磁力と重力の発見1 山本義隆 みすず書房 ISBN4-622-08031-1 2,800円 2003年5月 |
磁力と重力の発見2 山本義隆 みすず書房 ISBN4-622-08032-X 2,800円 2003年5月 |
磁力と重力の発見3 山本義隆 みすず書房 ISBN4-622-08033-8 3,000円 2003年5月 |
目次 序文 第1章 磁気学の始まり 古代ギリシャ 第2章 ヘレニズムの時代 第3章 ローマ帝国の時代 第4章 中世キリスト教世界 第5章 中世社会の転換と磁石の指北性の発見 第6章 トマス・アクィナスの磁力理解 第7章 ロジャー・ベーコンと磁力の伝播 第8章 ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』 注 |
第9章 ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化 第10章 古代の発見と前期ルネサンス 第11章 大航海時代と偏角の発見 第12章 ロバート・ノーマンと『新しい引力』 第13章 鉱業の発展と磁力の特異性 第14章 パラケルススと磁気治療 第15章 後期ルネサンスの魔術思想とその変貌 第16章 デッラ・ポルタの磁力研究 注 |
第17章 ウィリアム・ギルバートの『磁力論』 第18章 磁気哲学とヨハネス・ケプラー 第19章 17世紀機械論哲学と力 第20章 ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質 第21章 磁力と重力 フックとニュートン 第22章 エピローグ 磁力法則の測定と確定 あとがき 注 文献 索引 |
遠隔作用である磁力の存在が、同じく遠隔作用である重力(万有引力)の発見につながっていったということを、壮大なスケールで描き出す。地球電磁気学の祖ともいうべきギルバートが出てくるのは、ようやく3巻である。ここまででも、膏薬軟膏(傷を負わせた刀に軟膏を塗れば、受けた傷が治る)などのおもしろい話も出てくる。
ギルバートの地球磁石説は、宇宙の中心で不活性な(土よりなる不動で賤しい)地球であるという、アリストテレス的な宇宙観を打ち破るものであったことを明らかにする。そして彼こそが、イギリスで最も早くコペルニクスを評価したことも。また、彼は慣性が知られていなかった時代の地動説(地球が自転している)の弱点、投げ上げたものがなぜ取り残されないのかも、磁力で納得していた。
ケプラーは天文学と物理学を融合させた。そして惑星は太陽からの力を受けて動いていると確信した。彼はもう少しで逆二乗法則たどり着くことができた。この遠隔作用の力をケプラーは磁力(と区別しないで)と考えた。さらにこの力は、天体どうしばかりでなく、人と月、人と地球が引き合っていることまでいっている。
近代が始まる17世紀のその後、しかしこうした遠隔作用は魔術的な力であり、力は近接作用で伝わるという機械論が席巻する。代表はデカルトである。遠隔力は、魔術や奇蹟と同じようなものだと思われたのだ。
しかし、ギルバートの伝統が残るイギリスでは、遠隔作用を及ぼす力という考えも完全には否定されないで残っていた。そして、フックやニュートンによる、万有引力発見(の先陣争い)につながっていく。じっさいにフックは、惑星の運動を接線方向と太陽の方向に分けて考えるというアイデアをニュートンの伝えたという。
だがやはりきれいに、そして厳密に重力(万有引力)をまとめ上げたのはニュートンであろう。ニュートンは「万有引力の本質は何か」「なぜ万有引力が存在するのか」「万有引力はどのように空間を伝播するのか」という問題を捨象して、数学的法則を明らかにした。遠隔作用を否定するライプニッツの批判に対し、「重力の原因を指定することはしませんでした。…私は仮説は立てません。」といっている。
ただしニュートン自身は、磁力には深入りしなかった。それはのちのマイヤーやクローンの仕事になる。
ある場合はその時代の人達の目線の高さに戻り、ある場合は現在の目線の高さから見おろして、もともとわかっていた磁力、それが遠隔力であることから、磁力をヒントにした重力の発見という経緯を振り返る。
この膨大な3巻本が8万部以上売れているという。それは内容もさることながら、やはりあの山本義隆氏が書いたということが大きいのではないか。われわれの世代(プラスマイナスを含めて)のスターだったわけだから。そして在野で60歳を越えた氏が、こつこつと膨大な資料を集め(パソコンはWindows3.1でインターネットも利用していないという、図はロットリング?)、こうした本を書いたことは確かに驚嘆すべきことで、スターの輝きは失っていなかった。
山本義隆の著書
・磁力と重力の発見
・16世紀文化革命
・世界の見方の転換
2004年4月記