化学エネルギーで生命を維持しているわれわれ人類が(地球型生物が)、本当に核エネルギーを制御できるであろうか。
(1) 経済性の問題
下のグラフは、電気事業連合会が試算した各発電方法による、1kWh(1キロワット時)の発電にかかる費用である。これだけを見ると原子力は一番安い電力となる。だが、この原子力の数値は「廃炉関係、放射性廃棄物処理処分等の関連費用は含む」となっているが本当だろうか。例えばプルトニウム239など、半減期は24000年もある。すなわち少なくとも十数万年間は厳重に管理・保管する必要がある。そのような経費が試算できるのであろうか。これは二酸化炭素排出量の試算と共通の問題である。4・6の(2)、6・3の(2)のbの補足2参照。
また、下左の試算は設備利用率80%で行っているが、2002年以降80%を下回っているどころか、2008年度には60%を割っている。こうした設備利用率の低さは当然コストに跳ね返る。また稼働できないということは、何らかのトラブルがあったわけで(中越地震に端を発した柏崎刈羽原発のように)、それに対応するためのコストもかかってくるということである。
1kWhあたりの発電のコスト(円) 電気事業連合会 http://www.fepc-atomic.jp/library/zumen/index.html |
原発の稼働率:資源エネルギー庁エネルギー白書2013 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htm |
※ 原子力情報資料室には、同じく1kWh発電に要するコストとして、原子力発電5.73円、LNG4.88円、石油8.76円、石炭4.93円、水力7.2円という試算結果も出ている(原子力発電の経済性に関する考察2005年6月12日)。
(2) 諸外国の状況
現在の各国の発電に占める原子力の割合は3・4参照。先進国では1970年代以降、原子力発電所の建設はあまり行われなくなっていたが、21世紀に入り少し情勢が変わってきた。資源エネルギー庁エネルギー白書2013参照。「欧米以外の国々では積極的に建設を進めている国も多い。
※ 2011年3月11日に起きた福島第一原発の事故のため、この情勢が再び変わる可能性が高い。
各国原発の発電量と稼働率:資源エネルギー庁エネルギー白書2013
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2013energyhtml/2-2-2.html
アメリカ:1978年以降原子炉の新規発注なかったが、2006年、NRGエナジー社が、GE、日立と協力して改良沸騰水型原子炉2基をテキサス州に建設する計画を発表。そして、2007年以降新規建設を再開させた。ただし、高速増殖炉開発からは撤退している。また、ブッシュ政権時代に一度決まった高レベル放射性廃棄物最終処分場の建設場所についても、白紙に戻った状態である。ただし、米電力大手コンステレーション・エナジーは「採算が取れない(シェール・ガスなどとの価格競争に勝てない)」ということで、原発の新設を中止した(2010年10月10日)。さらに2、012年10月にはドミニオン社のキウォーニー原子力発電所、2013年2月にはデュークエナジー社のクリスタルリバー3号機の閉鎖が発表された。
イギリス:新規PWR炉建設計画を中止(1995年)。高速増殖炉計画からの撤退。しかし、2006年に新炉建設促進に政策を転換した。
フランス:新規発注停止中(2000年)。世界唯一の商業用高速増殖炉(スーパーフェニックス)は1998年に廃炉決定(実際は2005ごろに解体、費用は約3500億円)。しかし、2004年欧州型改良加圧水炉(EPR)の原型炉の建設、また2006年新世代高速増殖炉の原型炉運転開始宣言。2009年12月現在56基の原発が稼働し、総発電量の8割が原子力でまかななっている。これは、アメリカに次ぐ規模であり、さらには電力を周辺各国に輸出(総発電量の12%)しているという原子力の国である。おランド大統領は原発に比率を下げるといっているが、具体的な行程は不明。
ドイツ:福島第一原子力発電所事故直後に行われた州議会選挙で、脱原発を公約とした緑の党が躍進したに代表される脱原発の世論の高まりを受け、連立政権も2011年4月には脱原子力を推進する立場へと転換した。その後、国内17基の原子炉を段階的に廃止し、再生可能エネルギーとエネルギー効率改善により代替していくための法案が成立した。この政策変更により、8基の原子炉が即時閉鎖となった。
スウェーデン:世界でいち早く1980年の国民投票で廃止の方向性が決定。2010年までに全廃予定だったが、その実施は遅れている。そして、2006年の選挙の結果、新炉建設はしないが、廃炉もしない方針となる。
