6 地球の環境

 複雑な地球環境を研究するには、どのような手法が必要であろうか。

(2) 地球温暖化−a−

a 人類活動の影響

 産業革命以降急激に大気中の二酸化炭素が増えている。これは人類が、18世紀半ばから始まった産業革命以後大量に、そして急速に化石燃料(石炭、石油など)を燃やしてきたこと、またセメントの生産、森林破壊なども加わってこのような結果になったのである。さらにメタンも増えている。メタンは農業(水田、家畜)による排出がおもで、他に湿地、天然ガスなどからの放出があると考えられている。

 下はIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change 気候変動に関する政府間パネル)の第4次レポート(政策立案者向け要約(自然科学的背景))、2007年2月2日)で示されたデータである。なお、この政策立案者向け要約の日本語訳は気象庁のサイトで読むことができる。IPCCは地球の温暖化傾向ははっきりしているとしている。また、それが人為的原因によるとほぼいえるようになったともしている。

 IPCCのグラフは過去1万年からのものであるが(だから産業革命後の二酸化炭素増加の異常性が浮き彫りになる)、下の工業地帯から離れているハワイのマウナロアの1950年以降のデータを見ても、大気中の二酸化炭素は着実に増加していることがわかる。つまり、地球大気中の二酸化炭素が増加していることになる。気象庁のデータを見ても増加量は減っていない。

大気中の二酸化炭素の増加(ppmは100万分の1を表す):IPCC第4次レポート
http://www.ipcc.ch/SPM2feb07.pdf
大気中のメタンの増加(ppbは10億分の1を表す):IPCC第4次レポート
http://www.ipcc.ch/SPM2feb07.pdf
図で見る環境白書(平成22年(2010年)版)
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/index.html
気象庁の観測地点である綾里、南鳥島、および与那国島における大気中の二酸化炭素濃度変化
季節変化があるのは、植物の光合成量が季節変化するため。
http://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html

 だが、二酸化炭素の増加が気温に与えてきた影響はほんとうはどうか。なにしろ、人類が二酸化炭素を排出しなかった場合との比較ができない。つまり、バックグランドの地球本来の気温の変化がよくわからない。地球の気温は数万年、あるいは数百万年、さらに数千万年、数億年のスケールではかなり変化している。これについては、「われわれは何者か」の「第二部−1− 地球の歴史」の「第4章 大気と海の歴史」を参照。

 産業革命以降の気温の変化を見ても、大気中の二酸化炭素のように単純に上昇しているのではなく、1880年代〜1900年ころ、また1940年代から60年代まではかえって下降しているように見える。気象庁も1970年代は、寒冷化、さらには氷河期に向かっているのではないかという心配もしていた。ただし、1980年から2010年までの長期傾向をとると温度が上がっていることがわかる。

気温の変化(上)、海水面の高さの変化(中)、地表が雪と氷におおわれた面積の変化(下):IPCC
http://www.ipcc.ch/SPM2feb07.pdf
図で見る環境白書平成22年(2010年版)http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/index.html
北極海の海氷の減少:環境白書平成22年(2010年)版:http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/index.html

b 二酸化炭素が増えるとどうなるか

 大気中の二酸化炭素が増えれば、その温室効果のため地球の気温は上昇する。(1)で書いたように、大きく見ればこれはたしかである。しかしそもそも、人類が排出している二酸化炭素の半分程度しか大気中に蓄積されていない。つまり、残りは海水や森林などに吸収されているはずだが、その割合もじつはよくわかっていない。1997年の温暖化防止京都会議や2000年11月のオランダでの会議でも、「ネット方式」(削減目標に森林の二酸化炭素吸収量を加えてもよい)が一つの焦点というか、抜け道として使われていた(2・3の補足6・5参照)。

