第一部−2− 宇宙の科学

このページの目次
第3章 太陽(4)
5.太陽のエネルギー源
a.いろいろなエネルギー源
b.太陽の核反応
6.太陽の寿命
用語と補足説明
参考になるサイト

第3章 太陽

5.太陽のエネルギー源

a.いろいろなエネルギー源

 太陽の質量1kgが毎秒放出しているエネルギーは2×10-4J・s-1・kg-1である。太陽の年齢を50億年と考えると、1年=3.16×107sなので50億年は50×10×3.16×107s、だから、太陽の質量1kgはすでに、

 2×10-4J・s-1・kg-1×50×10×3.16×107s = 3×1013J・kg-1

 のエネルギーを出していることになる。これだけのエネルギーを供給できる反応を考えてみる。

 まず一番身近な、ものが燃えるというような反応がある。これは原子の一番外側の電子のやりとりの際に生ずるエネルギーで、化学反応のエネルギーである。化学反応のエネルギーでは109J・kg-1のエネルギーしか出すことはできない。これではとても足りない

 高いところから水を落として電気エネルギー(最終的には熱エネルギーになる)を得ることができる。これが重力エネルギー(位置エネルギー)である。太陽のようなガス体では、縮むときに重力エネルギーが解放されて熱を出す。これによって出すことのできるエネルギーは2×1011J・kg-1である。化学反応のエネルギーよりは大きいが、太陽を50億年間もの間輝き続けさせるのにはまだ圧倒的に小さい。ただし、この重力のエネルギーは太陽(恒星)の始まりのころ(原始星のころ)には重要な役割を果たしている。

 ウランやラジウムのような放射能を持った物質は、放射線という形でエネルギーを出している。このエネルギーは1013J・kg-1である。オーダーとしてはかろうじて説明できる。つまり過去には太陽の放射エネルギーの放出量が低かったとすればよい。だが、こうしたウランやラジウムは重い(密度が大きい)元素である。ところが、太陽の密度は1.41×103kg・m-3と小さい。だから、太陽にはウランやラジウムという元素はほとんど含まれていないことになり、放射能のエネルギー源にはならないことがわかる。

 最後に残るのは、原子核そのものが反応する原子核反応である。原子核反応には、重い原子の原子核が分裂するときにエネルギーを出す核分裂反応と、軽い元素の原子核が融合するときの核融合反応がある。核反応では6×1014J・kg-1のエネルギーを得ることができるので、これにより初めて太陽のエネルギー源が説明できる。

 太陽のエネルギー源は、水素の原子核がヘリウムの原子核になる反応である。

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b.太陽の核反応

 太陽が行っている核融合反応は、4つの水素(H)の原子核が融合して、1つのヘリウム(He)の原子核になるというものである。

 4H → He
 (1.008kg)→(1.001kg)

 化学反応では反応の前後で物質の質量は変わらないが、核反応では反応後の物質の質量が小さくなる。この失われた0.7%の質量が莫大なエネルギーに転換するのである。

 太陽は毎秒5.64×1011kg(5億6400トン)の水素を反応させて、全体で約4×1026J・s-1のエネルギーを出している。これは広島型原爆5兆個分のエネルギーになる。地球が受け取っているエネルギーはその約20億分の1である。 

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6.太陽の寿命

 太陽の質量は2.0×1030kgであった。上に書いたように、核反応では質量1kgで6×1014J・kg-1のエネルギーを得ることができるので、太陽は潜在的に2.0×1030kg×6×1014J・kg-1=1.2×1045Jのエネルギーを持っていることになる。そして、太陽は毎秒4×1026J・s-1のエネルギーを放出している。だから太陽の寿命は単純に考えると、(1.2×1045J)÷(4×1026J・s-1)=3×1018sということになる。1年=3×107sなので、これは1011年(1000億年)ということである。

 実際には太陽の質量のすべてが核反応を行うわけではないので、太陽の寿命はその10分の1の100億年程度と考えられている。現在の太陽の年齢は約50億年と考えられているので、いまやっとその半分、だから我々が生きている間に太陽の寿命が尽きるおそれはまったくない。

 ただし、あと30億年くらい立つと太陽は巨星へと進化して、地球の軌道も太陽に飲み込まれてしまうかもしれない。恒星の進化については、宇宙の科学の第3章 銀河と恒星の歴史(2)の<2.恒星の進化>を参照。

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用語と補足説明

ヒトの放射エネルギー体重50kgの人が1日2000kcal(基礎代謝量? 昔いわれていた2500kcal/人・日は食べ過ぎらしい? 1cal=4.2J)必要とすると、つまり1日で8.4×106Jを入出力しているとすると、その人の1kgは1秒間で1.9J/秒・kg(約2.0J/秒・kg)の熱を放出していることになる。これはじつに太陽1kgあたりのエネルギー放射量2×10-4J・s-1・kg-1の1万倍にもなる。

