNA、さらには生物の体内でのエネルギー源ATP(アデノシン三リン酸)に使われている。その利用しやすい化学的な性質が使われているわけだ。
含有量順位 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
人体 | H | O | C | N[ | Ca | P | S | Na | K | Cl |
海水 | H | O | Cl | Na | Mg | S | Ca | K | C | N |
地球表層 | O | Si | H | Al | Al | Ca | Fe | Mg | K | Ti |
原始大気や原始海洋の中から、(1)反応活性物質といわれるシアン化水素、ホルムアルデヒドなどができる、(2)反応活性物質からアミノ酸、核酸塩基、糖、脂肪酸、炭化水素などができる、(3)これらからたんぱく質、核酸、多糖、脂質などの高分子ができる、(5)これらが集合・作用しあって(自己組織化)、代謝、複製機能を持つ原始生物が誕生する。
最初の生物はRNAを利用しいたらしい(RNAワールド)。RNAには自己を複製する能力がある。またRNAは遺伝情報を伝えることができるばかりではなく、たんぱく質の合成の触媒にもなれる。現在でも、メッセンジャーRNA(mRNA)が遺伝情報を伝達し、トランスファーRNA(tRNA)がその指示に従ってアミノ酸を運び、リポゾームRNA(rRNA)がたんぱく質を合成しているのである。自然界で、RNAとたんぱく質のどちらが先にできていたかはわからないが、お互いに利用しあって(いわば分子レベルの共生を行って)、より高度な触媒機能を持った酵素を作っていったのだろう。
そのうちに、RNAより安定性の高い、すなわちより分解されにくい、また自己修復能力を持ち、2本鎖(1本鎖のRNA現在より安定)のDNAが利用されるようになった。そして現在の大多数の生物の情報伝達の道筋、DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→たんぱく質という、いわゆるセントラルドグマが完成したのだろう。DNAを作り出す能力を持つレトロウィルスは、RNAワールドから現在のDNAワールドへの移行期の化石的なものなのかもしれない。
いずれにしても、たんぱく質のもととなるアミノ酸を指定する言葉(暗号、コドン)が、現在のどの生物でも同じというじということは、われわれ地球上の生物は、遠い昔に共通の祖先(単一の祖先)を持っていたということを強く示唆する。
もう一つこれを示唆するのが、アミノ酸の構造である。同じ構成要素を持っているアミノ酸の中には、その立体的な構造がちょうど右手と左手の関係(鏡に映した関係=鏡像)になっているものがある。そのタイプによってL型、D型という。化学的な性質は同じはずなのに、なぜか地球の生物はL型のアミノ酸しか使っていない。じっさい逆に、宇宙起源のアミノ酸、例えば炭素質コンドライト(いん石の一種)から検出されるアミノ酸は、L型もD型も含んでいる。
d.生命の誕生の痕跡
では、このように考えられている分子進化から生物進化への証拠はあるだろうか。残念ながら、現在発見されている世界最古の岩石は40億年前のもので、しかもかなり強く変成作用を受けているので化石は残っていない。
世界最古の堆積岩はグリーンランドのイスア地域のものである。堆積岩があったということは、当時すでに堆積物が堆積する海があったということである。イスア地域にはれき岩もあり、そのれき(礫)の種類からさらには大陸地殻もあったともいわれている。またイスアに分布する縞状鉄鉱床は生物の働きでできたともいわれているが、はっきりとした化石は出てきていない。
はっきりとした最古の生物化石いわれるものは、西オーストラリアのビルバラ地域で発見された35億年前の微生物の化石である。この生物は、浅海で光合成を行っていたシアノバクテリア(「ラン藻」ともいわれるが植物の「藻」(も)の仲間ではなく、もっと単純な真正細菌というドメインに属する生物である)と思われていたが、最近の研究では海底熱水噴出孔(ブラック・スモーカー)近くにすんでいたらしいということになってきている。
ただ、こうした化石様の形から、それが微生物の化石であるとは断定できない。偶然にそのような形がつくられたかもしれないからだ。だから最近ではこうした化石ごくわずかに残っている有機物を取り出すこともしている。そうした有機物からも確かにこれは生物起源らしいということになってきた。
