第11章 変成岩と変成帯
1.変成作用と変成岩
熱や圧力のため、一度できた岩石が融けないままに鉱物や組織が変化して別の岩石になることがある。この作用を変成作用といい、変成作用でできた岩石を変成岩という。ただし、続成作用との境界はあいまいである。たとえば泥→泥岩→頁岩(けつがん)→粘板岩→千枚岩→結晶片岩→片麻岩→花こう岩と岩石が変化していくときに、どこまでを続成作用といい、どこから変成作用というかの合意はない。すなわち、粘板岩や千枚岩を堆積岩に入れるか変成岩に入れるかの合意はない。また、岩石が融けてしまえばマグマになるので、それが固まったものは火成岩となる。
なお、泥岩はその名の通りに泥がそのまま固まったような岩石、頁岩は圧力を受けたために一定方向に鉱物が並び少し薄くはがれやすくなったもの、粘板岩や千枚岩はさらに薄くはがれやすくなったもの、結晶片岩になると鉱物の再結晶がかなり進んでもとの岩石とは似てもにつかないものになっている。粘板岩は硯(すすり)として利用されている。
a.接触変成岩
マグマに接した岩石はその熱により変成作用(接触変成作用)を受け、接触変成岩となる。たとえば泥岩がマグマの熱でかたくてち密なホルンフェルスという岩石になったり、石灰岩がマグマの熱で晶質石灰岩(大理石)になったりする。当然マグマに接しているところが一番強い変成作用を受け、離れるに従って変成作用は弱くなる。この範囲はせいぜい数kmである。また、マグマ起源の熱水と反応して別な岩石になることもある。
ホルンフェルス | 晶質石灰岩(大理石) |
b.広域変成岩
大山脈を作るような変動(造山運動)においては、その中心部では高い圧力や熱が発生する。こうした圧力や熱による変成作用を広域変成作用といい、広域変成作用でできた変成岩を広域変成岩という。
高い圧力のもとでは、結晶片岩というものができる。結晶片岩は鉱物が一定方向に並んでいる片理という構造が顕著である。庭石としてよく使われる三波石(さんばせき)は結晶片岩である。また、東京近郊では荒川上流の長瀞付近の岩石が結晶片岩である。
高い温度のもとでは、片麻岩ができる。砂岩−片麻岩−花こう岩と連続的に変化しながらつながっているところがある。このように、造山運動の際の高温・高圧下で堆積岩が一度融解して、それが再び固まってできる花こう岩もあるらしい。
結晶片岩 | 片麻岩。花こう岩によく似ているが、少し鉱物の並びの縞模様が見られる。 |
3.変成条件
鉱物の多形を利用して、変成岩ができたときの状態を推定することができる。たとえばAl2SiO5という化学組成を持つ鉱物は、常温常圧下では紅柱石、高温下では珪線石(けいせんせき)、高圧下では藍晶石(らんしょうせき)という形の鉱物になる。だから、珪線石を含む変成岩は高温下でできたこと、藍晶石を含む岩石は高圧下でできることがわかる。
またヒスイ輝石は、そう長石(NaAlSi3O8)が高圧下でヒスイ輝石(NaAlSi2O6)と石英(SiO2)に分解してできたものである。実際ヒスイ輝石は結晶片岩の中に含まれている。
なお、Pa(パスカル)は圧力の単位、1Pa=1N・m-2、1気圧≒10万Pa、100Pa=1hPa(ヘクトパスカル)、おおよその目安では地下1kmで3×107Paの圧力がかかる。10×108Paは、地下17km程度の深さでの圧力に相当する。
Al2SiO5の多形 | そう長石(NaAlSi3O8)は高圧下ではヒスイ輝石(NaAlSi2O6)と石英(SiO2)になる。 |
4.変成帯
広域変成岩はその名の通り、同じ岩石が広い範囲に分布している。その範囲は帯状なので変成帯という。日本の代表的な変成帯は下図のとおりである。結晶片岩を特徴とする高圧型(低温高圧型)の変成帯と、片麻岩を特徴とする高温型(定圧高温型)がある。変成帯は過去の造山運動の中心部と考えると、北海道を除く日本列島はアジア大陸側から太平側へと造山運動の場が移ってきている、つまり太平洋側へと成長しているということになる。領家変成帯と三波川変成帯のように、まったく別な場所でできた変成岩が断層(中央構造線)を境に接しているということは、大規模な地殻変動があったという証拠である。
北海道は東北海道と西北海道が衝突してできたらしい。そのときにまくれ上がったのが日高変成帯と考えられている。
日本列島のような弧状列島は、海のプレートが沈み込んでいるところである。冷たい海のプレートの沈み込みにともない、深い場所に持ち込まれた岩石が高い圧力で変成作用を受けたものが高圧型の変成帯であり、高温型の変成帯はプレートの沈み込みにともなうマグマの発生と同じように高温にさらされて変成を受けたものである。なお、付加体についてはこちらを参照。
ホルンフェルス:ドイツ語でホルン(horn)は角(つの)、フェルス(fels)は岩石のことである。
スカルン:石灰岩とマグマ起源の熱水が反応すると、石灰岩(炭酸塩鉱物が主体)がまったく別のケイ酸塩鉱物に置き換えられることがある。これをスカルンという。このとき熱水に含まれていた金属が沈殿して鉱床を作ることがあり、これをスカルン鉱床という。
鉱床:有用な元素が技術的に、また経済的に取り出せるほど濃縮している岩石を鉱石といい、鉱石を含む場所を鉱床という。スカルン鉱床では、鉄、銅、亜鉛、鉛、タングステン、モリブデン、スズなどが硫化物(イオウの化合物)や酸化物として存在する。岐阜県の神岡鉱山や岩手県の釜石鉱山がそれである。