 二酸化炭素を排出するということは、同時にエアロゾル(煤煙や硫酸・硝酸ミストなど)も生成・排出するということだから、それが太陽の入射を押さえるかもしれない(日傘効果、もっとも黒い煤煙が地球を覆えばそれだけ太陽エネルギーの吸収率が高まり、地球の気温を上昇させるという説もある)。温室効果が強まって海水温が上昇すれば、蒸発も盛んになり雲が増えるので、それが太陽の入射を反射させるだろう。それに蒸発のとき気化熱も奪う(その熱は結局大気に入るわけだが)。氷床が融けて海水が増えれば、それだけ余分の二酸化炭素を溶かし込むこともできる。そして、海水中の炭酸イオン濃度が高まれば、石灰岩が形成される速度も速くなり、結果として大気中の二酸化炭素を除去していくだろう。二酸化炭素の濃度が高くなると、植物の光合成も盛んになり、大気中の二酸化炭素を減らすだろう。また、温度が上昇すると、陸上における風化作用も強くなり、これは大気中の二酸化炭素を少なくする方向にはたらく。これらは、二酸化炭素の増加や地球温暖化を押さえる負のフィードバックである。

※ 厳密には、光合成の効率が二酸化炭素の濃度に敏感なのは、イネ、コムギ、樹木などの光合成の初期の段階で炭素を三つ含む化合物をつくるC3植物である。一方、トウモロコシなどの光合成の初期の段階で炭素四つを含む化合物を作るC4植物は、二酸化炭素の濃度が増えても光合成の効率はあまり上がらない。

 だがしかし、海水温が上昇して蒸発が盛んになるということは、それだけ水蒸気による温室効果も加わるということである。海水温が上がれば気体が溶け込める量が減り、海水中に溶けていた二酸化炭素が大気中に出てくるかもしれない。温度上昇(+人類の伐採)による森林破壊で二酸化炭素の増加も考えられる。二酸化炭素ではないが、凍土(ツンドラ)やメタンハイドレートに閉じこめられていたメタンが吹き出てきたり、人類の活動によってメタンが生成されると、その温室効果も加わる。これらのような、二酸化炭素の増加や地球温暖化を促進する正のフィードバック(悪循環)もある。

 さらに、フロン(オゾンをあまり破壊しない代替フロンも)や亜酸化窒素も、微量でも二酸化炭素より強い温室効果を持っているので、この影響も考えなくてはならない。この二つのガスは成層圏のオゾン(地表が太陽からの紫外線の直撃にさらされることを防いでいる。ただオゾンを破壊すること自体は地球の気温を低下させるように働く。)を破壊するので、そのことも心配されている。

 地球の気温の決定には、このように2013年9月)の各要素の評価である。二酸化炭素による温室効果が一番強く働くと考えている。また、総合的にも人為的起源のものが一丸強く働いていると考えている。

放射強制力(温室効果など気温の変動に対する効果(プラスが地球を温暖化、マイナスが寒冷化する効果))
単位はW・m-2 IPCC第5次レポート気象庁暫定訳。一番右の欄(LOSU)は科学的信頼度。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/prov_ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdf

※ 放射強制力:厳密には、気候変動の外的駆動要因(二酸化炭素濃度や太陽放射など)の変化による、対流圏界面における放射強度の正味の変化(下向き放射と上向き放射の差)をいう。

 今の科学では気候変動の正確な予測は不可能だが、あえて予測したIPCC(気候変動に関する政府間パネル第4次レポート、2007年2月)によれば、21世紀の末には現在より1.1℃〜6.4℃の上昇ということになる。またそのときには、陸氷の融解、海水の膨張のため、海水面は1980年−1999年と比べて、18cm〜59cm上昇しているという。IPCCはまた、熱帯低気圧の数・勢力の増加・拡大、高緯度における多雨化、低緯度における乾燥化なども警告している。

※ グリーンランドの氷がすべて融けると、海水面は7m程度上昇するという。実際、いまより暖かかったという12500年前(日本では縄文時代)、海水面はいまより4〜6m高かったという。


さまざまなシナリオによる予測:IPCC第4次レポート(政策立案者向け要約(自然科学的背景)、2007年2月2日)
各シナリオの概要については下のサイト、もしくはその日本語訳を掲載している気象庁のサイトを参照。
http://www.ipcc.ch/SPM2feb07.pdf

 
IPCC第5次レポート:気象庁暫定訳(2013年9月27日) 第4次レポートより高い予想モデルもある。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/prov_ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdf

参考:IPCCが使ったコンピュータモデルの妥当性

 下図はIPCCが使った1906年〜2005年までの実際の観測値(黒線)と、コンピュータモデルの計算結果(青帯と赤帯)の比較である。青帯は太陽活動と火山活動などの自然的な要因だけを考慮に入れたモデル、赤帯は人為的要因(二酸化炭素の排出など)も考慮に入れたモデル。このように、過去の観測値とコンピュータモデルの計算値を比較することにより、人為的な要因も考慮に入れモデルの方が実際の観測値によく合うことがわかる。つまり、コンピュータモデルはかなり妥当であることを示す(もちろん絶対に正しい完全なモデルが完成したというわけではない)。


IPCC第4次レポート気象庁暫定訳。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1.pdf

 

補足1:二酸化炭素が増えると地球が酸欠になる?