フィンランド:2013年1月に新しい原子炉建設の入札(日本の企業も参加)を受け付けているように、今後も原子炉の建設を進めるようである。また、放射性廃棄物については、地層処分が決まっている。この件については、フィンランド大使館の説明を参照。この処分場については、「人類後」の地球上の生物について、どうやってこの場所の危険性(絶対に掘り出してはならないか)を伝えたらいいのか野議論も始まっている。
スイス:1990年の国民投票で、2000年までは新炉建設を行わないこと(モラトリアム)が決まったが、2003年の国民投票では、モラトリアム延長、新炉建設支援廃止案が否定された。しかし、新炉建設の動きもある。
イタリア:1986年のチェルノブイリ原発事故を受け、既設原発の運転停止、新規建設の凍結をした。2009年12月段階で稼働している原子炉はない。一時再導入も検討されたが、福島第一原発の事故を受け、2011年6月の国民投票で、再導入は撤回することになった。ただし、電力供給の10%は輸入している。
ロシア:2013年で33基が運転中、10基を建設中。原発推進の方針をスローダウンはしないようである。
韓国:2013年年2月で22基、総発電電力量の29%を原子力発電が占めている(2011年)。さらに4基建設中。2030年までに、総発電電力量の60%を目指している。
台湾:2012年7月で6基514.4万kW、総発電電力量の17%(2010年)を占めている。既存の原子炉40年運転したあとは廃炉にする方針。
中国:2009年12月で11基910万kW、原子力発電の規模を2020年までに6000万kWにする予定。
日本:2009年12月段階で、運転中の原子炉54基、総認可出力4884.7万kWで、アメリカ、フランスに次ぎ世界第3位だった(日本に続くのは、ロシア、韓国、ウクライナ、カナダ、イギリス)。さらに建設中3基(もんじゅを含める)、計画中12基あり、2030年以降も原子力発電が総発電量の30%〜40%程度以上になることを目指していた。その内訳は、下図のように、既設の原子炉の長期運転(40年間の運転が当初の目標だったものを60年間運転にする)を目指し、廃炉になった場合の代替原子炉は新型の大型軽水炉、さらには高速増殖炉をを考えていた。
2011年3月11日の事故以降、今後の方針(脱原発)を巡る議論は決着がついていない。
資源エネルギー庁 http://www.enecho.meti.go.jp/policy/nuclear/nuclear05.htm
(3) 廃炉の問題
すでに古い原発は稼働してから30年以上たち、1990年よりも前から運転しているものも35基もある。今後、老朽化(政府は「高経年化」と表現)、さらには廃炉の問題が大きくのしかかってくるだろう。各原発の運転開始日は原子力白書平成21年版を参照。
商用原子炉としては、1966年に運転を開始した日本原子力発電の東海発電所1号炉(出力16.6万kW)が1998年に運転を停止し、3年かけて核燃料を撤去した後、2001年12月から廃炉の作業に入った。最終的には更地にする方針である。まず、2010年度までの第1期・第2期工事で、使用済み核燃料プールの洗浄・排水やタービン、熱交換機などの周辺機器の解体・撤去を行い、2011年度〜2018年度に原子炉の撤去を行う予定である。廃棄物量は約17.7万トンで、そのうち低レベル放射性廃棄物は約1割の1.8万トンという。この放射性廃棄物を、放射能を帯びた程度に応じて仕分ける作業は非常に難しいという(すでに東海村の実験炉JPDRを解体した研究員の話)。解体・撤去にかかる費用は930億円と見込まれ、そのうち放射性廃棄物の処理費用は580億円と見積もられている。
この1.8万トンの低レベル放射性廃棄物は埋設し、30年〜数100年間の管理が必要となるという。電力業界はこの処分地として、原発運転中に出る低レベル放射性廃棄物を埋設している日本原燃(本社・青森市)の青森県六ケ所村の施設を想定しているが、まだ正式には決まっていない。4・6の(2)参照。
また、中部電力浜岡原発1号炉、2号炉は2009年1月30日で運転を終了した。緊急炉心冷却装置のトラブルもあり、また3号炉以降と比べて耐震性が低く、耐震補強を行うとすると経費がかかりすぎる、それよりも新炉(5号炉)を建設した方が安上がりになると判断したといわれている。運転を停止した1号炉、2号炉を今後どのようにするかはまだ未定である。
福島第一原発の廃炉までのロードマップはこちらを参照。
新型転換炉<ふげん>の廃炉については4・3 原子炉の<新型転換炉>の項を参照。
図4-20 資源エネルギー庁エネルギー白書2010 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htm |
2013年3月31日現在の運転状況:エネルギー白書2013 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2013energyhtml/3-3-2.html |