黄色い家 川上未映子 中央公論社 ISBN978-1-12-005628-4 1,900円+税 2023年2月(2023年5月第3刷、読売新聞2021年7月〜2022年10月連載)

 小心な若い女性のピカレスクロマン? 時代背景は1990年代終わりころから2020年代初め(コロナ禍のころ)。

 伊藤花は、ふと目にしたネット記事で「吉川黄美子(60歳)」の名(2020年1月)を見つける。若い女性を監禁して暴行を加えた罪とあった。黄美子はそのような人だったのか。
 その名から一気に20年ほど前の若いころのことを思いだす。スナックで働く母子家庭、東村山のトイレも共有、風呂もないぼろアパートの一室に住む、母が満足な子育てができないために中学生から必死にバイトに明け暮れる。その必死ではたらいて貯めたお金を母の愛人に盗まれてしまう花。

 絶望した花は、母の知り合いであるらしい、でも正体が分からない、一時東村山のアパートで一緒に暮らした生活実感のない吉川黄美子(母の昔のスナック仲間らしい)と三茶で同居し始める。黄美子は料理が上手、掃除好き。その住居も、始めたスナックも黄美子の知り合いである(同世代)、どうも裏世界の人ともつながっているらしい映水が見つけてくれたもの。

 映水は10代のころ、兄・雨俊、兄の仲間・志訓と一緒に新宿で行動するようになった(雨俊と志訓は本当のやくざになる)、そして当時は、雨俊と黄美子、琴美と志訓がカップルだったという過去も明らかに。つまり映水にとって、黄美子は自分の死んだ兄の彼女だったという関係。また、黄美子には牢獄にいる母がいることも知る。

 黄美子と花子のところに、売れないキャバクラのホステス蘭、超金持ちの娘、でも親から逃げたがっている桃子も参加、中年女性黄美子と10代後半の若い女性3名でスナック“れもん”の仕事と三茶での奇妙な同居生活。

 銀座の高級クラブのホステス琴美(黄美子との関係は上)が月一くらいで連れてきてくれる、超大金持ちが来るとこともあり、スナック経営は順調。でも、居場所を知った母からお金を無心され(母はマルチ商法で多額の借金を負っていた)、さらにはスナックが入っているビルが火事に遭い、すべてを失う。

 ここで助けを出してくれたのが、またも映水。住む家も見つけてくれて、怪しげな女性ヴィヴを紹介してくれる。彼女の元で花は、不正銀行カードを使った犯罪(不正引き出し)に手を染めていく。さらに、スナックの火事のあと、ぼーっと暮らしている蘭と桃子も巻き込み、怪しげな金券売買、複製したクレジットカード使用を手伝わせる。

 だが、ヴィヴから回る仕事も途絶えがちになり、そして途絶える(ヴィヴィは“飛んだ”)、また花の支配的な態度へ不満を持つ桃子との諍いも始まる。映水からは絶対に琴美に教えないこと(志訓の現況、堅気になって今は相手が死んだために父子家庭)を、酔っ払って琴美に話してしまった花。これが琴美の死につながったかもしれないと思い込む(大坂の志訓に会いに行ったことが同棲してた男に知られて虐待を受ける)。

 もう4人での同居生活は無理。一生懸命貯めた2千数百万円を分けて、眠っている黄美子をあとに、世間から取り残されたまま3人は家を出てバラバラになる。

 そしてその後は堅気で細々と頑張って生きたきた花の20年、突然黄美子の記事を見ることになる。琴美は当時すでに死に、桃子は行方不明、蘭とはこの件で20年ぶりに、そして最後に会う。また死の床についている映水とも最後の電話連絡ができて、黄美子の現状と居場所が分かった。もう一度黄美子に会いに行く花、そこには相変わらず何を考えているのか分からない黄美子がいた。

 なお、表題の「黄色い家」は表紙カバーのような黄色い家ではなく、風水を信じる花が、金運がいいという黄色のペンキで彼女たちが住む部屋内を塗った家。

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2026年3月

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