ワクチンの噂 どう広がり、なぜいつまでも消えないのか ハイジ・J・ラーソン 小田嶋由美子訳 みすず書房 ISBN978-4-622-09052-6 3,400円+税 2021年11月
まず原著が、2020年に出版された本(本文の最終稿は1月18日、出版は5月)であり、新型コロナウィルによるパンデミックが始まったばかり(前書きで少し触れることができた程度)、新型コロナウィルス・ワクチンはまだ世の中に出ていなかったときの本であることを確認したい。また筆者はユニセフのグローバル予防接種コミュニケーション部門を率いたこともある、医療人類学というか、予防ワクチン接種人類学というかを専門とする人。
内容は本の裏表紙に簡潔にまとめられていう。反ワクチンの人にいくら「科学的説明」を丁寧に説いてもダメなこと、一部の人は意図的にデマを広げようとしているが、そうした人たちも含めて、自分たちは政治家、企業家、科学者たちに利用されているだけという不満を持っている。そして、とりわけ自分のワクチンに対する不安を医者(などのワクチン推進側)にいうと頭ごなしに否定される、それは自分の人格を全否定されたものだと感じるなど。また一部の“反逆者”、医者でありながら反ワクチンを訴える人など、例えば彼らが医師免許を剥奪されれば、体制から自分を守ってくれる、自己の地位を犠牲にしてまで戦ってくれる英雄として、その反ワクチン言動はますます信頼されていく。
コロナワクチンについても、コロナワクチン以前のワクチンを接種すれば自閉症になる、不妊になるなどこれまでと同じ内容の他、5G回線で感染が拡大する、ワクチンには個人を管理するためのマイクロチップが入っているなど、時代を感じさせるものも加わってきた。中国が開発していた生物兵器が漏れたというのも根強い。陰謀論と親和性が高いのも昔から共通。
つまり反ワクチンの人と向き合うには、その人の背景(家族、経歴、社会的立場など)や、その人の人格などすべてを把握するる必要がある。まさに人類学の問題。これは自分には手に負えないし、残り少ない人生を考えるとその時間がもったいない。だから、自分が反ワクチンの人と対応するとすると、その人−自分という二人の関係ではなく、できるだけ公にして、自分の立場を第三者にも明らかにする必要があるときに限るということになる。
なお、この本では日本におけるHPV(子宮頸がん)ワクチンの問題も、何カ所かで取り上げられている。この本では解説(磯野真穂)で丁寧に事実認識の誤りの指摘や、政府の「積極的勧誘中止」の解説を加えている。ただ。筆者の記述や認識に大きな間違いはないと思う。
HPVワクチン反対派の人たちは、政府が「積極的勧誘中止」している間(2013年6月〜2021年11月)、そのために何人の人が罹患し・亡くなったか評価しようとしているのだろうか。また、新型コロナウィルスmRNAの一つレプリコンワクチンについて、「レプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」という声明(2024年8月8日)を出した日本看護倫理学会は、とくにその「レプリコンワクチンが『自己複製する mRNA』であるために、レプリコンワクチン自体が接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかと」という部分の根拠とした論文の誤りを指摘されているのに、声明を撤回していない。そもそも「感染」といえばいいものを、「シェンディング」と言い換えることにも意図を感じる。
不思議なのは、こうしたマイナーな学会の声明を含めて、反ワクチンの人が手に入れる情報の入手先はどこか、あまり科学に興味なさそうな人がなぜか反ワクチンの情報は知っている。彼らの間のネットワークがあるみたいな気もしている。
それにつけてもコロナに対して、「消毒薬を注射すればいい」とか、「イソジンでうがいすればいい」とかいう、怪しい政治的なリーダーが実権を持っている、これは日米だけではない問題、世界共通の問題だと思う。
目次
プロローグ
謝辞
イントロダクション
第1章 噂について
第2章 尊厳と不信
第3章 リスクについて
第4章 意見の流動性
第5章 山火事
第6章 感情の伝染
第7章 信念の力
第8章 パンデミックと市民
解説(磯野真穂)
原註
索引
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2025年3月記