南アフリカの35億年前の地層からも同じような、生物の痕跡が認められる。だがこれらは、生物が35億年前に発生したということではない。地球上の別な場所で発生した生物が、35億年前にオーストラリアや南アフリカに侵入したという可能性もある。つまり、生物は少なくとも35億年前にはいたということになる。だから、生物の発生はそれ以前のはずである。
西オーストラリア、ビルバラ地域の微生物らしい化石を含む35億年前の岩石 http://www.earth.ox.ac.uk/research/geobiology/geobiology.htm |
これが最古の微生物の化石らしい、長さは0.06mm。 http://www.earth.ox.ac.uk/research/geobiology/geobiology.htm |
有機物:炭素化合物。ただし、二酸化炭素や一酸化炭素、また炭酸塩(CO32-)化合物(炭酸カルシウムなど、鉱物としては方解石、CaCO3)は含まない。有機物には炭素が鎖のようにつながっている鎖式(脂肪族)と、環状につながっている環式があるが、生物の体は鎖式(脂肪族)の有機物である。環式の中にはベンゼン環を持つ芳香族があり、これは一般に生物にとっては毒である。また生物起源のアミノ酸はL型のものである。
ベンゼン環:6つの炭素(C)が6角形状に結ばれている、いわゆる“亀の甲”で表せる。猛毒で有名なダイオキシンもベンゼン環からなる。
生命の起源宇宙説:生命の材料となった有機物は宇宙で合成され、それがいん石などにより持ち込まれたという研究者はかなりいるらしい。実際に炭素質コンドライトには有機物が含まれている。また、確かに還元的な大気の方がアミノ酸の合成には有利な面もある。さらに生命そのものも宇宙で誕生して、いん石などによって地球の持ち込まれたという考えもある。これをパンスペルミア説(panspermia、panは汎、spermは精子、汎胚種説)という。だが、その宇宙の生命はどうやって誕生したのか。どこかで発生したに違いない。結局は分子進化から生命の誕生を考えなくてはならない。
アミノ酸:アミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)を含む有機物。一般式はRCH(NH2)COOHで、Rにはいろいろなものが入る。構造式は下の通り。
たんぱく質を構成するアミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンの20種類である。
アミノ酸を合成できる植物や微生物と異なり、動物はすべてのアミノ酸を合成できるわけではないので、食べ物として取り入れる必要がある。これが必須アミノ酸である。ヒトの場合、リシン、トリプトファン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トレオニン、メチオニンの8種類である。ただし、小児期の成長にとって不可欠なヒスチジンやアルギニンも子供は十分に合成できないので、準必須アミノ酸とされる。
たんぱく質:一つのアミノ酸のアミノ基(−NH2)と、別のアミノ酸のカルボキシル基(−COOH)が、水(H2O)が抜ける形で(脱水反応という)、−NH2+COOH−→CONH(+H2O)という形でつながる。これをペプチド結合という。そしてこのアミノ酸とのアミノ基(−NH2)と、別のアミノ酸のカルボキシル基(−COOH)がペプチド結合してという具合につながり、長い鎖状の化合物となる。10個以上のアミノ酸がつながったものをポリペプチドといい、これがたんぱく質をつくる。たんぱく質の中には1本のポリペプチドからできているものもあるし、折りたたまれた複数のポリペプチドが弱い分子間力で結ばれているたんぱく質もある。
核酸:核酸は細胞内に存在している。核酸には、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の2種類がある。DNAはたんぱく質の情報と遺伝情報を司り、RNAはたんぱく質合成を司る。ただし、ウィルスの中にはRNAを使って遺伝情報を伝えるものもある。遺伝とは親の形質を子孫に伝えることである。
DNA:DNAの構造はアメリカのワトソン(1928年〜)とクリック(1916年〜)によって明らかにされた(1953年)。それによると、DNAはヌレオクチドと呼ばれる有機化合物がつくる2本の鎖がらせん状にねじれてできている。一つのヌレオクチドには、デオキシリボースという糖分子が1つ、リン酸基が1つ、それに、4つの塩基アデニン(Aと省略される)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)のうち一つを含む。デオキシリボースとリン酸が長くつながり1本の鎖をつくり、隣の鎖とは塩基同士がつながる。塩基のつながりは必ず、アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)という組み合わせになる。必ずつながるペアが決まっているということは、たんぱく質の合成や遺伝にとっては重要な意味がある。
