中国共産党の神経系 周俊 名古屋大学出版会 ISBN978-4-8158-1152-5 6,300円+税 2024年6月
文化大革命のころも、海外情勢を伝える「参考資料」、国内の負の状況も伝える「内部参考」(内部消息)があり、それを読めるのは幹部のみ(幹部の証)ということは知っていた。ただ、誰がどうやってそれを作ったのか(作らせたのか)はよくわかっていなかった。
外国のニュースをまとめるのは簡単だっただろうが、内部はどうか。実際は新華社の記者が自分で歩いて取材していったようだ。地方幹部との軋轢は当然生じる。
この本ではゴミとして流出した1950年代半ばの資料(ゴミとして遺棄されたものを香港の大学が保管した)をおもに使っている。なので、“小躍進”の実態にについて、現場の危機的な情報がどのように毛沢東たち幹部に伝わったのか、それを幹部たちがどのように活用したのかの分析が主となる。
そこでは10のうち9がネガティブな報告でも、一つでも毛沢東指導の成果を讃える報告があれば、毛沢東はそれを採用し、他は“虚偽”のレッテルを貼る。さらには側近(毛の護衛たち)を直接派遣したりする。こうして、ますます毛におもねた虚偽の報告しか集まらなくなる。
これではせっかくの「内部参考」は参考にならず、毛沢東の方針が猪突猛進していく。そしてそれは“大躍進”の破綻につながるはずだが、この本ではその辺の資料が手に入らなかったのだろう、分析はない。“大躍進”の失敗で(あまりに酷かったのでさすがに隠蔽できなかった)、いったん毛が引き下がる、そのへんの党内部の葛藤は不明だが、「悔い改めいない走資派(実権派)」とされた毛のライバルたち(劉少奇など)に破れ、苦汁を飲まされた屈辱が、あの文化大革命時のライバルたちへの過酷な扱いにつながったことは間違いない。
現在の習近平に集まる(習が集める)情報は、誰がどのように集めた、どのようなものなのだろう。一時は側近と思われていた党幹部・軍幹部が次々に失脚している現状を見ると、習とそのまわりのごく一部のみの“神経系”があるのは確かなようだ。独裁が恐いのは、独裁者が好む情報しか集まらなくなること、それがわからなくなることだと思う。
筆者が利用した資料を香港大学が保管しているということは、香港が北京政府(中国共産党)の支配下に入ってしまった今、もうアクセスすることはできなくなっただろう。さらに、中国出身(毛と同じ湖南省)である筆者の身辺すら心配される。国外でも、中国籍の者は中国の法律が適用されるということなので(筆者の現在の国籍はわかりませんが)。
目次は裏表紙帯。
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2025年12月