第9章 前線
目次 | |
1. | 気団と前線 |
2. | 前線の種類 |
a.寒冷前線 | |
b.温暖前線 | |
c.閉塞(へいそく)前線 | |
d.停滞(ていたい)前線 | |
用語と補足説明 |
1.気団と前線
大規模な高気圧は外からの風(空気)が入ってこないので、地表の影響を受け、気温や露点(その空気が含んでいる水蒸気量)がほぼ一様な大きい空気の塊となる。これを気団という。性質の異なる気団が接すると、そこを境に急に気温や露点ばかりか、風向や風速までも大きく変わる。これは空気は気体といえども、簡単には混ざらないことを示している。もちろん、急に混ざらないという意味で、幅数kmから十数kmの遷移層(だんだん移り変わる層)がその間にある。
この気団と気団の境界面を前線面といい、前線面と地表の交わりを前線という。日本のような北半球の中緯度においては、北の方に寒気団、南の暖気団があり、その境界は下図のように波を打っているのがふつうである。そして全体として偏西風により西から東に動いていく。
温度の低い気団と温度の高い気団が接するとき、密度の小さな暖かい空気は上に、密度の大きな冷たい空気は下になった方が安定な状態になる。そこで両者は下の図のように、北の冷たい気団は下に潜りながら南下し、南の暖かい気団は上昇しながら北上する。
実際にはこうした大気の動きは対流圏の高さの範囲で起こる現象であり、高さは10数km程度しかない。一方水平方向は数百km以上の範囲である。だから下のような図は垂直方向に極端に誇張した図であることに注意しなくてはならない。
寒気−暖気が北西−南東方向で接しているときの断面図
寒気-暖気が南西−北東方向で接しているときの断面図
2.前線の種類
a.寒冷前線
前線が北西−南東方向であるとき、寒気が暖気に潜り込みながら(暖気を押し上げながら)西から東に進むことになる。これが寒冷前線である。寒冷前線では比較的急な上昇気流が生じ(前線面の傾きは1/25から1/100くらい)、積乱雲が発達する。積乱雲からにわか雨(雪)が降ることが多い。雹(ひょう)を伴うこともある。寒冷前線が通過すると気温が急激に下がり、風向も南西よりの風が北西よりの風に変わることが多い。前線通過時には突風が吹くこともある。
寒冷前線は低気圧の中心から南西に向かってのびている。また、天気図上の寒冷前線の記号は下のようになっている。前線が進む側に、寒冷前線を表す三角(青、色は付けなくてもよい)を付ける。
b.温暖前線
前線が北東−南西方向であるとき、暖気が寒気の上にのし上がりながら西から東に進むことになる。これが温暖前線である。温暖前線では比較的穏やかな上昇気流が生ずる(前線面の傾きは寒冷前線よりゆるい1/200〜1/300くらいの傾き)。温暖前線が近づいてくると、はじめの巻雲などの高層の雲がだんだんと低くなり、最後には乱層雲から雨を降らせる。前線面の傾斜が寒冷前線よりも緩いので、天気の変化もゆっくりとしたものになり、巻雲が現れてから乱層雲による雨まで1日程度かかる。また雨も持続性のものとなる。前線通過後は気温が上昇するが、風向や風速の変化は寒冷前線ほど明瞭ではない。風向は南東よりの風が、南西よりの風に変わることが多い。
温暖前線は低気圧の中心から南東に向かってのびている。
寒冷前線も温暖前線も、前線面に沿う上昇気流が存在し、その上昇気流に伴い空気塊の断熱膨張が起き雲が発生しやすくなる。すなわち、前線が近づくときや、前線通過時は天気が悪くなる。
東西方向の断面をとると、下の図のよう寒冷前線と温暖前線は一組になっていることがわかる。全体に西から東に移動し、また暖気が上に、寒気が下にというように空気塊が移動するので、地上では寒冷前線が温暖前線より速く移動し、地表での暖気の幅がだんだん狭くなるように見える。
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天気図上の温暖前線の記号は下のようになっている。前線が進む側に温暖前線を表す半円(赤、色は付けなくてもよい)を付ける。
西方から進んできた寒冷前線が温暖前線に追いつき、地表からは暖気がすっかり押し上げられてしまったものが閉塞前線である。下左の図のように寒冷前線が温暖前線の上にのし上がるようなタイプと(西方の寒気団の方が少し暖かい)、下の右図のように寒冷前線が温暖前線の下に潜り込むタイプ(西方の寒気団の方が少し冷たい)がある。いずれにしても、地表で接しているのは寒気団どうしなので、明瞭な前線ではない。低気圧においては、中心部に閉塞前線ができ始めたころが、その低気圧の一生の中で一番発達した時期である。最終的には、暖気がすっかり上空に押し上げられ、寒気が完全に下に潜り込めば安定な状態となり、前線は消滅する。
下図では雲は書いていないが、まだ閉塞前線近くには上昇気流が存在しているので雲が発達し、天気が悪いことが多い。
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閉塞前線の天気図上の記号は下のようになっている。
おおきくみると、北半球では北極のまわりに寒気団、赤道の方に暖気団がある。冬には寒気団におおわれた範囲が広くなり、夏は狭くなる。だから北半球の季節ごとの気団分布を見ると下図のようになる。
日本は、冬にはすっぽりと寒気団におおわれ、夏には暖気団にすっぽりとおおわれている。梅雨や秋雨のころは、地球全体での寒気団と暖気団の境が日本付近の位置となり、前線が次から次に間を開けずに通過することになる。前線上の低気圧は西から東に動いているのだが、下中図のように日本付近にはつねに前線が存在していて、細かく見れば部分部分は寒冷前線であり温暖前線なのだから、全体としてはあたかも停滞しているように見える。これが停滞前線である。春と夏の間の梅雨前線、夏と秋の間の秋雨前線がこれである。
夏は南の暖気団の範囲が広くなり、この前線がすっかり北に押し上げられた状態、冬は逆に北の寒気団の範囲が広くなり、この前線が南に押し下げられた状態ということになる。
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停滞前線の天気図上の記号は下のようになっている。日本では北に寒気団、南に寒気団があるので、三角や半円はこの向きになる。
前線は寒気と暖気の押し合い?:よく、前線は寒気と暖気の衝突で(風が衝突しているような図、さらには衝突した片方がはね返されているような図が添えられることもある)、そのうち寒冷前線は寒気の勢力が強くて暖気を押して進んでいるもの、温暖前線は暖気の勢力が強くて寒気を押して進んでいるものという説明がなされることがある。これはあまり正しい表現ではない。下図のように、地球全体で見れば、北極のまわりに寒気団、赤道の方に暖気団が存在していて、その境界が波動のように西から東に進んでいる。だから、その境界付近では、寒気→暖気→寒気→暖気→寒気→暖気というぐあいに交互に寒気団、暖気団におおわれることにある。
勢力争いだとしたら寒気>暖気>寒気>暖気>寒気>暖気>寒気となり西から東に勢力がどんどん弱くならなくてはならないが、結局地球を一周すると最初の寒気と最後の寒気は同じものになる。これは明らかに矛盾である。
前線(面)は単に異なる気団の境界(面)、それが全体として西から東に進みながら、寒気が下に、暖気が上にという空気塊が動いているというものである。
冬は寒気団がおおう範囲が広く、夏は暖気団がおおう範囲が広い。その季節の変わり目ではたしかに勢力争いをしているように見える。つまり停滞前線においては、北の寒気団と南の暖気団が押し合っているようにとらえることもできる。