 狭い部屋で石油を燃やすとすぐに酸欠になる。石油などを大量に燃やしたとき、地球全体が酸欠になるおそれはないだろうか。C+O2→CO2なので、二酸化炭素が1モル増えるということは、酸素が1モル減るということである。つまり現在の二酸化炭素0.038%が、もし2倍の0.076%になるだけものを燃やすと、酸素は0.038%減ることになる。しかし地球大気中の酸素は20.949%もあるので、減っても20.911%ということである。このくらいなら問題はない。つまり中毒や酸欠になるおそれは当分はない。

 

補足2:原子力と二酸化炭素

 二酸化炭素が地球温暖化に寄与しているという心配を逆手に、原子力産業は原子力は二酸化炭素排出が少ないということを「売り」にしようとしている。例えば電力中研の見積もりがよく引用されている(図6-10)。

 原子力の見積もりについては、「現在計画中の使用済燃料国内再処理・プルサーマル利用(1回リサイクルを前提)・高レベル放射性廃棄物処分を含めて算定。」と書かれている。しかし、4・6放射性廃棄物でも書いたように、その「処分」は「地層処分」で、しかも埋めっぱなしにするというのが、政府の方針のようである。たしかに、半減期24000年のプルトニウム239の管理・監視を本気でやろうとしたら、そのコストなど計算できないであろう。

 そもそも、二酸化炭素による温室効果の問題と、原子力発電に伴う放射能の問題は、まるで試験において英語の点数と数学の点数を直接比較するようなもので、まったくレベルの違う問題である。


(注)発電燃料の燃焼に加え原料の採掘から諸設備の建設・燃料輸送・精製・運用・保守等のために消費される全てのエネルギーを対象としてニ酸化炭素排出を算定。
原子力発電については、現在計画中の使用済燃料国内再処理・プルサーマル利用(1回リサイクルを前提)・高レベル放射性廃棄物処分を含めて算定。
出典:電力中央研究所 ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価 平成12年3月
電力中央研究所 ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価 平成13年8月

図6-10 発電方法による二酸化炭素排出量の見積もり:経済産業省e−原子力のページ
http://www.enecho.meti.go.jp/e-ene/handbook/03_hatuden/3303_kankyo_a.html(e−原子力のページがなくなっている)
ただし、この図をアレンジしたものは電気事業連合会のページで見ることができる。http://www.fepc.or.jp/present/nuclear/riyuu/co2/index.html

補足3:太陽の活動度

 人類が排出する二酸化炭素によって地球が温暖化するという議論の前提は、太陽の活動が現在のものとほとんど変わらないというものである。この前提はどうだろう。太陽の活動は約11年周期である。活動期には黒点の数が増える。逆に黒点の数が少ないということは太陽が不活発な状態ということである。地球の気温の変動に、明瞭な11年周期は見られないといわれている。しかし、1650年〜1700年の間、太陽に黒点がほとんどない状態が続いた。そしてこの頃の地球は寒かったといわれている(マウンダー極小期)。


http://solarscience.msfc.nasa.gov/SunspotCycle.shtml

 では、現在はどうだろう(2011年6月末)。2008年ころから無黒点の状態が出現し、活動期を迎えるはずの2010年になってもなかなか黒点の数が増えない状態が続き、マウンダー極小期の再来の可能性もいわれ出した。最近の黒点数はようやく上向きになってきたようである。しかし、前回の活動期ほどではないという予想も立てられている。


http://www.swpc.noaa.gov/SolarCycle/

 地球の環境を決定する一番のおおもとは太陽であろう。しかし上にも書いたとおり、現在観測されている程度の活動の変化が、実際の地球環境(気象、気候、温度)にどの程度の影響を与えているのはよくわかっていない。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震などを考えると、われわれは今一度自然界のことはまだよくわかっていないという、謙虚な態度に戻ることが大切だと思う。

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