平安京の下級官人 倉本一宏 講談社現代新書 ISBN978-4-06-527301-8 940円 2022年1月
高級貴族と異なり、記録にはあまり残らない下級官人や庶民にスポットを当てる。史料としては確かな古記録のみ、いつの話かわからない説話や、後代に描かれた絵巻物は使わないという方針。当然古記録にはこうした下級官人はもちろん、それ以上に庶民の生活を再現するのは難しい。
それでも上級貴族に振り回される下級官人は大変。上級貴族は凝り固まった先例主義、だからこ儀式の子細をきめ細かく書き留めた日記は重要、とても価値のあるものになる。そんなことはあずかり知らない、下級官人はサボタージュで対抗するしかないか。北面の警護の係さえ出勤していなくて、易々と盗賊に入られたりとか。平安京全体でも、あまり治安はよくなかったようだ。「古代日本の官僚」でも官僚のサボタージュについては同じようなことが描かれていた。
官人でさえ、当時の実態を探るのは大変。だから庶民はもっと大変。この本でも庶民についてはあまり描かれていない。どういう日常生活だったのだろう。例えば何をどうやって食べていたのだろう、市民はどうやって食糧を得ていたのだろうとか。やはり、説話も少し使った方が生き生きした描写ができたと思う。
筆者が繰り返し述べているのは「平安時代の人間は、我々より劣った連中」ではないこと、論理的に、また冷静に考え判断していたこと(もちろん現在とは科学技術は違う)、現代だって、占いや日取りを気にする人が多いではないかといっている。
ともかく、岩波ジュニア新書の「平安女子の楽しい!生活」「平安男子の元気な!生活」で抱いた違和感、平安女子・男子といってもそこに描かれているのは、その時代のほんの一握りの高級貴族でしかないとうもの、とても彼らは平安時代を代表する人たちではない。この本はその反対の方向を目指す本だと思う。
この本をぱっと開いた印象は、紙面が黒いというものだった。固有名詞が多く出てくることもあるが、やはり難しい言葉・漢字が多く使われているからだと思う。自分が書いた文章を印刷してみると、紙面が白いのとは対照的
2022年2月記