第二部−2− 地球の科学

第14章 プレートテクトニクスとプルームテクトニクス(1)

目次
1. プレートテクトニクス
a.プレートテクトニクス
b.離れていく境界(広がっていく境界)
c.衝突する境界
d.すれ違っている境界
e.観測上の証拠
f.プレート運動の原動力
用語と補足説明
このページの参考になるサイト

1.プレートテクトニクス

a.プレートテクトニクス

 地球の内部構造は、地震計の進歩と地震学の進歩によってだいぶ詳しくわかってきた。<地球の構造−1−><地球の構造−2−>参照。また、地震の震源の分布や火山が、地震帯・火山帯という地球上では非常に限られた同じ帯状の地域に分布していることもわかった。またとくに海においては、こうした場所は火山のホットスポットをのぞいては、海溝と海嶺であることもわかった。とりわけ、海溝付近で起こる深発地震は海溝から大陸側に向かって深度を増すこともわかった。これらについては<震源分布><火山の分布>を参照。

 さらに、深さ100km〜200km程度のマントル上部には低速度層があり、比較的柔らかい(部分溶融しやすい)この低速度層の上、地殻+マントル最上部は非常に硬く冷たいこともわかった。(マグマの発生は、マグマの発生(1)マグマの発生(2)、マントルを構成しているかんらん岩の部分溶融はこちらを参照)。そして、異常震域という現象は、その地殻+マントル最上部が海溝から大陸に向かって斜めに潜り込んでいると考えるとうまく説明がつくこともわかった。

 こうしたことから、1960年代後半に複数の地球科学者からプレートテクトニクスという概念が生み出されていった。プレート同士の相互作用が、地震・火山という現象を引き起こしているというのがプレートテクトニクスである。

 地球の表面は十数枚の硬いプレートに覆われている。プレートは相互に移動していて、地震や火山などの活動はそのプレートの境界で起きている。プレートはリソスフェアといわれることもあり、そのときはリソスフェアの下をアセノスフェアという。地殻−マントルという構造は構成岩石の違い、リソスフェア(プレート)−アセノスフェアは動くときの単位(動的な概念)という違いがある。


地球表面を覆うプレートとその名前。日本はユーラシアプレート、北米プレートの上に乗っていて、太平洋プレート、フィリピンプレートに押されている。また、三つのプレートが1点で接する三重点(トリプルジャンクション)も2つあり、複雑な地質活動を行う地域であることがわかる。
アメリカ地質調査所(USGS):http://pubs.usgs.gov/publications/text/slabs.html


プレート相互の動き
http://sps.unavco.org/crustal_motion/dxdt/images/nuvel1a_nnr.gif

 プレートの境界のタイプには3種類あるすなわち互いに離れていく境界(広がっていく境界)、衝突している境界、すれ違っている境界の3種類である。下のサイトのアニメーションも参照。

 地殻プレート(リソスフェア)に含まれている。そこで、プレートが移動すると地殻も移動することになる。つまり大陸は移動し、相互の位置関係が変わったりする。そして、プレートが互いに離れていく境界の上に大陸が乗っていればその大陸は分裂するし、衝突している境界では大陸(陸塊)同士の衝突が起こることもある。

 

プレートの境界の3つのタイプ。
アメリカ地質調査所(USGS):http://pubs.usgs.gov/publications/text/Vigil.html

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b.離れていく境界(広がっていく境界)

 2つのプレート(リソスフェア)が離れて両側に広がっていくところでは、両側に張力が働くために何段もの正断層が発達して、長い溝(地溝帯、海の海嶺においては中軸谷)をつくる。また地下深部ではその空間を埋めるように下からマントル物質がわき上がる。上昇してきたマントル物質は、圧力が下がるためにマントルを造っていたかんらん石が部分溶融してマグマが発生する。下からマントル物質がわき上がって来るために地形的には海嶺と呼ばれる地球を取り巻く大山脈をつくり(海底から数千m盛り上がっているが、頂上付近でもまた数千mの深海底)、その軸の部分が溝になっているのである。なお、海底地形図はこちらを参照。中央海嶺の様子とその軸を走る中軸谷が見える。

