台湾の少年1・2


台湾の少年 游珮芸・周見信作 倉本知明訳 岩波書店 (全4巻予定)
(1) 統治時代生まれ ISBN978-4-00-061545-7 2,400円+税 2022年7月
(2) 収容所島の十年  ISBN978-4-00-061546-4 2,400円+税 2022年7月


 蔡焜霖(さい・こんりん)の伝記漫画。蔡焜霖は台湾の著名な文化人。蔡焜霖の紹介は添付したカバーの表紙裏を参照。


 蔡焜霖は台湾西部の海沿いの地区・清水街(現在は台中市清水区)で1930年12月に生まれた。父・蔡梅芳(さい・ばいほう)は知識人の流れ、いまは街で「梅芳百貨店」(よろず屋)を営んでいる。父はみんなから阿舎(あしゃ=おぼっちゃん)呼ばれ、家族もそう呼んでいる。兄弟は10人(兄3人、姉4人、弟2人)、焜霖は8番目、すでに3人の姉は他家に養子に出ている。


 漫画は1934年4月21日M7.1、死者3,276人の新竹・台中地震から始まる。焜霖はまだ4歳半にもなっていない。この大事件から彼の記憶があるようだ。慎ましくも一家仲良く、助け合いながらの毎日の生活。とりわけ、長姉・阿瓊(あきぃん)は焜霖にとても優しく、焜霖も姉になついている。彼女が結婚して家を出るときは大泣き。


 と、表面的にはのどかな毎日。でも、幼稚園に入るとそこは日本語の世界。漫画では家族内の台湾語をゴシック体(焜霖はチウァ・クゥンリム)、日本語を赤明朝体(焜霖はさい・こんりん)、そして国民党支配後の北京語(焜霖はツァイ・タンリン)を太字明朝体でわけている。初恋の相手は同じ幼稚園の“きみこ(清水・喜美子、楊璧如(よう・へきじょ))。彼女から、ちょっとした冒険を持ちかけられ、一緒に通ってはいけないという道(サトウキビが手に入ることがある)を使って帰ったこともある。


 小学校5年生の時の担任は清水明彦(楊明発(よう めいはつ、イウン・ミンハァッ))、きみこの父、親友で同級生の清水道夫(きみこの兄でもある、楊坤生(よう こんせい、イウン・クゥンシン)の父でもある)、厳しいという評判だが、読書家・勉強が好き、成績もいい焜霖の台中一中への進学を親に勧めてくれる。無事、道夫と一緒に合格。読書家の焜霖は読書サークルにも入る。


 という具合の日本統治時代、皇民教育も疑問なく受け入れていく。1945年1月、商業学校に通っていた兄・焜燦(クゥンチァン)は陸軍少年飛行兵学校に合格、15歳の焜霖にも赤紙が来た。 兄・焜燦は戦後紆余曲折を経て実業家。愛日家で、日本から勲章をもらうほど。


 1945年9月除隊。日本軍が去ったあとに国民党軍がやってきた。そして、1947年2月28日に起きた二・二八事件(横暴な国民党軍に対する反発・暴動)をきっかけに始まる白色テロルの時代。(以上第一巻)


 台中一中時代に読書サークルに入っていたことが仇になり、共産党シンパということで逮捕・拷問・自白書に捺印したために、懲役10年の刑を受ける。もちろん冤罪。その他多くの人々が逮捕、さらには死刑(銃殺)という時代。焜霖はやがて、存在も公にされていなかった台湾南東部の島・緑島に送られて10年。3000人の島民(南方系の人々が暮らしていた)と同じ数の3000人の政治犯が収容されていた。中にも著名な人たちも、また無名でも優しくたくましく生きる人々。焜霖もいろいろな術を学んでいく。


 そしてとうとう10年(1960年9月10日)、刑期満了、やっと釈放された焜霖、優しく迎えてくれる姉・阿瓊(あきぃん)、母や弟、でも父・阿舎がいない…。(以上第二巻)


 いまも大陸中国との緊張関係にある台湾、全4巻のうち第二巻までは、日本統治時代−台湾に押し出された国民党(蒋介石)による白色テロル時代(今とは別な意味での大陸中国との関係)という、世界史的意味でも激動の時代。とりわけ、台湾の人たちを苦しめ、今でも怨念の対象になったいるだろう白色テロル時代。映画「悲情城市」(1989年)でもその時代は描かれていたがそれは遠景だった。この漫画では、そのすさまじい実態が描かれている。当然この白色テロルに反発して、逆に共産党に走る人も出る。


 いまでも、こうした国民党の暴力的独裁が続いていたら、共産党の暴力支配が未だ続いている大陸中国と同じ、白色テロルか赤色テロルかということになっていた。今日の台湾に至るまでには、大変な犠牲があっただろう。

 台湾の少年3・4はこちら

 

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2022年11月記

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