実際、この塩基が3つで一つのアミノ酸を指定する。たとえば、GAC(グアニン、アデニン、シトシン)はアミノ酸ロイシンのを指定し、CAG(シトシン、アデニン、グアニン)はアミノ酸バリンを指定する。こうしたヌレオクチドがつくる暗号をコドンという。コドンは4種類のアミノ酸を3つ並べてできるので43=64種類ある。たんぱく質をつくるアミノ酸は20種類しかないので、3つの塩基の組み合わせで十分なのである。実際は異なるコドンで同じアミノ酸をしていているものもある。あと、長いDNAの鎖の中で、ここから情報が始まるという開始コドン、ここで終わりという終了コドンもある。つまり、開始コドンから、終了コドンまでを読めばアミノ酸の並び、すなわちたんぱく質の種類がわかることになる。
DNAの模式図。二重らせんをつないでいる塩基は4種類(4色)。ペアが決まっていることに注意。
RNA:RNAもDNAと同じようにヌレオクチドがつながってできている。一つのヌレオクチドは、デオキシリボースが1つ、リン酸基が1つ、4種類ある塩基のうちの一つからなっている。この4つの塩基とはアデニン(A)、グアニン(G)、ウラシル(U)、シトシン(C)である。つまりDNAのチミン(T)の変わりにウラシル(U)になっている。また、デオキシリボース(糖分子)も、RNAは酸素原子を含んでいるが、DNAは含んでいない。
細胞中のRNAは1本鎖である。このRNAには3種類ある。メッセンジャーRNA(mRNA)は、DNAの配列(アミノ酸→たんぱく質・遺伝情報)を読み取る(コピーを取る)。このとき、塩基のペアが決まっているので、DNAを鋳型としてmRNAが転写によってつくられる。トランスファーRNA(tRNA)は、特定のアミノ酸をたんぱく質合成の場(リポゾーム)に運ぶ役割を持っている。tRNAはmRNA上のコドンと結合することによって指定されたアミノ酸を読み取り、そのアミノ酸をリポゾームに運ぶ。たとえば、mRNAにアデニン(A)—ウラシル(U)—グアニン(G)というコドンがあれば、そこにウラシル(U)—アデニン(A)—シトシン(C)のアンチコドンをもつtRNAが結合し、このtRNAはアミノ酸のメチオニンと結合するので、そこにはメチオニンが運んで来る。リボソームは3つのリボソームRNA(rRNA)と50数種類のたんぱく質からなり、mRNAのたんぱく質・遺伝情報を読みとり、そのコドンの配列にしたがってtRNAがはこんできたアミノ酸をならべてつないでいく。こうして指定されたたんぱく質をつくっていく。
ウィルスの中には、DNAのようにヌレオクチド鎖が塩基の対(アデニン(A)とウラシル(U)、または、グアニン(G(とシトシン(C))をつくりつながっているものがある。このRNAの複製はDNAの複製のように、1本ずつに別れたヌレオクチド鎖が塩基を介して相補的(鋳型と鋳物の関係)なもう1本をつくることになる。
しかし、1本鎖で遺伝情報を伝えるウィルスもある。ひとつはポリオウイルスなどのウイルスで、宿主細胞に入ると、まず自分のRNA鎖と相補性のあるRNA鎖をつくって2本鎖となる。このうち新しくつくられたRNA鎖だけがさらに相補性のある塩基をもつヌクレオチドをひきつける。つまり、この複製でつくられるポリヌクレオチド鎖は、最初のRNA鎖とまったく同じものとなる。
もうひとつの1本鎖RNAウイルスは、レトロウイルスといわれるものである。エイズ(AIDS)の原因であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)や、白血病をひきおこすウイルスなどがそれである。レトロウイルスは宿主細胞に入ると、宿主細胞のDNAヌクレオチドを使い、自分のRNA鎖と相補性のあるDNA鎖をつくる。この新しい複製された二重らせんDNA鎖は宿主細胞の染色体に組み込まれる。つまり宿主の染色体の中で、この二重らせんは宿主のDNAとともに複製される。宿主細胞の中でRNAからつくられたウイルスDNAはやがて1本鎖RNAウイルスをつくり、このRNAウイルスは宿主細胞を出てほかの細胞の中に入る。非常に巧妙に、DNAに寄生している形をとっている。
アデノシン三リン酸(ATP):細胞(真核細胞)が利用しているエネルギー源。細胞の中のミトコンドリアとよばれる器官で、ブドウ糖を原料にしてつくられる。植物は光合成でATPをつくることができる。
