1.惑星(2) 惑星各論
太陽系の惑星の中で、水星は太陽にもっとも近いところを回っている。そのために最大離角が小さく、地平線から高く登ることはないので、観測しにくい惑星である。また水星近くを飛行して観測を行った探査機は、1973年に打ち上げられたアメリカのマリナー10号のみであり(水星の観測は1974年、金星の観測も行っている)、もう30年以上も前のことである。
水星の半径(2440km)は、惑星の中ではめい王星(半径1137km)に次いで小さい。また、衛星は持っていない。太陽系の巨大衛星、木星のガニメデ(半径2634km)、土星のタイタン(半径2575km)より小さい。木星のカリスト(半径2403km)よりわずかに大きい。
水星には大気・水がない。このために表面は浸食されずに月のように無数のクレータ(隕石孔)残っていて、それにおおわれている。ただし、月の海のような広い玄武岩の平地はない。また、大気や水がないために、太陽に面した側と反対側での温度の差が大きい。昼の側は400℃を越えるが、夜の側は-170℃以下にまで下がる。400℃といえば、スズ(融点232℃)、鉛(融点328℃)が融け、亜鉛(融点420℃)が融けるかもしれないという温度である。また-170℃といえば、液体窒素の沸点(1気圧で-196℃)に近い。
水星の自転周期(対恒星自転周期、自転軸は公転面に対してほぼ垂直)は58.65日、公転周期(対恒星自転周期)は0.2409年(太陽年、87.98日)で、その比は2:3というきれいな整数比になる。惑星・衛星の自転・公転の間には簡単な整数比が成り立つ場合があり、それを尽数関係という。月の自転と公転の関係は最も簡単な尽数関係、すなわち1:1という関係である。尽数関係についてはこちらも参照。
水星の軌道の離心率は0.2056と、めい王星(離心率0.2490)に次いで大きい。このために水星と太陽の平均距離は0.3871AUであるが、太陽にもっとも近づくとき(近日点距離)は0.3078AU、もっとも遠ざかるとき(遠日点距離)は0.4667AUと大きな差ができる。太陽から受けるエネルギー(熱)は平均距離で1とすると、太陽からのエネルギーは距離に2乗に反比例するので、近日点距離ではその1.585倍、遠日点距離では0.6880倍になるということを意味している。つまり、近日点距離では、遠日点距離と比べるとその2.3倍のエネルギーを受けていることになる。
また上に書いた尽数関係から、近日点距離の位置に来たとき太陽の方を向く面が決まっているということになる。その場所はカロリス盆地(熱盆地)という地名がついている。もっともも水星は地球の常識から見ると奇妙な世界で、水星上の1日(水星での太陽日)の方が、水星の1年よりも長いという世界である。下の図から1太陽日は、2公転時間ということがわかる。つまり水星の対恒星自転周期を約60日、対恒星公転周期を約90日とすると、水星上での1日(1太陽日)は180日(2年)ということになる。
水星は密度が大きく、5.43×103kg・m-3(5.3g・cm-3)もある。これは半径が6378kmと水星の2.6倍もある地球の密度(5.52×103kg・m-3)に近く、火星(半径は3397km、水星の1.4倍)の密度3.93×103kg・m-3、あるいは月(半径1768km、水星の0.71倍)の密度3.34×103kg・m-3を大きく上回る。大きさが似ている巨大衛星木星のガニメデ(1.94×103kg・m-3)、カリスト(1.86×103kg・m-3)、土星のタイタン(1.8×103kg・m-3)よりもはるかに大きい。これはたぶん、水星の金属核の相対的な大きさが大きいためであると考えられている。水星の核は、水星の全体積の70%(地球の核の体積は地球の全体積の16%)を占め、月の大きさに近いと考えられている。この金属核が存在するためか、水星は非常に弱い(地球磁場の1%)ながらも磁場が存在する。
水星の全体像。クレータがたくさん見える。 | 光条を発しているクレータが見える |
左中央がカロリス盆地。巨大隕石が衝突した跡らしく、その衝突時の衝撃波がまわりに同心円状の山脈として残っている。星の反対側には、衝撃波が再び集中してつくったと思われる地形も残っている。 | 水星の巨大な断層。水星が冷えて収縮するときにできたと考えられている。 http://www.solarviews.com/raw/merc/fault.jpg |
写真は一番最後のもの以外は、NSSDC Photo Gallery(http://nssdc.gsfc.nasa.gov/photo_gallery/)より。
Mercury:ローマ神話では、商業と泥棒の神(ギリシャ神話ではヘルメスに相当)。また、Mercuryは水銀でもある。水星の天球上の動きが速い、また水銀も動きの速い物質ということで、語源は同じである。さらに、merchant(商人)、market(マーケット)にもつながる。
水星探査機:2004年8月3日、アメリカはディスカバリー計画(なるべく少ない費用で、でも数多くの探査を効率的に行おうとする計画)の一環として、水星を目指す探査機メッセンジャーを打ち上げた。順調にいけば2011年ころに水星近くに到着して、40年ぶりにさまざまな探査を行う予定である。メッセンジャーについては、月探査情報ステーションの解説参照。
メッセンジャーは、2008年1月に水星でスウィングバイ(フライバイ)をしたときに撮影した見事な写真を送ってきている。メッセンジャーのサイトの画像ギャラリーを参照。その一部を下に引用する。なお、メッセンジャーは3回のフライバイを経て、2011年3月18日に水星の周回軌道に乗った。
2011年5月27日撮影。 | 2011年5月30日撮影 |
2011年5月31日撮影 | 2011年6月1日撮影 |
2008年1月15日撮影 | 2008年1月16日撮影 |
2008年1月16日撮影 | 2008年1月18日撮影 |
2008年2月1日撮影 | 2008年1月30日撮影 |
水星の大気:ごく薄い水素とヘリウムの「大気」がある。これは、太陽から噴き出てきたガスが水星の重力(地球の0.38倍、表面からの脱出速度は4.25km・s-1)によって一時的にとどまっているもので、本来の惑星大気とは少し意味合いが異なる。
日本惑星協会:http://www.planetary.or.jp/
宇宙航空研究開発機構のオンライン・スペースノート:http://spaceinfo.jaxa.jp/note/note_j.html
The Nine Planets(英語):http://www.nineplanets.org/(日本語に訳したサイトもあるが更新が遅れ気味)。本家では「nine
Planet」→「nine
NSSDC Photo Gallery(英語):http://nssdc.gsfc.nasa.gov/photo_gallery/