広がる速さの速いプレート境界の様子。南太平洋など。中軸谷も浅く、山脈の幅が広いので、海嶺というより、海膨と呼ばれることが多い。
http://www.divediscover.whoi.edu/ridge/infomod.html
広がる速さの遅いプレート境界の様子。大西洋など。中軸谷がはっきりとしている。アフリカの大地溝帯もこのような構造をしている。
http://www.divediscover.whoi.edu/ridge/infomod.html

 海嶺やその中央を走る中軸谷は、深海底なので直接には見ることができないが、潜水艇の調査では、中軸谷で新鮮な玄武岩(がつくる枕状溶岩)がたくさん見られる。活発なマグマの噴出が起きていることが確実である。

 アイスランドは大西洋中央海嶺が海上に顔を出している貴重な場である。また、紅海はかつてはつながっていたアラビア半島とアフリカ大陸が裂かれた場所、またアフリカの大地溝帯は今なお裂かれようとしている場所である。

大西洋中央海嶺とアイスランド。北アメリカプレートとユーラシアプレートが両側に広がっていく。その間は裂け目(ギャオ、ギャウ)、あるいは火山となっている。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
空から見た大地の裂け目アイスランドのギャオ(ギャウ)。なお、ギャオの地上の写真はこちらを参照
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
アフリカの大地溝帯
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/East_Africa.html
アフリカ大地溝帯の不思議な火山オルドイニョ・レンガイ。炭酸塩質(石灰岩のようなもの)のマグマを噴出する。
千葉達朗の火山のページ:
http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/tchiba/carbon/carbon.html
アイスランド地下構造の地震波CT。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはS40RTSを使った。
Ritsema, J., Deuss, A., van Heijst, H. J., and Woodhouse, J. H. (2011). S40RTS: a degree-40 shear-velocity model for the mantle from new Rayleigh wave dispersion, teleseismic traveltime and normal-mode splitting function measurements. Geophysical Journal International 184: 1223-1236. (doi: 10.1111/j.1365-246X.2010.04884.x)
大地溝帯の地震波CT.。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはS40RTSを使った。
Ritsema, J., Deuss, A., van Heijst, H. J., and Woodhouse, J. H. (2011). S40RTS: a degree-40 shear-velocity model for the mantle from new Rayleigh wave dispersion, teleseismic traveltime and normal-mode splitting function measurements. Geophysical Journal International 184: 1223-1236. (doi: 10.1111/j.1365-246X.2010.04884.x)

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c.衝突する境界

c−1. 一方が沈み込む境界

 日本列島のような島弧(弧状列島)においては、衝突している片方(密度の大きい海側のプレート(リソスフェア))が、もう一方(密度の小さい大陸側のプレート)の下に潜り込んでいる。その様子は、地震波のデータでとらえることができる。こうした場所では、プレートが潜り込んでいる所で地殻が下に引きずり込まれるために、深い溝のような海溝ができる。また、このためにアイソスタシーが成立しておらず、フリーエア重力異常がマイナスとなる。また、冷たいプレートが沈み込む場所なので、地殻熱流量は小さい。また、プレートが沈み込んでいる面に沿って起こる深発地震の震源も海溝から大陸側に斜めに深くなっていて、いわゆる和達−ベニオフ帯となる。その和達−ベニオフ帯の深さが110km〜130km程度のなっているところで、マグマが発生しやすくなっているらしい。ここが火山フロントに対応する。

 こうして島弧(弧状列島)では、海溝の軸−地震帯(震源の浅い地震の震源)−火山帯と平行して並んでいることが特徴である。こうした場所が環太平洋やインドネシアの地震帯・火山帯となっている。南米のチリは島弧ではないが、ここもこうした特徴があるので島弧的な場所である。