 もちろんこれは一種の数字のトリックで、まずヒトは食べ物を外から取り入れてそれをエネルギー源にしているのに対し(開放系)、太陽は自分自身ですべてをまかなっている閉鎖系という違いがある。さらに、ヒトは全細胞でエネルギーを出しているが、太陽の質量のうちエネルギーを生産しているのはごくわずかででしかない(1秒あたりでは4.4×109kgが核反応を行っていることになる。これは全太陽質量の3.2×10-19倍。)

 食べ物だけを考えて、デンプン(食糧)が1gで4kcal(1.9×107J/kg)とすると、1日2000kcal (8.4×106J)を得るためには0.44kgのデンプンが必要である。ヒトが100年 (3.7×104日)生きたとすると、一生の間に食べるデンプンは1.6×104kgになる。さらに、デンプンの分解を〔C6126+6O2→エネルギー〕と考えると、 デンプン1mol(180g)を酸化させるためには酸素6mol(192g)が必要。つまり、デンプンの質量 の約1.1倍の酸素が必要となる。だから、ヒトの一生の間に使われる酸素は 1.8×104kg。デンプン+酸素では約3.4×104kg。 つまり体重50kgの人の一生では、その680倍もの質量のデンプン+酸素が 体を通過することにる。

 ヒトの一生を100年と考えると、発熱量は8.4×106J・人-1・日-1×3.7×104日=3.1×1011J・人-1。しかし体重50kgといっても、デンプン+酸素も考えないと意味はないので、上で考えたように質量は3.4×104kgとしなくてはならない。だから、単位質量当たりの放射エネルギーは9.1×106J/kgとなる。化学反応の上限では上に書いたように 109J・kg-1といわれているので効率は約1/100、これはそれほど悪くない効率だともいえる。

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太陽が行っている核反応水素の核融合反応には2種類ある。そもそも、お互いにプラスの電荷を持っている原子核どうしが近づけば、その電気的な反発力でお互いをはじいてしまう。だから、それ以上の力で原子核を近づけなくてはならない。一つは、温度を上げて原子核の運動の速さを速くして原子核どうしを衝突させるという方法、もう一つは原子核の密度を上げて衝突しやすくするという方法である。人類が目指している核融合反応は、1億K以上の高温を何らかの方法で作り核融合を起こさせようとするものである。一方、太陽の中心部は1500万K程度でしかないが、密度が非常に高い(156×103kg・m-3程度と考えられている、これは鉄の密度(7.7×103kg・m-3)の20倍にもなっている)で核融合反応が起きている。

 太陽が行っている核融合反応は“p-pチェーン”と呼ばれるもので

1.2個の陽子(p)がぶつかって、陽子と中性子からなる重水素(pn)になる。このとき、陽電子(e+)とニュートリノ(ν)が出る。スーパーカミオカンデは、このとき発生するニュートリノを捉えようとするものである。

  p + p → pn + e+ + ν

 陽電子(e+)はまわりにたくさん存在しているふつうの電子(e-)と反応して、エネルギー(熱)となって消滅する。ニュートリノはそのまま宇宙に出ていく。


2.重水素(pn)に陽子(p)がぶつかって融合してヘリウム3(ppn)になる。このときγ(ガンマ)線も出る。

 pn + p → ppn


3.ヘリウム3(ppn)同士が衝突してヘリウム4(ppnn、普通のヘリウム)になる。 

 ppn + ppn → ppnn + p + p

 結局、4つのp(水素の原子核)が融合して、一つのppnn(ヘリウム原子核)になっている。なお、ヘリウム3、ヘリウム4についてはこちらも参照

 このとき一つ一つの反応は、温度が2倍になると速さが2倍になる。第1段階で2倍になると重水素(pn)が2倍できる。第2段階で材料のpnが2倍できて、反応の速さも2倍なのだから4倍、第3段階で4倍どうしになったヘリウム3(ppn)どうしが、2倍の速さで反応するので4×4×2=32倍。つまり、温度が2倍になるとp-pチェーンの反応の速さは32倍にもなる。


p-pチェーン

 重い星ではCNOサイクルといって、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)を触媒のように利用して水素をヘリウムに変える反応が起こっている。CNO反応の方が多くの段階を経てpがppnnに変わるので、温度にはp-pチェーンよりも敏感である。2000万度以上はCNOサイクルのほうがpp連鎖反応より盛んになる。

CNOサイクル

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質量とエネルギー質量とエネルギーが等価であるということは、アインシュタイン(1879年〜1955年)が1905年に発見した。このとき、エネルギー(E)、質量(m)、真空中の光速度(=3.0×108m・s-1)の間には、下のような関係がある。

 E=m2

 上のように、約1kgの水素の原子核がヘリウムの原子核になるととき0.007kgの質量が失われ、それがエネルギーになる。

 E=0.007kg×(3.0×108m・s-12 → E=6.3×1014J (J=N・m N=m・kg・s-1 だから J=m2・kg・s-2

 つまり、1kgの水素は核反応で6.3×1014Jのエネルギーを出せることがわかる。

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