死都日本
石黒 耀 講談社 2002年9月
ISBN:4-06-211366-X 2,300円
プロローグ
第1章 蠢動
第2章 K作戦
第3章 水蒸気爆発
第4章 噴火
第5章 恐怖の大王
第6章 黄泉
第7章 彷徨
第8章 脱出
第9章 ラハール
第10章 真理
第11章 神の手
エピローグ
小松左京の「日本沈没」以来の仰天地学小説。霧島火山(じつは加久藤カルデラを形成した火山の一部という設定)が、大カルデラを形成する超巨大噴火(この小説では破局的噴火→破局噴火)して、日本を壊滅へと導く。これは、地下の大量のマグマが一斉に噴き出て、火砕流は雲仙の普賢岳のように一方向だけに向かうのではなく、火口から四方八方にあふれ出てくる、その勢いは比高700メートルくらいのものなら簡単に乗り越えてしまうというものである。もちろん、火山灰は日本全体を覆うどころか、地球全体の気温を下げてしまう。
主人公は火山オタクの防災学者で、噴火が間近いと思われていた霧島の様子を見に行って、この噴火に遭遇する。同行した新聞記者との必死の脱出行。彼らを火砕流が追いかける。この火砕流に伴う二次爆発、サージ(水平方向に飛び出てくるジェット流)、灰神楽(上に立ち昇るジェット流)、ラハール(土石流)などの描写は精緻きわまる。こうした噴火を疑似体験できる。
だが、もちろん九州一帯は壊滅。日本の存続すら危ない状態に。しかし、ときの政府(長く続いた保守政権を打倒した新興野党政権)はこの巨大噴火を予想し、日本再建の対策までもとっていた。それは世界を向こうに回す大ばくちでもある(日本を救わないと世界の経済が破綻するように「脅す」)。それどころか、こうしたはったりがきかないことも想定し、「衛星徹攻弾」(外国の原子炉を破壊する)を用意するまでの周到さである。
そして、この破局噴火の直後、さらに東海から東南海にわたり、これまた超巨大地震が起こりつつあった(※)。しかし、日本はこうした破局を利用して、世界に先駆けて原子力に代表される集約的な社会から分散型の社会へと再生する道を得たのである。火山灰でおおわれてしまったといっても、それは見方を変えれば肥沃な土地になる得るものであるから。
この小説で描写されている、火山噴火の様子は正しいだろう。しかし、政治・経済はこのようにうまくいくのだろうか。ちなみに著者は現役の医者である。
2002年12月記
※ 1707年の宝永の地震がそのようなものであったといわれている。東海から四国にかけて大被害を出している。そして、この地震の1ヶ月半後に富士山宝永火口からの噴火が起きた。
2002年12月追記
2006年12月追記