ゲド戦記外伝 ル=グウィン 清水真砂子訳 岩波書店
ISBN4-00-115572-9 2,200円 2004年5月
目次
まえがき
カワウソ
ダークローズとダイヤモンド
地の骨
湿原で
トンボ
アースシー解説
訳者あとがき
カワウソ:カワウソ(メドラ)はハブナーの船大工の息子だった。子供のころから魔法を使えた。もの探しの才能があった。また、老人(姿変え)に目くらましの術も教わった。海賊ローゼンのための船に呪いをかけた(目的地に着けない)。ローゼンに仕えるイヌにばれ、捕まってサモリーの鉱山に送られ、リッキーのもとで水銀の鉱脈探しに使われる。ローゼンに仕える魔法使いゲラック(ティナラル)は、水銀こそが世の種と思いこみ、これを求めていた。水銀の精錬高炉で働く少女アニエブを知る。カワウソはゲラックをうまくだまして、大地の裂け目に落とすことに成功する。カワウソは不思議な力を持つアニエブをつれて逃げるが、途中でアニエブは死んでしまう。遺体をアニエブの故郷に運んだカワウソはそこで匿われる。しかし、ここもイヌにばれてしまう。カワウソの姿を変えて、“手の女”たちがいるというモレドの島を探しに逃げる。
カワウソはペンダーのカゲロウのもとで魔法を学ぶ。風の司として乗った船が難破したとき、カワウソはアジサシとなり、ローク島にたどり着く。ヴィラとモエサシ姉妹に助けられる。この島の森は魔法の中心だという。しかしこの島は30年前に海賊の襲撃・略奪を受けて、かろうじて生き残ったものたちが外界から閉ざしていた。ここは、百年以上前からの魔法使いの結社“手の女”の中心だったのだ。森に住むモエサシ(エレハル)とその近くに住み始めたアジサシは、いつしか仲良くなる。そして、姉妹たちとともにここで「ロークの学院」をつくることにする。アジサシはもの探しの旅に出る。“手の人びと”の一人カラスの協力で「名前の書」を見つけ、その本を持っていた魔女の娘カワカマスも一緒にロークに連れ帰る。アジサシはさらに生徒を捜す旅に出る。
表向きはローゼンに仕える魔法使いアーリー(ゲラックの弟子)は、“手”のものたちの反抗に気がつき始める。母や姉に会いに故郷に戻っていたアジサシは、アーリーに急襲されるが、危機一髪で逃げ出す。
ティナラルを閉じこめた大地を開け、そこに逃げ込む。アーリーはロークに大艦隊を引き連れて征服に出かける。しかしそこではアーリーの魔法は封じられてしまいあっさり負けてしまう。その間、重傷を負ったアジサシは必死になって洞穴から抜け出す。そこにはイヌがいた。イヌはしかしもう敵ではなかった。アジサシ(カワウソ)を助けて母と姉の元に運ぶ。そして、歓待の敗北のニュースも届ける。
ロークに戻ったアジサシ(メドラ)は、モエサシ(エレハル)と二人で暮らすようになる。エレハルの死後、学院に戻ったメドラは長(賢人)として、門番の役につく。
ダークローズとダイヤモンド:大金持ちの商人ゴールデンの子ダイヤモンドは歌が好きだった。また魔法の才もあった。魔女の子ローズとも仲良しだった。16才のダイヤモンドは、有名な魔法使いヘムロックに認められてその弟子になる。名前だけを覚えさせられる退屈な毎日だった。ロークへの留学を進められたダイヤモンドは、うちに逃げ戻る。ダイヤモンドはローズに会うが、気持ちはすれ違う。ダイヤモンドや父に商売を受け継ぐと告げ、父は大いに喜ぶ。ダイヤモンドは19才の誕生日(命名日)の宴会の日、楽師の一員となってやってきたローズの楽団の一員となってうちを抜ける。父は最後まで許さなかったが、母は歌手として名をあげた息子の噂に安心する。そして、孫もできた息子夫婦にも会うことができた。
地の骨:ダルス(ヘルス)のもとに自分から弟子入したダンマリ(オジオン)だった。もう弟子をとらないと決めていたダルスだったが、何となくダンマリを受け入れる。研究に没頭しているとき不意に「ヤギを飼いませんか」といわれても怒る気にならなかった。ゴント港の領主の求めで、ダルスはダンマリをゴントに送る。
