第二部−3− 大気と海の科学

第19章 エルニーニョ

目次
1. エルニーニョ
2. エルニーニョの影響
用語と補足説明
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1.エルニーニョ

 エルニーニョとは、ペルー〜エクアドル沿岸から熱帯太平洋の中部までの広い海域の海水温度が平年よりも高い現象が1年程度続く現象である。逆に同じ海域の海水温度が平年より低くなる現象をラニーニャという。

 もともとエルニーニョは、ペルーの漁師達が毎年クリスマスころに海水温度が高くなることに気がつき、神の子(イエス・キリスト)を意味するスペイン語であるエルニーニョと呼んでいたものである。それが観測網が広がったことにより、ペルー沖に限った現象ではなく太平洋全域に渡る広範囲な現象ということがわかってきた。なお、ラニーニャとは女の子の意味である。

 通常時、赤道付近の強い日射によって暖められたペルー沖の海水は、貿易風により東から西に押しやられ、それ補う形で深海から冷たい水が湧き上がってきている。こうして、西太平洋の赤道付近には平均温度28℃という暖かい海水が存在する(気象庁の熱帯夜の定義は最低気温が25℃以上の夜)。この暖かい海水のために大気に水蒸気がたくさん供給され、西太平洋では積乱雲、さらには熱帯低気圧(台風)が発生しやすい状態になっている。この低気圧がさらに貿易風を強めてもいる。なお、エルニーニョと台風発生の詳しい関係については、気象庁のQ&A参照

 ところが、何らかのきっかけでこの東風(貿易風)が弱まることがある。すると、通常時は西太平洋に吹き寄せられていた暖水が東に移動する。これに伴い、積乱雲や熱帯低気圧が発生する場所も東に移動する。これが、さらに貿易風を弱めることになる。このとき、ペルー沖の海水温は冷たい湧昇流が弱くなっているので、通常時と比較すると上がっている。地元の漁師達はこれに気がついていたことになる。


エルニーニョ時(1997年7月)における海水温度の平年差。赤いところほど温度が高くなっている。
気象庁:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html

 逆に何らかのきっかけで東風(貿易風)が強まることがある。すると、ペルー沖では通常時よりも冷たい湧昇流が強まり海水温が下がる。また暖水は通常時よりもさらに西太平洋に吹き寄せられ、そこでは積乱雲や熱帯低気圧がより発生しやすくなる。これがラニーニャである。


気象庁
http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html

 東風(貿易風)の強さと、太平洋赤道海域の西と東の海面水温の差の大きさは、互いに強めあう・弱めあうという関係があることがわかる。気圧についても、南太平洋東部(タヒチ付近)で平年より高い時には(ラニーニャのとき)、南太平洋西部(インドネシア・オーストラリア付近)で平年より低く、南太平洋東部で平年より低い時には(エルニーニョのとき)、インドネシア付近で平年より高いという、シ−ソ−のような変化をしていることが20世紀初頭から知られていて、それを南方振動(Southern Oscillation)と呼んでいた。現在では、この南方振動とエルニ−ニョ現象は、大同一の現象として認識されてる。このため、両者を併せたエルニ−ニョ・南方振動(El Nino/Southern Oscillation:ENSO:エンソ)という言葉もよく使われている。つまり、エルニーニョ(エンソ)の本質は、大気と海洋の相互作用なのである。

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2.エルニーニョの影響

 通常時のペルー〜エクアドル沖では、深海から湧き上がる海水(湧昇流)は、海底に堆積した有機物も一緒に巻き上げてくるため、浅海でそれを栄養とするプランクトンが大発する。そしてそれを食べる魚(例えばカタクチイワシ(アンチョビ))がたくさんに生育でき、世界でも有数の良い漁場となっている。また、アンチョビを食べる海鳥が巣をつくっている島に糞をする。その糞がよい肥料にもなる(グアノの呼ばれるリンを含む肥料)。だがエルニーニョ時のペルーは、付近の海水温が上がるために気温も上がり、雨も多くなる(洪水を招くこともある)。湧昇流が弱まり漁業もとなる。さらには肥料の生産も落ちる。こうして、エルニーニョは、ペルーの漁業・農業に影響を与えていた。

 現在では、エルニーニョはこうした地域的な影響ばかりか、全世界の気象に影響を与えていることがわかっている(下図参照)。

気象庁:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/tenkou/sekai1.html

 上図によると、エルニーニョ時の日本の夏は平年よりも低温・多雨の可能性が高いことになる。また冬は高温・多雨の可能性が高いことになる。詳しくは気象庁の解説を参照。

 だがしかし、熱帯太平洋以外の地域から離れた日本などではその影響は間接的であり、エルニーニョが起これば必ずこうなるというものではない。また、いわゆる地球温暖化とエルニーニョの関係もわかっていない。

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用語と補足説明

エルニーニョとエルニーニョ現象:気象庁は、季節現象としてペルー沖の海面水温が上がることをエルニーニョ、数年に一回、熱帯太平洋規模で発生する現象のことをエルニーニョ現象といい両者を区別しているが、一般にエルニーニョといえば、気象庁のエルニーニョ現象を指している。

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エルニーニョとラニーニャの発生:それぞれの現象の過去における発生は下の通り。
エルニーニョ現象 ラニーニャ現象
 
1949年夏〜   50年夏
1951年春〜51/52年冬
  
  53年春〜   53年秋
  54年春〜55/56年冬
  57年春〜   58年春
 
  63年夏〜63/64年冬
  64年春〜64/65年冬
  65年春〜65/66年冬
  67年秋〜   68年春
  68年秋〜69/70年冬
  70年春〜71/72年冬
  72年春〜   73年春
  73年夏〜   74年春
 
  75年春〜   76年春
  76年夏〜   77年春
 
  82年春〜   83年夏
  84年夏〜   85年秋
   86年秋〜87/88年冬 
  88年春〜   89年春
  91年春〜   92年夏
 
  95年夏〜95/96年冬
  97年春〜   98年春
  98年夏〜 2000年春
2002年夏〜 02/03年冬  
 
2005年秋〜   06年春
  07年春〜   08年春

気象庁:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html

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このページの参考となるサイト

気象庁のエルニーニョの解説:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.htm

東京大学気候システム研究センターの解説:http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/docs/elnino/elnino.html(2009年5月29日、リンク先につながりません)

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