アースシーの風 ゲド戦記V ル=グウィン 清水真砂子訳
岩波書店 2003年3月 ISBN4-00-115570-2 1,800円
第1章 緑色の水差し
第2章 王宮
第3章 竜会議
第4章 イルカ号
第5章 再結集
訳者あとがき
四半世紀にわたって書き続かれたゲド戦記の最新作(たぶん最終巻)。
これまでの戦いでまったく力を失い、故郷の小さな島(ゴント島)でひっそりと暮らすゲド(ハイタカ)。そこでは、住民からもさげすまされている。でも、ゲドは伴侶テナー、謎の子テハヌーがいれば幸せだった。
そこへ心優しい修繕屋ハンノキ(ハラ)がたずねてくる。最愛の妻ユリを亡くし、でもユリが死者の国と生きているものの国を隔てる石垣に招く。だが、その石垣にユリが再び現れることはなく、他の死者がハンノキを引き入れようとする。眠れぬハンノキはゲドに救いを求めに来たのだ。
一方、竜が再び人間の世界(アースシー)に現れ、悪さをするようになる。アースシーの王レバンネン(アレン)はその対策のために、テナーやテハヌーを王宮に呼ぶ(ハンノキがゲドを訪ねたのはそのあと)。
さらに対立するカルカド人の王ソルが娘(セセラク)を送り、ゲドとテナーが全きものとしたエレス・アクベの腕輪を要求してきた。
ハンノキもゲドの紹介で王宮に行く。賢人や将軍も集まる。テハヌーに呼ばれた竜(カレシン)の子アイリアン(みんなの前で竜から人の女の姿に変わる)も加わり、賢人達のすむロークに出向く。そして世界の中心、“まぼろしの森”に集まる。
かつて竜も人も同じだった。しかし、竜は自由を求め(一部の竜は残り堕落する)、人は“もの”を求め、分割してしまったという歴史も明らかになる。
修繕する力をなくしたハンノキの道案内で石垣の所に行き、みんなで石垣を壊す。こうして石垣の向こうに閉じこめられていた死者たちも解放(消滅)する。ハンノキはユリと再開し、一緒になる(死ぬ)。
こうした過程で、レバンネンとセセラクも気を許しあう仲となる。テハヌーは竜に姿を変え(竜の子だったのだ)、アイリアンとともに去っていく。
テナーはゴント島に戻り、ゲドとの安寧の日々に戻る。
ゲド戦記といいながら、たんなるふつうの老人となったゲドはもう活躍しない。すでに老境の作者は穏やかな癒しの物語としている。でも、ちょっと脳天気な「ハリーポッター」とはスケールが違う。全体に寂寥感がただよう。いっさいの「分割」(男女・民族、竜と人、さらには生死さえ)は意味がないといいたいのだろうか。
全ての女性がテナーみたいに優しいと(ゲドの面倒を見るのが歓び)いいのだけど。p.184「あのひとのことが心配で。いえ、家事は私にまけないくらいちゃんとやりますよ。でも、わたし、あの人を一人にして来たくはなかった。」。ちなみに作者は女性。
とはいえ、I〜IVまではほとんど忘れているので、落ち着いたら読み直そうと思う。さらに「ゲド戦記外伝」もそのうち出版されるようで、こちらも楽しみに待つことにする。
2003年4月記