破壊することは簡単でも、修復することは難しい。環境もまず、できるだけ壊さないようにしなくてはならない。
大気の上空、成層圏(高さ約10kmから50kmくらいまで)と呼ばれているところにはオゾン(O3)の濃度が高いところがある。これがオゾン層である。濃度が高いといっても、0℃、1気圧での密度に換算するとわずか3mm程度の厚さにしかならない。大気全体を0℃、1気圧での密度に換算すると8.4kmくらいの厚さになる。オゾン層はそのうちの3mmという割合である。
だが、このオゾンは地表で生きている生物にとって、非常に重要な役割を果たしている。オゾンは、太陽からの有害な紫外線、とくにわれわれの遺伝情報の担い手であるDNAを破壊する220nm(ナノメートル、nmは10億万分の1メートル)から300nm程度の波長の紫外線を、有効に吸収・カットしてくれるのである。成層圏オゾンが10%減ると、地上の紫外線は20%増え、皮膚ガンが30〜50%増加するといわれている。そのほか、免疫力の低下、白内障の増加も心配されている。そればかりか、稲や大豆など紫外線に対する感受性が高い作物の減収の可能性も指摘されている。もちろん、生態系にも影響するだろう。
大気の構造(気象庁)http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/3-10ozone_depletion.html
この成層圏のオゾンは、冷蔵庫やエアコンの冷媒、精密電子機器の洗浄、発泡剤などに使われていたフロン(CFC、クロロフルオロカーボン)などの化学物質によって破壊されることが明らかになった。
フロンは化学的に安定なため対流圏(地表から高さ10数km程度までの大気、雲ができたり雨が降ったりという気象現象が起こる範囲)では分解されず、成層圏まで運ばれる。そこで太陽光線(紫外線)のために分解して塩素を出す。この塩素がオゾンを分解する。塩素原子一つで、数万個のオゾン分子を破壊するといわれている。
オゾンの生成と消滅(生成と消滅がバランスを保っている) | 上部成層圏ではフロンがオゾンを破壊している | 下部成層圏でのオゾンホールの成因(下を参照) |
気象庁オゾン層に関する基礎知識:http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/3-10ozone_depletion.html |
オゾンは全地球的に減少している。とくに南半球の春(9月〜10月)に、南極上空で急減し、オゾン層に穴があいたようになるのでオゾンホールという。これは南極の冬の上空は極端に冷えるため、氷の粒子が形成され(極成層圏雲)、そこに蓄積された塩素原子が、春になって氷が融けるために一気に放出され、オゾンを壊すといわれている。一方北極は海なので、冬でもそれほど冷えないため、今のところは明瞭なオゾンホールはできていない。ともかく、人口の少ない南半球の南極上空のオゾンホールの面積が増えていることは、全地球的規模で、フロン等による大気汚染が進んでいることを示唆している。
南極上空のオゾンホールは依然深刻な状況(1970年代から80年代は急速に拡大、その後はそれほど拡大していないが年変動が大きくなっている)といえるが、日本上空のオゾン全量は1980年代の減少傾向から、1990年代以降は現状維持傾向が続いている。
なお、オゾン層については気象庁によるオゾン層の解説のページも参照。
1979年10月と2013年10月の南極上空のオゾンホール:http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/link_hole_monthave.html
南極上空のオゾンホールの季節変化と経年変化(右横線が南極大陸の面積):http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/diag_o3hole_trend.html |
図5-3b 日本上空のオゾン層(気象庁):http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/3_1_1.html |
補足:酸素と生命の歴史
地球の大気には、初めは酸素がなかった。そのために成層圏のオゾンもなかった。つまり地表は太陽の紫外線の直撃を受けていた。そのため生物は紫外線がほとんど届かなくなる水深10m以上の海の中、あるいは深海で発生したといわれている。それはおよそ35億年ほど前のことである。その後20億〜30億年ほど前に、光合成により自分で有機物を合成できる生物が誕生した。酸素は光合成の際に生ずる廃棄物で、多くの生物にとっては有害であった。その酸素はまず鉄などを酸化することによって消費されたが(現在の縞状層鉄鉱層)、それも飽和に達するとだんだん大気中にたまるようになる。地球の大気の変遷についてはこちらも参照。