第二部−2− 地球の科学

第8章 鉱物(3)

目次
4. 主要鉱物各論(2)
b.長石
用語と補足説明
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4.主要鉱物各論(2)

b.長石

 長石にはカリ長石、そう長石(曹長石)、かい長石(灰長石))の3種類があり、いわゆる長石はこれらが分子レベルで混じったものである。このように固体のまま、複数の成分が入り混じってできたものを固溶体という。

 つまり長石はカリ長石、そう長石、かい長石の固溶体であり、カリ長石(KAlSi3O8)、そう長石(NaAlSi3O8)、かい長石(CaAl2Si2O8)を端成分という。カリ長石の“カリ”はカリウム、そう長石の“曹”はナトリウム、かい長石の“灰”はカルシウムの意味である。カリ長石は正長石ともいう(正確にはカリ長石の多形のある形を正長石という)。詳しくは下を参照

 ほとんどすべての火成岩(マグマが冷え固まってできた岩石)に含まれている斜長石は、カリ長石成分をほとんど含まない、そう長石と灰長石の固溶体である。

 カリ長石を偏光顕微鏡で見ると、中心からまわりに成長した様子を示す累体構造がよく見られる。斜長石を偏光顕微鏡で見ると、異なった向きの結晶がいくつかくっついた双晶という構造がよく見られる。これらの構造がよくわかる偏光顕微鏡写真は。岐阜大学教育学部地学教室理科教材データベースの中の地質分野デジタル偏光顕微鏡のページを参照。
http://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/chisitsu/dezital_henkoh/index.html

カリ長石 そう長石 灰長石
国立科学博物館:http://research.kahaku.go.jp/geology/sakurai/silica-5.htm

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用語と補足説明

固溶体結晶の構造はそのままで、その中の原子のあるものが別の原子に置き換わっているもの。同じ電荷と同じようなイオン半径を持つイオンが入れ替わっている。液体の水とアルコールが任意の割合で混じり合うことができるように、全体として固体のままで端成分が任意の成分で溶け合っているようなもの。かんらん石の図を参照

 もちろん、ある岩石の中の長石を取り出せば、同じような組成の長石であることが多い。しかし、別の岩石では、異なった組成の長石になっているということである。

 固溶体の性質として、融点というものがないことがあげられる。このことについてはこちらを参照

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固溶体としての長石:長石は、端成分であるカリ長石(KAlSi3O8)、そう長石(NaAlSi3O8)、かい長石(CaAl2Si2O8)がいろいろな割合で混じってできたものである。この3つの成分がどのような割合で混じっているかは、下のような図で表すことができる。

 正三角形の中の任意の一点から、各辺におろした垂線の長さの和は等しい(下の左の図、証明は各自試みよ)。これを利用して、A、B、Cを端成分とする固溶体がどのような組成かを表すことができる。a+b+c=100とすれば、a、b、cの長さがA、B、Cの%を意味する。直感的には、Aに近い点ほどAの割合が多く、Bに近いほどBの割合が多いことを示す。

 そこで、下左の図のように長石の端成分であるカリ長石、そう長石、灰長石をそれぞれ頂点とする正三角形を考えると、長石の組成はその中の点として表すことができる。

 長石はその組成によって、下のような名前が付いている。純粋なカリ長石の化学組成はKAlSi3O8であるが、少しそう長石(NaAlSi3O8)や灰長石(CaAl2Si2O8)が混じっていても、カリ長石という。同じように、少しカリ長石や灰長石が混じっていてもほとんどがそう長石であればそう長石、少しカリ長石やそう長石が混じっていてもほとんどが灰長石ならば灰長石という。

 また、あまり灰長石の成分を含まずに、ほとんどカリ長石とそう長石の固溶体といっていいものをアルカリ長石という。

 どの火成岩(マグマが冷え固まってできる岩石)にも含まれている斜長石は、カリ長石の成分をあまり含んでおらず、そう長石と灰長石の固溶体といってよい。斜長石はそう長石(NaAlSi3O8)と灰長石(CaAl2Si2O8)の組成のうち、NaとCa、AlとSiが自由に入れ替わっていることがわかる。つまり斜長石には、Caの多いものと、Naが多いものがある。

※ 固溶体は端成分が任意の割合で混じり合うとはいっても、実際には存在しない組成もある。長石も下の赤斜線の範囲は実際には存在しない。また下の図で、そう長石−斜長石−灰長石の系列を総称して斜長石ということもある。

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斜長石の相平衡図固溶体には決まった融点がなく、液体と固体が共存できる温度に幅がある。下は斜長石の相平衡図である。縦軸は温度、横軸は組成(左に行くほどそう長石成分が多く、右に行くほど灰長石成分が多い)を表している。純粋なそう長石であれば融点は1118℃、また純粋は灰長石であれば融点は1553℃であり、この温度でのみ液体と固体が共存できる。それは、(純粋な)水が、0℃でのみ液体(水)と固体(氷)が共存できて、0℃よりも温度が高ければ水、0℃よりも温度が低ければ氷の状態しかとれないことと同じである。

