地球は有限なので、当然資源も有限である。このまま消費を続けていると、そのうちになくなってしまうのではないだろうか。
(1) 金属資源
有用な元素が利用可能なほど濃縮している場所を鉱床という。利用可能というのは、技術的にはもちろん、経済的にもという意味である。例えば、鉄の抽出・精錬方法を知らなかった、つまり鉄の利用方法を知らなかった大昔には、いくら鉄が濃縮している部分があっても鉱床にはならなかった。また、海水中にはほとんどの元素が溶け込んでいて、実際、金などもそこから取り出すこともできるが、それをやろうとするととても経済的にとても採算がとれない。つまり、海水は金の鉱床ではない。
では、鉄などの金属資源はあと何年持つであろうか。二つの見積もりを下に示す。ここで、耐用年数(可採年数)とは埋蔵量(確認可採埋蔵量)を、年生産量で割った値である。この数字にはいろいろな問題がある。まず、真の埋蔵量の推定が難しい。新たな資源が探査技術の進歩によって見つかるかもしれない。実際、これまで未探査だった深海からマンガンノジュール(補足1参照)や熱水性鉱床(補足2参照)、さらにはコバルト・リッチ・クラスト(補足3参照)も見つかっている。リモートセンシングの技術も進歩している。こうしたことから、確認可採埋蔵量は増えていくだろう。もっとも採掘すればその分可採埋蔵量は減るわけだし、当然有限な地球では限界がある。
もう一つの年生産量も変動する。一般的にはこれらの元素の消費量は今後も増えていくだろうから、生産量もその分拡大する。ということで、耐用年数という見積もりはあくまでも「目安」程度でしかない。例えばニッケルの耐用年数の変化のグラフを下の図2-0に示す。
元素名 | 耐用年数(年) | 元素名 | 耐用年数(年) | 元素名 | 耐用年数(年) |
アルミニウム | 156 | 鉄 | 117 | 銀 | 14 |
アンチモン | 13 | 鉛 | 24 | テレル | 162 |
ビスマス | 85 | 水銀 | 86 | スズ | 26 |
カドミウム | 39 | モリブデン | 67 | チタン | 96 |
クロム | 123 | ニッケル | 46 | タングステン | 62 |
コバルト | 182 | ニオブ | 171 | バナジウム | 194 |
銅 | 36 | 白金属 | 415 | 亜鉛 | 23 |
金 | 17 | 希土類 | 1029 | ジルコニウム | 41 |
インジウム | 8 | セレン | 58 | ウラン | −− |
表2-1 おもな鉱物資源の耐用年数 |
表2-1-b おもな鉱物資源の耐用年数:社会地球科学(岩波講座地球惑星科学14、1998年)p.33の表を簡略化
非鉄金属資源開発のしおり(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
http://mric.jogmec.go.jp/public/report/2014-08/Non-ferrous_metals_report_20140829.pdf
図2-0 ニッケルの耐用年数の変化。(確認可採)埋蔵量が増えて、消費量がそれほど増えていないので、耐用年数が伸びている。
環境省総合環境政策局ライフサイクル評価(LCA)、「鉱物資源使用」カテゴリーの特性化係数(2004年3月)から引用
(もとデータはUSGS(アメリカ地質調査所2002年))
http://www.lifecycle.jp/manual/coefficient_of_resources.pdf
だが、燃料として用いられるウラン以外の他の金属資源は、一度使用しても回収・再利用が可能である。つまり、そのような社会の仕組みができれば、耐用年数は上の表よりもっと伸びるであろう。なお、ウランの耐用年数についてはこちらも参照。
また、これらの資源の偏在性は非常に高い。埋蔵量を見ると鉄はロシアが38%、アルミニウムはギニアが26%、白金属に至っては南ア共和国が89%という具合である。残念ながら日本には、大量に存在する金属資源はない。最近まで操業していた北海道の豊羽鉱山(鉛・亜鉛)は2006年3月で操業停止、岐阜の神岡鉱山(鉛・亜鉛)はすでに2001年6月に操業停止している。残っているのは鹿児島の菱刈鉱山(金)と串木野金山くらいしかない。
深海底には、マンガンと鉄の酸化物を主体とする、大きさが数cm程度の球状の塊がたくさん転がっている。これをマンガンノジュール(マンガン団塊)という。それには、マンガン、鉄以外にもニッケル、銅、コバルトなどが含まれている。莫大な量存在しているので、資源として重要視されている。公海域に存在するマンガンノジュールは、1996年に国連海洋条約のもとに管理されることになり、日本は1987年、ハワイの南東域の海域に約7.5万km2の鉱区を獲得した。しかし、コストがかさむため、実際の開発には至っていない。