地震が起こることを察知しダルスは、ダンマリを呼び寄せ、子供のころに教わったアード(太古の力を伝える女性)から教わった「もとに戻らない姿変え」の呪文を唱える。それは自らが地の骨となって山の骨と一緒になり地震を抑えるものであった。ゴントの町に戻り、よろい岩を抑えていたオジオンの名声は高まる。オジオンはダルスがすんでいた小屋にしばらく住むことにする。ヤギも飼って。
湿原で:ハブナーの北西の島セメルの火山灰地は湿原であった。そこに住む人は牛を飼ってひっそりと暮らしていた。牛の病気がはやっていた冬、不思議な旅人(オタク=イリオス)が流れ着き、村はずれのメグミのうちの住みつくことになる。彼は家畜の治療ができたが、どこかに変わったところがあった。金銭感覚のないオタクは多額の「下宿料」をメグミに払おうとしたり、ケチなハンノキが小額の家畜の治療費でごまかそうとしても気がつかない。しかし、別な治療師アイエスと諍いになり、思わぬ力を発揮してしまう。村人はオタクを怖がる。
もう一人の旅人(タカ=ゲド)が来る。村人はメグミ(エマー)のうちを紹介する。タカはオタクの素性をメグミに話す。子供のころから魔法に長け、ロークでも競争心旺盛で、ついには禁断の魔法=「呼び出しの術」(生きている人間を呼び出し力を抜く)を始めた。不意打ちをかけられた呼び出しの長と、大賢人になりたてのタカはようやくの思い出オタクを破る。オタクは逃げ出す。ようやく回復した呼び出しの長とタカはわかれてオタクを探す。そしてようやくここで見つけけ、ロークに連れ戻そうとする。しかし、イリオスは家畜の治療師として、メグミのうちにとどまることにする。
トンボ:ウェイ島の名家、しかし現在はたくさんに別れて諍いを続けているアイリア一族の本流、その当主は酔いどれの毎日を過ごしていた。娘トンボは魔女バラに名前を付けてもらう。その名はアイリアンだった。アイリア一族のカバノキは父が残した遺産で安逸な日々を送っていた。そして、お金持ちの流行である魔法使いを雇うことにした。魔法使いゾウゲはマントも杖も持っていなかったが、目くらましの術でカバノキを魅了する。カバノキはトンボの噂を聞き、彼女に接近する。そして、トンボをそそのかして、男に変装してロークに入り込むようにし向ける。だが、ゾウゲはロークを追い出されたたんなる色好みの男であり、こうしたこともトンボをものにしようとしたものだった。しかし、そうしたゾウゲの意向とは無関係にことは進み、トンボは守りの長に名前をいって、女人禁制のロークの館に入り込むことができた。
9人の長たちはトンボを受けいるか否かの会議を始める。様式の長(アズバー)は森の小屋(カワウソの家)にトンボを住まわせる。長たちは分裂していた。大賢人ハイタカに会いに死の国に行っていた呼び出しの長は、自分が戻らないといっていたハイタカが戻ってくると倒れてしまう。しかし、復活した呼び出しの長(トリオン)は黄泉の国から戻った自分が大賢人になるのは当然といいだした。トリオンにそののかされた院生たちがアイリアンを追い出そうと、カワウソの家を襲おうとしてやってきた。アイリアンの側は、様式の長、守りの長、薬草の長、名付けの長であった。アズバーはトリオンにロークの山で会おうと伝えるようにいって、5人は森の中に入っていく。アイリアンを先頭に山に向かう。途中でトリオンたちと合流して頂きに向かい始める。トリオンはアイリアンの名を呼び支配しようとする。だが、アイリアンは竜となり、トリオンを滅ぼして飛び去っていく。
アースシー解説:ル=グウィンによるアースシーの解説。人と言語(人々、竜、言語、文字、文字、ならびに歴史の起源)、歴史(起源、アーキペラゴの歴史、カルカドの歴史)、魔法、禁欲と魔法の解説。
感想:壮大な物語の空隙を埋める小品集。初め男性上位に仕立てられた物語だったゲド戦記も、作者(女性)の加齢と社会状況の変化でだんだん女性上位になってきた? 最後の「禁欲と魔法」などその典型?
2004年6月記