このページの目次 | ||
第2章 月(5) | ||
5 月の探査以後にわかってきたこと | ||
a.月の岩石 | ||
b.月の構造 | ||
c.月の歴史 | ||
c−1 月の起源(ジャイアントインパクト説) | ||
c−2 月の歴史 | ||
用語と補足説明 | ||
参考になるサイト |
a.月の岩石
月の表面の岩石は高地(陸)と海(低地)とで異なり、陸は斜長石を多く含む斜長岩という岩石、海は玄武岩からなっている。高地は衝突クレータに覆われている。一方海はなめらかな表面をしている。
アポロ宇宙船が持ち帰った岩石の年齢から、陸の岩石は45.3億年前〜38.5億年前からと大変に古いことがわかった。45.3億年前というと地球−月ができたころとほぼ等しい。月ができたころ、表面全体が融けた状態(マグマオーシャン)にあり、それと関係している岩石だと思われている。地球にこのような古い岩石がないのは(はっきりとしている最古の岩石は約40億年前、最古の鉱物(ジルコン)は約43億年前)、表面が火山活動や風化・侵食作用などにより、つねに更新されているからである。
※ 地球最古の岩石の年代については、名古屋大学のサイトを参照。最古の鉱物については、岐阜大学のサイト(デジタル地球博物館の全地球史ナビゲーター)を参照。
一方、玄武岩には2種類ある。一つは40億年前にできたカリウム(K)、希土元素(REE)、リン(P)に富んでいるKEEP玄武岩といわれるもので、これは高地から飛来してきたものらしい。もう一つは、39億年前以後にできた海の玄武岩である。この玄武岩は、海の起源である巨大隕石の衝突クレータ形成後の火成活動で噴出したものだと考えられている。この玄武岩は地球の玄武岩と比べると、鉄やチタンの含有量が多いという特徴がある。この玄武岩は大変に流れやすく、溶岩流の中には1000km以上流れたものや、リル(蛇行リル)と呼ばれる溶岩流がつくったと思われる溝がある。
b.月の構造
アポロは6回月に着陸したが、毎回月に地震計(月震計)を設置した。月にも地震が起るので、内部構造はある程度わかる(地球の構造-1-、地球の構造-2-参照)。しかし、アポロが着陸した地点は地球との通信を確保するために表側に限られており、それも中緯度に限られているので、つまり地震計を月面上に片寄った配置しかできないので内部構造がきちんと確定できない。あと、月のまわりを回る人工衛星の飛び方からも、月の内部構造を推定できるが、これも間接的な方法であり、そういう意味でもまだ月の内部構造は確定できていない。
月も層構造をしているらしい。アポロ宇宙船が着陸した地点は厚さ60kmの地殻(これが斜長岩)があることがわかった。しかし、裏側は表側とはかなり違い、地殻は100km程度の厚さがあるらしい。あと、深さ300kmまでが上部マントル(かんらん岩?)、深さ800kmまでが中部マントル(月をつくったもともとの物質?)、それより深いところが下部マントルである。どうも、下部マントルは部分溶融しているらしい。月に地球と同じような金属の核があるかどうかについてはよくわかっていない。半径200km〜400kmの核があるらしいともいわれている。
c.月の歴史
現在有力な月の成因は、ジャイアントインパクト説である。この説によれば、誕生してまもないころの原始地球に(約46億年前)、巨大な、火星くらいの大きさの隕石が衝突し、その衝撃で原始地球のマントル部分をはぎ取り(すでにマントル核に別れていた)、この飛び散ったマントル物質と衝突した隕石がが軌道上で集まって 月をつくったという。
ジャイアントインパクト説:月探査情報ステーション http://moon.jaxa.jp/ja/science/origin.html |
火星サイズの天体が地球と衝突した。 http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/645007.stm |
なお、ジャイアントインパクトによって月ができるコンピュータ・シミュレーションは、国立天文台の小久保英一郎氏のサイトで見ることができる。また、地球の誕生についてはこちらを参照。
c−2 月の歴史
誕生して間もないころの月は表面がマグマオーシャンになっていた。液体のマグマのが冷えて鉱物ができ始めると、重いかんらん石や輝石などは下に沈み、軽い斜長石が上に浮いてくる。こうして月の表面近くは斜長石に富む斜長岩となった。
ついで、約40億年ほど前、月に大量の隕石が衝突して(大激変時代)、中には巨大な直径100kmから1000kmを超える巨大クレータをつくるようなものもあった。こうしてできた盆地に、その後放射性同位元素の崩壊熱でできた玄武岩質のマグマが噴出して低地を埋めて海をつくった。
その後、月は内部もだんだんと冷えていき、30億年前には火山活動も終わったようである。ただし、隕石の衝突はその後も(現在までも)続いているので、クレータの中には新しいものもある。
月震:英語で地震は Earth Quake(地球が震える、もっともこのEarthは「大地」程度の意味だろう)といい、月のそれを Moon Quake(月が震える)という。だから月では月震ということになる。しかし日本語の「地震」は、地球が震えるというよりたんに大地(な(土地)+ゐ(居))が震えるという現象(古い言葉では地震を“なゐふる”という)を指すので、月でも「地震」としてよい。
月の地震:月の地震は地球と違い、ほとんどがかなり深いところ(深さ800km〜1100km程度)で起こる。地球では地震の大部分が深さ100km以浅でおこり、深い地震といってもせいぜい700kmほどなので、半径の違い(地球約6400km、月約1700km)を考えると、月の地震は非常に深いところで起こっていることになる。ただし、その規模は小さく、マグニチュード1〜2である。まれに浅いところ(それでも深さにも300km〜400km程度)地震が起り、なかにはマグニチュード3〜4に達するものもある。
ほかに、隕石の衝突により生ずる地震、あと月面にわざと使用済みの月探査機のロケットや衛星を、月面に落として発生させる人工地震もある。
ルナA:日本が打ち上げを予定しているルナAは表側と裏側に1台ずつ地震計を設置(打ち込む)予定である。ルナAのサイトを参照。
月の表と裏:月の表側と裏側では、地殻の厚さ以外にも様子が違うところがある。それは海が極端に少ないことである。表側では海が30%の面積を占めるが、裏側では海はわずかに2%でしかない。また、地殻の厚さとも関係しているが、月の重心は月の中心より2kmほど地球によったところにある。こうした月の表側と裏側の違いが、なぜ生じたのかは明らかではない。
火星探査機“のぞみ”が撮影した月の裏側:のぞみのホームページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/nozomi/status_02.shtml
月の起源:ジャイアントインパクト説以外の月の起源の説としては、月は別のところでできたのだが地球の引力によって捕らえられたという捕獲説(それが起こる確率は非常に低いという問題点)、地球の自転の遠心力により地球のマントルが飛び出してできたという分裂説(遠心力がそんなに速かったのかという問題点)、たまたま地球と月はお互いに近いところでできたという双子説(ランダムに微惑星が集まって地球や月ができたとすると、それにより角運動量は相殺されるはずなのに、実際の地球−月の角運動量は大きいという問題点)がある。それぞれに一長一短であるが、これらの中ではジャイアントインパクト説がいちおう矛盾が一番少ないといわれている。
月探査情報ステーション:http://moon.jaxa.jp/ja/index_fl.shtml