ハイドゥナン

ハイドゥナン(上) 藤崎慎吾 早川書房
ISBN4-15-208655-6 1,700円 2005年7月
ハイドゥナン(下) 藤崎慎吾 早川書房
ISBN4-15-208654-4 1,700円 2005年7月
目次
序章 南与那国島
第1章 共感覚
第2章 オペレーション・ヒヌカン
第3章 深海遺跡
第4章 キンバーライト
目次
第5章 雨乞い
第6章 オナリ神
第7章 フチヌマブイクミ
終章 島建伝説
謝辞

[あらすじ] 明治初期(江戸時代末期?)の与那国島、過酷な人頭税に悩むミューガは身重の妻ナサ(島にいては子供を産めない)を連れて島抜けを試みるが、失敗海のもずくとなる。

 2032年、「共感覚」(他人や自然と感覚をともにできる)の持ち主伊波岳志(いなみたけし)は、趣味のダイビングのたびに救いを求める女の声を聞くようになる。彼女は与那国島のヌムチ(巫女)後間袖(こしまゆう)だった。彼女は神から琉球を救うために「琉球の根を掘り起こせ」と迫られていた。やがて、二人はお互いに離れられない存在となる。

 マントルプルームが中国の下から湧き上がり、そこから枝分かれしたマグマが琉球トラフに昇ってきた。そして火山活動(キンバーライトの噴出も)やマグマによるメタンハイドレートの噴出、それに伴う大規模な地すべりで琉球諸島は海底に没する危機に瀕していた。

 政府は領海=海底資源を守るために動き出し、そのために動員された科学者の一部は極秘に住民を救う=地殻変動を抑えるために調査・行動を開始する。

 神に探すことを命じられた14番目の御獄(うんがん)は、与那国島の海中遺跡であること、そしてさらにそれは深海6000mにあるロストキャッスルを模したことであることがわかった。マッドサイエンス(植物生態学者、微生物学者、地質学者、認知心理学者、量子工学者、地球科学者)たちは、ISEIC(圏間基層情報雲理論=神の理論的説明)をもとに、マントルにすむ微生物の力を後間袖の共感覚で利用し熱を逃がすことを試みる。そのためには、神に指名された伊波岳志を深海6000mのキャッスルポイントに送り、そこで祭祀を執り行わなければならなくなった。

 岳志のオナリ神(守護神=姉妹がなる、じつは袖は岳志の…)として、岳志を守るために地上で必死に祈るのであった。

 こうした動きと平行して、屈折して生きてきた岳志の父志郎、事故で記憶力を失った弟の元の話もからむ。さらに、木星の衛星エウロパの海の中の生命(その生命はもちろん地球の生命と圏間基層情報雲を形成している)を助けようとするアメリカの科学者(ネイティブ・インディアンの血を引く)ハリーも出てくる。

 最後に、岳志や袖は、ミューガやナサと渾然一体となり、伝説の南与那国島(ハイドゥナン)を目指すのであった。

[感想]珍しい地球科学小説。単純におもしろいし、そういう意味でもいいと思う。

 日本全体を沈没させるのは難しい。でも、琉球諸島に絞ったので地球科学的にかなりの説得力を持つようになった。「共感覚」の方はそれがないと小説が成り立たないので仕方ないと思う。きちんとラブロックの「ガイア」との違いも述べられているし。日常をこなしながら、また岳志との関係を知りながら、ヌムチを勤める袖もいい。

 「死都日本」「半島を出よ」もそうだが、どうしてもこうした小説では政府関係者の描写が画一的になってしまっている。

2005年9月記

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