 プレートの沈み込んでいる(潜り込んでいる)部分をスラブという。スラブはまわりよりも低温で硬いので、地震波を伝えやすい。これが異常震域を起こす原因となる。

日本列島のような島弧での衝突と片方のプレートの潜り込み
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
南米チリ側のように島弧をつくらない潜り込み
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
東北地方の地下構造の地震波CT。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはGAP-P4を使った。
Obayashi, M., Yoshimitsu, J., Nolet, G., et al. (2013). Finite frequency whole mantle P wave tomography: Improvement of subducted slab images. Geophysical Research Letters 40: 5652-5657. (doi: 10.1002/2013GL057401)
Fukao, Y., and Obayashi, M. (2013). Subducted slabs stagnant above, penetrating through, and trapped below the 660 km discontinuity. Journal of Geophysical Research, 118: 5920-5938. (doi: 10.1002/2013JB010466)
南米アンデス山脈の地震波CT.。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはGAP-P4を使った。
Obayashi, M., Yoshimitsu, J., Nolet, G., et al. (2013). Finite frequency whole mantle P wave tomography: Improvement of subducted slab images. Geophysical Research Letters 40: 5652-5657. (doi: 10.1002/2013GL057401)
Fukao, Y., and Obayashi, M. (2013). Subducted slabs stagnant above, penetrating through, and trapped below the 660 km discontinuity. Journal of Geophysical Research, 118: 5920-5938. (doi: 10.1002/2013JB010466)

c−2. 正面衝突している境界

 衝突している両方のプレート(リソスフェア)が軽いとうまく沈み込めずに正面衝突となる。

 インドはかつてはるか南方にあったものが、インド洋プレートに乗ってユーラシアプレートと衝突をした。このためにその間の海で堆積した分厚い堆積物がつくった地層は、激しい地殻変動を行い隆起して現在のヒマラヤ−チベット高原をつくった。実際にヒマラヤ山脈の地層からは、海の生物の化石が出てくる。

 この小規模な例が、かつて島だった丹沢や伊豆半島と本州の衝突である。この衝突の結果、丹沢や南アルプスが激しく隆起した。

インドの北上と衝突
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/himalaya.html
南(図では左)からやってきたインドがユーラシアと衝突する。ここでは地殻はふつうの場所の2倍の厚さである約70kmにもなっている。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
エベレスト頂上付近の石灰岩中のサンヨウチュウ(三葉虫)の化石
九州大学総合研究博物館
http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/PLANET/04/04-1.html
エベレストを見上げる
http://geography.learnhub.com/lesson/7292-seven-natural-wonders-of-the-world-mount-everest
かつては火山島だった丹沢や伊豆が北上する
地球博物館神奈川の大地:http://www1.tecnet.or.jp/museum2/(2009年3月6日サーバー・メンテナンス中)
250万年ほど前に丹沢が衝突し陸地(山塊)となり、さらに70万年ほど前に伊豆が衝突する。
地球博物館神奈川の大地:http://www1.tecnet.or.jp/museum2/(2009年3月6日サーバー・メンテナンス中)
ヒマラヤ-チベットの地下構造の地震波CT.。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはS40RTSを使った。
Ritsema, J., Deuss, A., van Heijst, H. J., and Woodhouse, J. H. (2011). S40RTS: a degree-40 shear-velocity model for the mantle from new Rayleigh wave dispersion, teleseismic traveltime and normal-mode splitting function measurements. Geophysical Journal International 184: 1223-1236. (doi: 10.1111/j.1365-246X.2010.04884.x)
伊豆の衝突の地震波CT.。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはGAP-P4を使った。
Obayashi, M., Yoshimitsu, J., Nolet, G., et al. (2013). Finite frequency whole mantle P wave tomography: Improvement of subducted slab images. Geophysical Research Letters 40: 5652-5657. (doi: 10.1002/2013GL057401)
Fukao, Y., and Obayashi, M. (2013). Subducted slabs stagnant above, penetrating through, and trapped below the 660 km discontinuity. Journal of Geophysical Research, 118: 5920-5938. (doi: 10.1002/2013JB010466)