遺伝:親から子へと形質が伝わっていく。この遺伝を担うのが染色体で、その実体がDNAである。有性生殖を行う生物では、染色体は偶数あり(ヒトでは22対+性染色体XYの23対=46本)で、細胞分裂時にこの対が分裂して相補的なコピーをつくる。生殖時は、分裂した片方だけ(23本)が精子・卵子に入り、受精してもとの23対(46本)に戻る。つまり、子供は両親からその半分ずつの遺伝情報を受け取っている。
ポリオ:かつては小児麻痺といわれていた病気。実際、感染するのは5歳〜10歳くらいの子供が多い。口から入ったポリオウィルスが中枢神経を冒す。4日〜1カ月の潜伏期間のあと、疲れ、頭痛、発熱、嘔吐、便秘、首のこわばりなどの症状があらわれる。下痢や手足の痛みがみられることもある。治癒しても、筋肉の動きを調節する神経細胞が冒されると後遺症として麻痺が残ることがあるため、非常に恐れられた。今日でも特効薬はないが、ワクチンで一生予防できる。日本では現在発病の報告はない。
エイズ:後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome→AIDS)。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染したために、免疫系の働きがそこなわれる病気である。HIVは長い潜伏期間の後、細菌やウイルスに対する感染防御機構をになう重要な免疫細胞Tリンパ球(ヘルパーT細胞)を冒し、そこでどんどん増えて、免疫系を破壊していく。そのため、ガンや、健康ならば発症しない細菌による肺炎などのいわゆる日和見(ひよりみ)感染症になる。
現在のところ根本的な治療薬はない。しかし、発症を遅らせることはできるようになってきた。しかし、そうした薬の入手が難しい開発途上国では事態は深刻である。国連の2003年12月の推計によれば、全世界のHIV感染者は約4000万人(3600万人〜4600万人)。そのうち、サハラ以南のアフリカで2500万人〜2820万人の感染者がいるという。成人の約40%が感染しているといわれている国もある。南アジアから東南アジアにも460万人〜820万人の感染者がいるという。日本は先進国の中で唯一感染者が増えている国であり、現在12000人の感染者がいるとという推計がある。
感染経路は3つある。ウィルスは血液や精液に多く含まれるので性行時の感染。もう一つがHIVを含む血液を輸血、あるいはそうした血液から作られたた血液製剤による感染。とくに日本ではHIVウィルスを破壊できた加熱製剤を使う以前(1985年以前)の血友病患者に多くの感染者を出している。もう一つの経路が妊娠中や授乳中に母から子への感染である。
免疫:特定の病原体やその毒素(抗原)に対して、生体は発病を押さえるような仕組みを持っている。これを免疫という。免疫は、抗体が抗原と反応(抗原抗体反応)して、抗原の作用を押さえる。過剰な反応をアレルギーという。自己と他者を区別する働きでもある。「読書」の<新・免疫の不思議>参照。
血友病:出血時に血液を固める働きがある凝固因子を先天的に欠く病気。伴性劣性遺伝病である。XYの性染色体(性を決定する、XYの組み合わせであれば男性に、XXの組み合わせだと女性になる)のうちXに乗っているので、男性(XY)はそのXに遺伝因子があれば発症し、女性はXXの両方に因子が乗っていないと発症しない(片方だけならその遺伝を伝えるキャリアになる)。イギリスのビクトリア王家からスペインやロシアの王家に持ち込まれたこともある。
血友病患者に対して、凝固因子を入れるために血液製剤が使われる。その血液製剤にHIVウィルスが紛れ込んでいたのである。
世界最古の岩石:名古屋大学年代測定総合研究センターの「世界最古の岩石」参照。なお、岩石は鉱物の集合体である。
世界最古の鉱物:岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)の「全地球史ナビゲーター」(ログインが必要)参照。
世界最古の堆積岩:岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)の触れる地球コンテンツ(ログインが必要)
ミラーの実験:1953年当時、ミラーはアメリカのシカゴ大学の大学院生で、地球化学者ユーレイ(ユーリー)の指導の元にあった。だからこの実験は二人の共同実験で、ユーレイ・ミラーの実験ということもある。ユーレイは、原始地球の大気を還元的なものと考えていたので、ミラーもそれを採用したのである。
