進化のからくり 千葉聡 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-518721-0 1,000円 2020年2月
この本は進化の“からくり”を丁寧に説明する本ではなく、進化のからくりにまつわるエッセイ集。しかも題材はほとんど巻き貝、それも陸生の巻き貝(ようするにカタツムリ)。まあ軽妙な語り口の中に、深い内容をさっと込めるという、日本の科学エッセイの伝統を繋ぐものといってもよい。
巻き貝の右巻き・左巻きはどうもすっきりしない。つい渦のように見てしまう。そうではなく、中心から外側に向かってどちら巻きで決めるようだ。巻き貝の成長が中心から外側に向かうので当然といえば当然だが。低気圧ではなく、高気圧として見なくてはならないので戸惑うのだと思う。
第1章の題材は巻き貝ではなく、ガラパゴスのモッキンバード。気候変化による餌となる種子の大きさの変化で進化が起こることが、遺伝子レベルで実証されたという。だが、種子が大きく堅くなれば嘴が大きな個体が増え、種子が小さく柔らかくなればまた嘴ももとのように小さくなった、これが進化だというのには疑問がある。つまり、まだどちらにも変化しうる遺伝子のプールは保たれていて、環境の変化によりどちらのタイプが出現しやすいか・生き残りしやすいかだけのように思われる。
これは、子供のころに読んだイギリスの産業革命によるオオシモフリエダシャクの羽の暗化もそのように書かれていた。でも、最近の厳しい大気環境基準のおかげで、また白い個体も増えてきたという。これも同じように思える。
この本ではは、何かがわかると、それによってさらに疑問が広がっているということが繰り返し書かれている。これはその通りだと思う。かつて、進化を得意とするらしい教員に、「これで決まり」とかいわれて辟易としたことがある。そんなはずはないだろうと思っていた。
少し気になる記述がp.217にある。「日本の科学が自由で、豊かで、誠実で、活力に満ち、世界に対して存在感をはっ喫していた最後の時代のことである。」という文章だ。1990年代終わりのことらしい。バブル崩壊が1991年だから、その影響がようやくそのころ科学界にまで及び、今日に至っているというのだろうか。
この本で、河田雅圭東北大教授が、日本の進化学の重鎮という位置にいるらしいことを知り一安心。若いころの彼(当時は静岡大、異端的存在だった)を評価したことがあるので。
なお、筆者には「歌うカタツムリ」(岩波科学ライブリー)もある。
※ 画像はクリックすると拡大します。戻るときはブラウザの“戻る”ボタンをお使いください。
2020年4月記