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d.すれ違っている境界

  中央海嶺の中軸谷はところどころで食い違っている。プレートテクトニクスが正しければ、中軸谷はそこから両側に新しくできたプレートが広がっていくとことである。中軸谷のずれが発見された当時は、そのずれは横ずれ断層の結果生じたと考えられた。だが、カナダの地球物理学者ウィルソンは、中軸谷はプレートが両側に広がっていくところだとすると、中軸谷がずれているところだけ断層運動が生じ、そのずれの動きは中軸谷のずれを生じさせる横ずれ断層の動きと逆であるはずであるといい出した(下図参照)。ウィルソンはこうした断層を、その端がいきなり中軸谷などに変わるので、(端で)姿を変える=トランスフォームするという意味のトランスフォーム断層と名付けた。下のサイトのアニメーションも参照。

 中軸谷がずれているところは、数千mの深海底なので直接見ることは難しい。しかし、地震観測網の整備により、陸(地震の観測点)から大変に遠い中央海嶺付近で起こる地震は、中軸谷と中軸谷がずれている部分で起きていることがわかってきた。また、中軸谷で起こる地震は張力による正断層タイプ、また中軸谷がずれている部分で起こる地震は横ずれ断層タイプ、しかもそのずれの向きはウィルソンが予言したとおりであることがわかった。

 このトランスフォーム断層が陸上で見られるのが、アメリカの西部を走る大断層サン・アンドレアス断層である。陸上で見える部分は右ずれ断層であり、すでに数百km以上の食い違いがある。断層をまたがって流れていた川は、ここで大きくカギ状に曲がっている。

 では、断層運動の結果中軸谷がずれたのではないとしたら、中軸谷のずれはどうして生じたのだろう。これはたぶん、両側から引っ張られているためにリソスフェアが裂けたのだろう、だからあのようにギザギザになったのだろうと考えられている。

中軸谷から両側にプレートが広がっていく。中軸谷がずれているところだけ、岩盤が反対側に動き断層をつくることがわかる。
http://www.geo.lsa.umich.edu/~crlb/COURSES/270/Lec14/Lec14.html(2009年3月6日現在リンク切れ)
中央海嶺を真上から見る。中軸がずれているところだけ、岩盤が反対側に動くので断層運動が起こる(赤色)。点線の部分は同じ向きに同じ速さで動いているので、断裂帯という傷跡(崖、左図のscarp)になっているが断層運動は起きない。

上:中軸谷がずれている部分だけがずれ動くトランスフォーム断層。断層の端がいきなり中軸谷に姿を変える(transformする)。下:中軸谷のずれは断層運動の結果生じたとしたときの岩盤のずれの様子。中軸谷がずれている部分で上と逆になることに注意。ふつうの横ずれ断層では、断層の端に近づくとだんだんとずれが小さくなっていき、そのうち断層がなくなる。
中軸谷で起きる地震のP波の初動分布を見ると、たしかに中軸谷の両側に岩盤(プレート)が広がっていることがわかる。横ずれ断層の結果中軸谷がずれたとすると、中軸谷がずれているところで起こる地震のP波の初動分布はこの図と逆になるはずである。
サンフランシスコやロサンジェルスの近くを走るサン・アンドレアス断層。海嶺(中軸谷)がずれいているところで生じたトランスフォーム断層であり、動きは右ずれの水平ずれ断層になる。サンフランシスコ近くでは1906年に大地震を起こした。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/understanding.html
サン・アンドレアス断層が街中を走るサンフランシスコ近くの町ホリスター。この付近では地震を起こさず、年間10cm程度の速さで常時ずるずると動いているそのために、補修を繰り返しても道路がこのようにずれていく。右すれであることに注意。
http://strike-slip.geol.ucsb.edu/FAULTS/Calaveras/HollisterCreep2.html
アメリカ西部の地震はCT。左から1/3程度がサンアンドレアス断層、右から1/3程度がイエローストーン国立公園になる。地震波CTの作成はhttp://csmap.jamstec.go.jp/を利用し、地球モデルはS40RTSを使った。
Ritsema, J., Deuss, A., van Heijst, H. J., and Woodhouse, J. H. (2011). S40RTS: a degree-40 shear-velocity model for the mantle from new Rayleigh wave dispersion, teleseismic traveltime and normal-mode splitting function measurements. Geophysical Journal International 184: 1223-1236. (doi: 10.1111/j.1365-246X.2010.04884.x)