有機物の合成:かつて有機物は、生命の神秘的な力で持ってしか合成されないと考えられていた。しかし、1828年にドイツのウェーナーによって尿素が合成された。だがその後も何となく、生命の体に直結するアミノ酸の合成は難しいと思われていたようだ。それが上のミラーの実験のような簡単な装置で、しかもわりと短時間で合成できることがわかった。
尿素:ヒトやほ乳類の尿中に含まれる。化学式はCO(NH2)2。現在ではアンモニア(NH3)と二酸化炭素(CO2)を直接反応させて合成する。窒素の含有量が多いので化学肥料の原料となる。また肌の潤いを保つので、ハンドクリームなどにも利用されている。
L型、D型:下にアミノ酸の一種、アラニンを示す。平面という二次元構造の世界を考えると、L型、D型は同じ構成要素を持っているが、この平面内ではどのように回転・移動しても重ならないことがわかる。ただ、3次元的にパタンと折り返せば重なる。実際のアラニンは、細い三角(H2Nがついている)が手前に、点線(Hがついている)が後ろにという立体的な構造をしてるので、パタンと折り返しても重ならない。ちょうど、親指から小指までという同じ構成要素をしている左手と右手のような関係である。つまり、この3次元空間の中では重ならない(4次元的にぱたんと折り返せば重なる?)。
この両者の化学的な性質は同じである。だから生物はどちらを使ってもよかったはずなのに、L型のアミノ酸だけを使っているのである(ごく一部にD型のものも使われている)。もっとも、立体的な配置が違うので、例えば生物の消化酵素などは片方(L型)のアミノ酸を使ったたんぱく質しか消化できない。もし宇宙生物がいて、その宇宙生物がたまたまD型のアミノ酸を使って進化してきたものならば、そこでできた食料はいかにおいしそうであっても、われわれには消化できないであろう。
地球上の生物が合成し、利用しているのはL型のアミノ酸である。しかし、人工的にアミノ酸を合成すると、ふつうは両方のタイプのアミノ酸ができてしまう。
なお、L型を左旋性、D型を右旋性ということがある。これは、この二つのタイプが偏光に対し、その偏光した光の振動面を左に回転させるか、右に回転させるかという違いがあるのである。このように、光(偏光)にたいする性質が異なり構造が鏡に映した関係なので鏡像異性体(光学異性体)ともいう。
不斉反応:2001年にノーベル賞を受賞した野依良治(のよりりょうじ)氏の業績は、このL型、D型を選択的につくる方法を見つけたことである。同年のノーベル化学賞は、同じ業績でほかに2名の受賞者を出している。
生命起源の有機物:上に書いてきたように、化石に含まれる、つまり微化石が残した有機物が鎖式(脂肪族)のものであるかどうか、あるいはアミノ酸であればL型であるかどうかなどを調べる。さらにごくわずかに残っている有機物にレーザを照射して炭素を取り出し、炭素の同位体比を調べることもしている。
炭素の同位体比:炭素の同位体には炭素13(13C、原子核に陽子6個、中性子7個、電子は当然6個)もある。生物は、とくに光合成を行うときには、少し重い13Cよりも、ふつうの12C(陽子6個、中性子6個、電子6個)を多く取り込むことが多い。そこで生物の体の中の炭素の同位対比を調べると、13Cが標準的な割合よりも少し少なくなっている。その比は(デルタ13C)という式で求めることが多い。ここで、δ13Cは千分率(‰、パーミル)を使う。だから、生物起源の有機物中の炭素(C)のδ13Cの値はマイナスになるのである。
ミトコンドリア:細胞内(真核細胞)の小器官。細胞が活動するためのエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を、糖や脂肪などを原料につくっている。ミトコンドリアが糖からATPをつくる過程で、酸化還元反応が頻繁におこなわれるる。言葉を変えていえば、酸素を利用してエネルギーを得ている器官、つまり細胞レベルの呼吸を司っている器官である。また、ミトコンドリアはそれ自身のDNAを持ち、また母方からしか伝わらないという性質がある(受精するときに精子がその尻尾に持っているミトコンドリアは外に取り残される)。だから母方の祖先を追うことに利用されたりもする。
動物の細胞 かたい細胞壁がなく、外界と物質の出し入れができる。つまり、食糧を外から取り入れることができる。 |
植物の細胞 | ミトコンドリア |
岐阜大学教育学部地学教室:全地球史ナビゲーターhttp://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/dem/weh/index.html(ログインが必要)