深海には数百℃という高温の熱水が噴き出しているところがある(水圧が高いので、100℃以上でも沸騰しない)。その様子から、黒いものはブラックスモーカー、白いものはホワイトスモーカーといわれる。とくに海底の大山脈(海嶺、海膨という)や海溝近くに多い。高温の熱水に溶けていた金属(銅、鉛、亜鉛、金、銀など)が、0℃近い深海の海水によって急激に冷やされ、析出している様子が煙みたいに見えるのである。その析出した金属がまわりに堆積している。まさに、「熱水鉱床」ができつつある現場である。日本の黒鉱鉱床(秋田県の小坂、花岡鉱山など)は、約1500万年前の海底火山活動に伴う熱水鉱床である。
海山の斜面や頂部をアスファルト状(皮革状)に覆うコバルト含有率の高い海底鉱物資源。中部・西太平洋の水深1,000〜2,400mの海山に存在している。日本(石油・天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC))は、2013年7月、国連海洋法条約に基づき公海域の深海底鉱物資源を管理する国際海底機構理事会の承認を得て、南鳥島の南東沖約600kmの公海域にコバルトリッチクラストの探査鉱区(面積3000km2)の排他的権利を取得した。
これらの鉱床から資源を採集するという研究も始まっている。
図2-1 深海底に転がっているマンガンノジュール 海洋科学技術センター「海から地球と生命へ」 http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/30th/part6/page3.html |
図2-2 ブラックスモーカー:アメリカ地質調査所(USGS) http://pubs.usgs.gov/publications/text/exploring.html |
コバルト・リッチ・クラスト 資源エネルギー庁:http://www.enecho.meti.go.jp/policy/mineral/mineral02.htm |
承認されたコバルト・リッチ・クラストの鉱区。 |
資源エネルギー庁鉱物資源課(平成20年(2008年)8月1日)http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g80801c06j.pdf
鹿児島県菱刈の金鉱山は、江戸時代からその存在は知られていたが、1981年に新たに大規模な金の鉱床が発見された。金の平均含有量1トン当たり40g(南アフリカの金鉱山では1トン当たり5.2g程度)、金の総量250トンを越えるというものである。実際、1983年から住友金属鉱山(核燃料工場で臨界事故を起こしたJCOの親会社)が本格的に採掘を始め、1986年に本格的に出鉱を開始してからわずか11年10ヶ月(1997年6月)で、すでに閉山した佐渡金山が380年かかって産出した全量を追い抜いた。そして、さらに1997年には従来の鉱脈の南西部に、新たな鉱脈も発見された。2008年3月までの金の生産量合計は167.5トン、また7.5トン/年という生産高を誇る。もっとも、世界全体の産出量の中では0.3%程度でしかない。
※ 日本でのリサイクルの対象となるいわゆる[都市鉱山」中の金属は、金は約6,800トン(世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%)、銀は60,000トン(22%)に及ぶという。(物質・材料研究機構2008.1.11)。
この鉱山は、広い意味での火山活動によってできた鉱山(火成鉱床という)で、地表の割目に地下水・マグマ水(熱水)が供給され、その熱水に溶け出した物質(ここでは金)が冷え固まり鉱脈となったものである。生成時期はおよそ100万年前と考えられてる。これは地質学的にみると非常に新しい鉱床である。また65℃の温泉水を伴っていて、その温泉は近くの湯の尾温泉に供給されている。
図2-3 金鉱石:東京大学コレクションII http://www.um.u-tokyo.ac.jp/dm2k-umdb/publish_db/books/collection2/tenji_ganseki_03.html |
図2-4 菱刈鉱山の成因(上)と金鉱脈(下):住友金属鉱山(株) http://www.smm.co.jp/metal/hishikari.html |
(2) 非金属資源
非金属資源は、石灰石、ケイ砂、粘土などを指す。石灰石は建築用のセメント(石と混ぜたものがコンクリート)、薬品などの原料として使われ、ケイ砂はおもにガラスの原料となっている。粘土は陶磁器、化粧品や紙のコーティング材というような身近な製品に利用されている。