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e.観測上の証拠

 震源の分布とその発震機構(海嶺では正断層タイプや横ずれ断層タイプ、海溝では逆断層タイプの地震多い)、火山の分布ホットスポットから始まる火山島−海山列の並び方とその年代、地殻熱流量(海嶺で高く、海溝で低い、さらには大陸と海洋でほぼ同じ値=下から熱伝導だけで熱が運ばれているわけではない)、重力異常(フリーエア異常が海嶺で正(プラス)=地殻が浮きすぎ、海溝で負(マイナス)=地殻が沈みすぎ)、また海底の地形と海底の堆積物の厚さ(海嶺から離れるほど厚くなる)や海底の年齢(海嶺から離れるほどほど古くなるが、一番古くても2億年程度=海嶺で新しい海洋底が生まれ、2億年程度かけて大洋を横断し、海溝で沈み込むのでそれ以上古い海洋底はない)、加えて海洋底の深さも海嶺から離れるほど深くなること(だんだん冷えたプレートの密度が大きくなって自重で沈む)など、すべてプレートテクトニクスと整合的である。じつは、こうした観測データ(とくに海のデータ)が1950年代以降集まってきたことによって、プレートテクトニクスという概念が生まれたのである。そして、磁極の移動からも大陸が相互に位置を変えていることが確実となった。古地磁気学インドの北上も明らかにした。

緑:ヨーロッパ大陸のデータから求めた磁極移動の軌跡
赤:北アメリカ大陸のデータから求めた磁極移動の軌跡
http://www.sci.csuhayward.edu/~lstrayer/geol2101/2101_Ch19_03.pdf
大陸がこのような配置だったら、磁極移動の軌跡は一致する
http://www.sci.csuhayward.edu/~lstrayer/geol2101/2101_Ch19_03.pdf


海洋底の年齢。赤は新しく青・紫は古い。海嶺から離れるほど古くなることがわかる。
http://www.ngdc.noaa.gov/mgg/image/crustalimages.html

 さらに海底の地磁気の異常が観測されるようになると、そのパターンもプレートテクトニクスでうまく説明がつくことがわかった。地磁気は断続的に逆転を繰り返している。また、キュリー温度以上であったマントル物質が冷えて海洋底(プレート)が海嶺で生産されるとき、キュリー温度を通過したときの地球の磁場の方向に強く磁化される(熱残留磁気を獲得する)。そして、そのときの地球磁場の向きに磁化された海洋底は海嶺(中軸谷)から両側に広がっていく。現在の地球磁場と同じ向きだった時代に磁化された海洋底があるところでは、現在の地球の磁場と合わさって少し磁場が強くなり、現在の地球の磁場と逆向きの時代に磁化された海洋底があるところでは、その分だけ地球の磁場が弱く観測される。こうして、海洋底は中軸谷を挟んで両側に、磁場の強いところ(下図の茶色の部分)と弱いところ(下の図の白色の部分)が、中軸谷を挟んで対称な縞模様をつくるはずである。

 つまり、中軸谷をテープレコーダーの録音ヘッドとすると、海洋底は録音テープになっていて、中軸谷から離れるほど古い時代の地球の磁場が記録されているというわけだ。これをヴァインとマシューズのテープレコーダー・モデル(1963年)という。二人は当時イギリスのケンブリッジ大学の大学院生であった。下のサイトのアニメーションも参照。

中軸谷から両側に、そのときの地球磁場の向きに磁化された海洋底が広がっていく。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/developing.html
中軸谷で磁化された海洋底は、中軸谷から離れるほど古い時代の地球の磁場の逆転の歴史を記録している。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/stripes.html

