震災列島

震災列島 石黒耀 講談社
ISBN4-06-212608-7 1,800円 2004年10月

目次
プロローグ
第1章 警報
第2章 策謀
第3章 戦雲
第4章 敵陣
第5章 迷走
第6章 安息日
第7章 奇襲
第8章 衝撃
第9章 特攻
第10章 反攻計画
第11章 東海地震戦争
第12章 テロリスト
第13章 破壊工作
第14章 地下要塞
第15章 開戦前夜
第16章 出撃
第17章 潰乱
第18章 開戦
第19章 決戦
エピローグ

〔あらすじ〕

 12月18日、迫り来る東海地震の前兆が数多く現れ、政府(早川首相)ははじめて「警戒宣言」を出す。しかし、起きたのはプレート境界型ではなく、陸に向かって枝分かれした断層が動いたもの、規模もM6.8だった。「空振り」、それでも莫大な被害が出た。浜岡原発4号炉も軽微な損傷を受けた。

 そのとき名古屋市塩見区上汐町の自宅に向かうため、高速道路上でこの地震を体験したのが明石真人とその父善蔵であった。二人は家族営業の地質調査屋(ボーリング屋)であった。

 1月、首相は本当の東海地震後を考え、密かに通貨交換(デフレ)の準備を始める。

 翌年、2月終わりから上汐町は企業舎弟「阿布里住宅」の猛烈な嫌がらせと地上げ攻勢にあっていた。3月22日、町内会長である善蔵は「阿布里住宅」に抗議に出かける。

 4月2日、真人は娘友紀とその恋人千葉巡査長、妻孝子と鉱石取りに出かける。つかの間の楽しい一日。

 4月3日、埼玉南部でM6.9の地震が起き、さいたま市は大打撃を受ける。

 4月4日、友紀が阿布里組の手のものに誘拐、陵辱される。4月6日、見つかった友紀は結局自殺する。

 一人で「阿布里住宅」に殴り込んだ、善蔵は逆に逮捕されてしまう。現場に登場したのは、上汐地区の保安を担当する黒澤警部補であった。一方千葉の努力で、「阿布里住宅」の裏もわかってくる。名古屋進出を狙う関西の長村連合、さらにその裏には自分たちも投票していた小鶴居衆議院議員、さらに沼井島建設、彼らが首都移転にからみ上汐地区が経済活性特別区に指定されることを読んで、巨大な利権獲得を目指していたのだ。そして、彼らは東海地震のさいにこのあたりを焼き払おうと、ガソリンをため込んでいた。

 真人も東海地震を利用して娘の仇を討つ計画を立てる。4月16日に「阿布里住宅」からの示談金(娘を誘拐したのが「もと」社員ということで)1,000万円が提示される。真人はこれを活動資金にすることにする。善蔵も釈放された。かつて、水産関係の道具販売をしていた自宅地下室を〔要塞〕に変え、そこに「阿布里住宅」のヤクザを集め、東海地震の際に発生する津浪に飲み込ませるというものである。

 4月17日から具体的な活動に入る。北朝鮮の地下核実験のニュースもはいる。5月18日に4月3日の埼玉県南部地震の際の京葉コンビナートの火災は、フィリピンのタマリン聖戦機構のテロというニュースも入る。フィリピンには自衛隊が「治安維持」のために出動していた。

 真人や善蔵はボウガンの特訓やら、鉄パイプ爆弾の製造・実験などを行う。

 7月26日、黒澤警部補が警告に来る。7月31日、孝子を預けている仙台の実家に挨拶に行く。

 8月に入ると日本が競争状態なってくる。8月13日の友紀の初盆に千葉巡査長もやってきて、仲間に入れて欲しいと頼まれるが断る。

 8月31日東海地震の「注意情報」が出される。さらにそれが9時16分に「警戒宣言」に変わる。そして、ついに東海地震、さらには東南海地震が起る。メタンハイドレート層の大規模崩壊も起こる。津波が襲いはじめた。

 浜岡原発は運転を停止しようとしていた。上汐町の住民でもあった新見所長は、事故を起こした3号炉の措置のために死を覚悟した。

 警戒宣言が出され、混乱する名古屋の交通整理にかり出されていた千葉巡査長も地震に見舞われる。ビルからはさまざまなものが降ってくる。真人・善蔵の応援には行けそうもない。

 とうとう真人・善蔵も戦闘を開始する。ガソリンをため込んだ阿布里住宅に、ランクルで突っ込み、火を放つ。社長室から脱出しようとした男をボウガンで打つ。ヤクザ達も反撃をする。真人・善蔵は家に逃げる。そこには黒澤警部もいた。

 地下室のシェルターに籠もった真人・善蔵は、ヤクザ達を津波に巻き込ませることに成功する。

〔感想〕

 中越地震の余震が続いているという、まさにタイミングをはかったように出版された。

 地震を背景とした、娘の仇討ちハードボイルド? 前作の「死都日本」はじょじょに進行する「破局的噴火」の状況をうまく書けていた。今回もそういう意味では、さまざまなタイプの地震災害はそれなりに書けていると思う。だが、このようにうまく地震予知ができるか、また津波が予想どおりにやってくるか。怪しげな地震予知の方法などは、小説としてそれをある程度利用するのはやむを得ないが。

 小説としては荒削りすぎ(細部の練りが足りない)? 首相の考えだけ日本が動くのか? またその結果は? あと、善蔵のお説教があんな緊迫した場面で延々とは? 作者の思いはわかるが。

 あと何となく、真人達の戦闘は村上龍の「昭和歌謡大全集」を思い出してしまった。

2004年10月記

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2006年12月記

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