 しかし、そう長石と灰長石の固溶体である斜長石は、下図のように液体と固体が共存できる温度に幅がある。もちろんどのような組成でも温度が高くなれば全部が液体になるし、どのような組成でも温度が低くなれば全部が固体になる。どのような組成でも液体になる最低の温度を結んだ線が液相線、どのような組成でも固体の状態しかない最高の温度を結んだ線を固相線という。つまり、液相線と固相線の間では液体と固体が共存できることになる。

 ここで例えば、そう長石60%、灰長石40%からなる斜長石を融かす実験をしてみる。すると、この斜長石は約1230℃で融け始める。最初にできた1滴の液体の組成は、はじめの斜長石の成分よりもはるかにそう長石成分に富んだL0(そう長石90%、灰長石10%)という組成である()。このときは残りの大部分は固体で、その組成はほとんどもとの固体と同じである(そう長石60%、灰長石40%)。さらに温度を上げていくと、融けてできた液体と残りの固体が反応して、できる液体と残っている固体の組成も変化してくる。たとえば1300℃での液体の組成はL(そう長石85%、灰長石15%)、固体の組成はS1(そう長石50%、灰長石50%)、さらに温度を上げて1350℃では、液体の組成L(そう長石75%、灰長石25%)、固体の組成S2(そう長石35%、灰長石65%)となり、そして1410℃で融け終わってもとの組成(そう長石60%、灰長石40%)に戻る(最後の1粒の結晶はS3(そう長石25%、灰長石75%)という組成である)。

 ことのきの液体の固体の割合をみていくと、液体と固体が共存できるとはいっても温度が上がるにつれてだんだんと液体の割合が多くなっていく。1300℃では液体:固体=l1:s1(35%:65%)、1350℃では液体:固体=l2:s2(65%:35%)、そして1410℃で融け終わる(液体が100%)。

 つまり液体と固体が共存している範囲では、温度を示す横線と液相線が交わったところの成分が、そのときの液体の組成(LはLiquidのつもり)、固相線と交わったところの成分がそのときの固体の組成(SはSolidのつもり)であり、そのとき液相線と固相線に挟まれた中での液相線側の長さ(s):固相線側の長さ(l)が、固体:液体の割合を示していることになる。

 今度は、そう長石60%、灰長石40%からなる液体を冷やす実験をしてみる。融かすときとは逆に、1410℃で固体ができ始める。このときに晶出する結晶の組成は、はじめの液体の組成よりもはるかに灰長石の成分に富んでいる(そう長石25%、灰長石75%)。晶出してきた結晶と、残りの液(残液)をかき混ぜて反応させながら冷やすと、1230℃ですべてが固体になる。その間の温度範囲では、液体の組成はL(温度の線と液相線交わったところの成分)、固体の組成はS(温度の線と固相線が交わったところの成分)、液体:固体の割合はl:s(液相線と固相線に挟まれた温度の線の固相線側の長さ:液相線側の長さ)となる。

 ところが実際には、固体である晶出した結晶は、まわりの液体よりも密度が高いために沈殿する可能性が高い。つまり、最初に晶出する結晶はもとの液体の組成よりも灰長石成分に富んでいる。これが沈殿してしまうということは、逆に残りの液体の組成からは灰長石の成分が抜けそう長石成分の濃度が高くなったことを意味する。つまり、残液の組成は下図の赤線に沿って変化し(だんだんそう長石の成分が多くなる)、晶出する斜長石の組成は最初の灰長石成分に富んだもの(Caの多い斜長石)から、だんだんとそう長石成分に富んだもの(Naの多い斜長石)へと連続的に変化してくる。こうしてできた斜長石をみると、最初に沈殿した下の方はCaの多いが、上の方はNaが多い斜長石になっていて、下から上へとだんだんと斜長石の組成が変わっていくことになる。

 つまり、実際のマグマから結晶が晶出して鉱物ができるときは、このようにして最初はCaに富んだ斜長石ができ、それがだんだんとCaが減ってNaの割合が多い斜長石ができてくることがわかる。このことは、マグマの分化のページを参照。

斜長石の沈殿

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ゾーンメルティングコンピュータの頭脳(CPU)に使われるシリコン(ケイ素)は、純度が99.99999999%(9が10個つながるので、テン・ナインという)というものである。こうした高純度のシリコンを精製するのにゾーンメルティングという方法が使われる。こちらも参照

 いまシリコンと不純物が固溶体をつくっているとき、粗製したシリコンを融かし始めると最初にできる液体の中には不純物が濃縮していることになる。そこで、粗製したシリコンの棒の一部をヒーターで熱して部分的に融かすと、そこにできた液体の中には不純物が入り込むことになる。このヒーターを図のように移動していくと、部分的に融けた部分もヒーターとともに移動して、その途中の不純物を取り込んでいく。最後の部分を冷やして固めた後で切り取れば、残りの部分のシリコンの純度は大変に高くなっている。これを何回か繰り返すことによって、テン・ナインという高純度のシリコンが得られるのである。

※ 不純物tがシリコンと固溶体をつくらなくても、不純物のイオン半径が大きいと固体よりも液体中に入りやすくなるので残りの固体中のシリコンの純度が上がることになる。

※ ソーンメルティングについてはこちらも参照。“不純物”が“有用元素”なら、その濃度を上げることにもなる。

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