 本当にプレートが地球表面上を動いているとすると、その運動は地球の中心を通る軸のまわりの回転運動となる(オイラーの定理)。1960年代の後半に(1968年ころ)、ル・ピション(Xavier Le Pichon)とマッケンジー(Dan McKenzie),モーガン(W. Jason Morgan)たち地球物理学者がこのようなことに気がついた。そうだとすれば、その運動の回転軸の極から一番遠いところ(その極に対する赤道)で動きが一番大きく、極に近づくにつれて小さくなるはずである。

 こうしたことは、地震の観測からわかる断層のずれの向きと大きさ(地震は断続的に起こるので1年当たりの大きさに換算する)から、たしかに回転運動の極から離れるほど(正確にいえば極を90°、赤道を0°としたときの緯度のコサイン(cos)に比例する)速いということ、またそのすれの向きは平行であることからも確認できた(下図参照)。

地球表面の運動はある軸のまわりの回転運動となる。
瀬野徹三氏「プレートテクトニクスと日本付近の地震」
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/KOHO/backnumber/14/14-1.html
回転の極から離れるほど、拡大速度(地震の観測データからわかる)は大きくなる。
瀬野徹三氏「プレートテクトニクスと日本付近の地震」
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/KOHO/backnumber/14/14-1.html

 最近では、地球(太陽系)から非常に遠いところに存在している天体クエーサー(準星)からの電波を使って、地球上の2点間の距離を極めて正確に測定する技術(VLBI=Very Long Baseline Interferometry)が発達し、例えば日本とハワイの距離がmmの精度で測れるようになった。その結果、たしかにハワイは1年で6cm程度の速さで日本に近づいていることが確認できた。こうして、プレートの動きが実測できるようになったきた。

VLBIの原理:クエーサーからの電波は、地球が丸いためにす離れた観測点では少しクエーサーからの距離が異なる。そのためにごくわずかに到着時刻が違ってくる。この到達時刻の差から距離を求めることができる。
国土地理院:http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/vlbi/ja/whatisvlbi/principle.html
日本とハワイでクエーサーからの電波を受信する。すると、到達時刻に微妙な差が出る。この差から距離を割り出す。 つくばの観測点を基準とした、他の観測点の動き。 筑波や鹿島とハワイ(コキー)の距離が1年で6cmの速さで縮まっている。
国土地理院「星が伝える大地の動き」:http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/vlbi/ja/whatisvlbi/objectives01.html

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f.プレート運動の原動力

 では、プレートを動かす力はいったい何だろう。かつてのウェゲナーの大陸移動説は、大陸を動かす原動力を説明することができないことを一つの根拠に、学会の主流からは消えざるを得なかった。現在でも、この問題は完全に片付いたわけではない。

 一番有力な説は、潜り込むプレートがその重さで残りの部分を引っ張っているというものである。あたかも少しテーブルからずれて一部が垂れたテーブルクロスが、自分の重さで残りを引っ張って全部がずり落ちてしまうというイメージなので、テーブルクロス説という。プレートが潜り込むところが海溝となる。また、両側から引っ張られてできた裂け目を埋めるようにマントル物質がわき上がってくるところが海嶺である。海嶺で生産された新しくプレートは温度が高く密度が小さい。しかし、中軸谷の両側に広がって離れていくうちに温度も下がり密度が高くなる。

 なぜプレート(リソスフェア)アセノスフェアに潜り込んでいくのだろう。これは冷えたプレートの密度がアセノスフェアより大きくなるためである。つまり温度差が密度の差を生んで、その密度の差がプレートの運動を引き起こすことになる。つまりかつて考えれていたような単純な対流ではないが、幅広い意味ではこれも対流である。リソスフェアやアセノスフェア(あるいは地殻やマントル)を構成している岩石も、長い年月のうちには液体のように流れるのである。

ビーカーの中の対流とマントル対流
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/unanswered.html#anchor19928310

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用語と補足説明

プレートテクトニクス:プレート(plate)は板(岩盤)、テクトニクス(tectonics)にはよい日本語ないが(元々の意味は構造学→構造地質)、動的に地質活動をとらえるという意味合いである。

