6 地球の環境

 複雑な地球環境を研究するには、どのような手法が必要であろうか。

6・2 物質の循環

 地球は物質に関しては、事実上宇宙とのやりとりがないので、閉じたシステム(系)である。だから、物質(元素)は地球上を循環している。ゴミを宇宙に捨てることは技術的にできないし、それにそんなことは倫理的に許されるものではない。

 例えば、われわれ生物の体をつくっている重要な元素である炭素の循環を見てみる。

 下の図6-2で、生命発生前が実線(青色)である。大気中の二酸化炭素が増えれば海水に溶け込む二酸化炭素が増え、逆に減れば海水から二酸化炭素が出てくる。海水中に溶けている二酸化炭素や炭酸イオンが多くなれば、大気に出したり、炭酸塩鉱物(石灰岩)として沈殿したりする。このような負のフィードバックのために全体が安定なシステムになっている。

 生命発生後が二点鎖線(緑色)である。初めは植物だけだったとすると、一方的に大気から二酸化炭素を取り除くだけである。しかし、呼吸により酸素を消費する動物の登場は負のフィードバックがついたことを意味し、再び炭素の循環は安定する。このように自然界は数億年という長い時間をかけて、安定な状態をつくってきた。大気中の酸素濃度がいつ、今くらいになったのかについては議論があるが、少なくとも現在型の多細胞生物が爆発的に進化をした約5.4億年前(古生代)には、ほぼ現在の濃度に達したと考えられる。

 ※ 大気中の酸素が現在の濃度に達したのは、オゾン層ができて地表が安全になった約4億年前という説もある。大気の歴史についてはこちらを参照

 しかし、ヒト(人類)の登場により、産業革命以後、地殻に埋まっていた炭素(化石燃料)を燃やし、本来は数億年かかる地殻中の炭素の酸化を強制的に行っている(図の点線(赤色))。つまり、全体のシステムを乱す恐れがあることをやっている。時間的にはかつて自然界が経験したことがない速さである。量的にも自然界の循環に対し、無視できない量になっている。環境問題に対する見方の一面である。


図6-2 炭素の循環:島津康男(1969)と松井孝典(1998)から作成

 

補足:炭素の流れの量

 まだ数値の信頼性はそれほど高くないことを前提に、量的にもう少し細かく見てみる。 大気<=>植物・動物間では110×1012kg/年で釣り合っている。だが、海洋→大気では102×1012kg/年、大気→海洋では105×1012kg/年だから、その差の3×1012kg/年が毎年大気から海洋に移動し、そこに蓄積されるはずの量である。実際はさらに海底に沈殿しているのかもしれない。

 人類は大気に(6+2)×1012kg/年の炭素を出しているが、そのうちの5×1012kg/年が大気に蓄積され(二酸化炭素の増加)、半分が海洋に吸収されていると見ることもできる。森林が二酸化炭素を吸収している可能性は低い。また、地殻に入る量は0.12×1012kg/年と見積もられているので、人類が地殻から掘り出している量、6×1012kg/年がいかに多いかもわかる。

 ちなにみに、それぞれの場所にストックされている炭素の量は、海洋が35000×1012kg、大気が740×1012kg、植物+動物が1750×1012kg、ヒト(社会)が2×1012kgと見積もられている。

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