ウィルソンウィルソン(J.Tuzo Wilson、カナダ、1903年〜1993年)。ウェゲナーの大陸移動説、あるいは同時期のアメリカの地質学者ヘスやディーツに刺激を受け、上のトランスフォーム断層や、ホットスポットという概念の提唱した。さらに、大陸は数億年という時間のうちに集合離散を繰り返しているというウィルソン・サイクルも提唱し、1960年代〜70年代においてプレート説を牽引した。


ウィルソン
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/Wilson.html

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ウェゲナーウェゲナー(Alfred Wegener、ドイツ、1880年〜1930年)。もともとは気象学者である。非常に行動的なタイプで、当時まだ珍しかった気球に乗って滞空時間の世界記録を立てたり、4回にわたりグリーンランドの探検をも行っている。これらはもちろん、本職の気象の研究のためであった。そして、50歳という若さで死んでいるが、これは最後のグリーンランド探検で遭難死したのであった。

 彼の興味は本職にとどまらなかった。彼は大西洋の両側の海岸線の形がよく似ていることが気になった(ヨーロッパで使われている世界地図は大西洋の両側の海岸線が見やすい)。そこで、かつて両者はくっついていたのが、何らかの理由で離れて(大陸が移動して)、現在の配置になったのではないかと考えた。そして、地質学の勉強に取り組んだ。すると、大西洋の両側は形が似ているばかりではなく、大西洋の両側の大陸をくっつけると地質構造も連続すること、化石の分布も連続することがわかった。さらに本職に近い(妻の父は気候学者ケッペン、ドイツ、1846年〜1940年)古気候(地質時代の気候を研究すること)から、数億年前の氷河の分布も大陸をくっつけると都合がいいということもわかった。また極(地理的な極)の位置が現在と違うこと、さらに歴史を追って極の位置を調べていくと時代ごとにその位置が違うことがわかった。つまり、磁極の移動と同じく、地理的な極も移動して板とするとその軌跡が描ける。ただし、これだけでは極が移動したのか、データを乗せている大陸の方が動いたのかがわからない。ウェゲナーは磁極の移動から大陸の移動を示したのと同じように(もちろんウェゲナーの方が早い)、異なった大陸ごとのデータから(地理的)な極移動の軌跡を描くと、それが一致しないことを見つけ、大陸移動の証拠としたのである。

 こうして、彼は1912年に論文の形で、さらには1915年に「大陸と海洋の起源」という本を出版し、自分の考え(大陸移動説)とその根拠を公表した。

 しかし、当時の常識=大陸は不動であるという既成概念を打ち破れなかったこと、また理論的には大陸を動かす原動力をウェゲナーや彼を支持する人たちが提出できなかったこと(イギリスの地質学者A.ホームズは1928年にマントル対流のアイデアを出しているが)、さらには1930年にウェゲナー自身が遭難死してしまったこともあり、かれの大陸移動説は学会主流からは顧みられなくなる。

 彼のアイデアが復活するのは、第2次世界大戦後の海洋科学の進歩、さらには1950年代から始まった超高感度磁力計を用いた古地磁気学の発展を待たなくてはならない。

 より詳しいウェゲナーの伝記は、河野長氏によるものを参照。

ウェゲナー
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/wegener.html
ウェゲナー
http://www.ucmp.berkeley.edu/history/wegener.html

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大陸移動説から海洋底拡大説へウェゲナーのころは、ようやく地殻とマントルという地球上部の構造がわかってきたころである。当時は軽いシアル(今でいう大陸地殻)が、より思いシマ(今でいうマントル)の上に、海に浮かぶ氷山のように浮いているというイメージだった。そこで彼の大陸移動説も、シマに浮いているシアルが、シマをかき分けかき分け進んでいくというイメージである。

一見バラバラの古い山脈 大陸をくっつけるとこのように一つの山脈になる。
ウェゲナーが証拠としてあげた地質構造のつながり
http://road.uww.edu/road/bhattacj/Continental_drift.ppt(2006年2月18日現在リンク切れ)


ウェゲナーが証拠としてあげた古生物(化石)の分布。大陸をこのようにくっつけると分布が連続する。当時は、離れた陸を結ぶ陸橋(現在の南北アメリカ大陸を結んでいるパナマ地峡の様なイメージ)があったのだと考えられていた。しかしウェゲナーは、大陸と海洋は地殻の構造が根本的に違う、つまり分厚い地殻が突然に消滅することないと反論した。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/continents.html

約2億5000万年前の氷河の分布とその流れた方向も、大陸の配置がこのようだったとしたらうまく説明できる。
http://www.sci.csuhayward.edu/~lstrayer/geol2101/2101_Ch19_03.pdf


ウェゲナーが考えた大陸移動。数字の単位は百万年。かつて一つだった超大陸パンゲアが、2億年以上前から分裂を始める。まず北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸がわかれ、その間にチチス海ができる。さらに大陸は分裂移動して、現在の姿になった。また南北アメリカ大陸が西に進むときに抵抗を受けて前面が盛り上がった、それがロッキー〜アンデス山脈であり、インドとローラシアとの衝突でできたのが、ヒマラヤ山脈とチベット高原であると、造山運動も説明した。
USGS:http://pubs.usgs.gov/publications/text/historical.html#anchor9556836

 しかし、ウェゲナーの項で書いたように、ウェゲナーが生きている間は彼の説は一部の支持しか得られていなかったし、死後も支持し続けた学者はもっと少なかった。だが、地球に関するデータが集積したきた結果、彼の説は別の形でよみがえる。

 それは、ヘス(Herry.H.Hess、アメリカ、1906年〜1969年)やディーツなどによる海洋底拡大説である。ヘスは自ら地球詩(geopoetry)と銘打った論文(1962年)で海洋底拡大説を提唱する。海洋底拡大説とは、中央海嶺でマントル対流がわきあがり、そこで新しい海洋底が形成され、その新しくできた海洋底はマントル対流に乗って海嶺の両側に移動していき、マントル対流が沈み込むところで海洋底も消滅するというものである。このマントル対流が、いわばベルトコンベアのベルトのように、上に載せているものを運んでいる(ので上に乗っている大陸も移動する)というイメージであり、ベルトコンベア説ともいう。


海洋底拡大説のイメージ:「新しい地球観」(上田誠也、岩波新書)の図を元に作成

 そして、1965年のウィルソントランスフォーム断層という概念の提出、1967年ころから複数の地球物理学者によりプレートという概念が提出され、今日のプレートテクトニクスにつながっていく。

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ホームズA.ホームズ(Arthur Holmes、イギリス、1890年〜1965年、地質学者)は、放射性同位元素を使った年代測定法のアイデアも出し、古生代は6億年前ころから始まるとした。これはあのケルビン卿の求めた地球の年齢をはるかに上回るものであった。そして、マントル対流というアイデア出しているが、これは当時の人たちには受け入れられるものではなかった。彼はまた、「一般地質学」(上田誠也訳、東京大学出版会は現在(2005年5月)でも一部入手可能)という教科書も書いている。

ホームズ
http://assets.cambridge.org/052135/367X/excerpt/052135367X_excerpt.pdf
ホームズのマントル対流のイメージ
http://assets.cambridge.org/052135/367X/excerpt/052135367X_excerpt.pdf

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オイラーオイラー(Leonhard Euler、スイス、1703年〜1783年)は、数学史上でもっともたくさんの論文を書いた人ともいわれている。彼の業績は多方面に渡るので、オイラーの定理といってもたくさんある。彼はまた物理学や天文学でも業績を残している。オイラーは20代から目が悪くなり、50代でほぼ完全に失明したといわれているが、失明後も研究活動が衰えることはなかった。また暗算の天才でもあり、死ぬときは膝の上で孫をあやしながら、発見されたばかりの天王星の軌道を暗算で計算していたという。「死ぬよ」というのが最後の言葉とも伝えられている(真偽のほどは?)。


オイラー
http://www-groups.dcs.st-and.ac.uk/~history/PictDisplay/Euler.html

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このページの参考になるサイト

プレートテクトニクスに関するアニメ集:http://www.wwnorton.com/earth/egeo/animations/ch2.htm

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