ゼロからの『資本論』 斉藤幸平 NHK出版新書 ISBN978-4-14-088690-8 930円+税 2023年1月]
旧ソ連の崩壊、そして中国(北京政府)や北朝鮮の現状、これら「社会主義」を標榜した国々の現実の姿から、共産主義に未来はない、マルクスは死んだ、という評価をする人も多いと思う。 さらには、嫌悪感すら持つ人も。
だが筆者は、多くの人たちは働いても生活が苦しいままということから、資本主義が勝利したのではない、資本は自己増速を目的に理中を追求するだけ、だから労働者はもちろん資本家までもが、その資本のために働かされている、まずその現実を見る必要があると説く。
マルクスの業績は、その資本について明確にその性格を見抜き、分析したこと、さらにどう対峙すればいいのかを模索したことであるとする。さらに筆者が強調するのは、晩年マルクスの研究、資本論に反映できなかったその研究が、最近のマルクスの晩年の草稿、読書ノートなどがから明らかになってきたとする。それは現在にも通じる、地球の環境をも考慮に入れたものだったとする。そして筆者はそれを「コモン」(森や水、そして地球全体)とし、そのコモンを資本から取り戻し、民衆の協同管理に置くことが大切とする。
そして目指すべき協同の未来は、「各人がその能力に応じて、各人はその必要に応じて!」のスローガンのような社会。働きが喜びで、また休養・娯楽・創造の時間もたっぷりあるような社会、こうした社会を目指そうと呼びかける。
だが、筆者にもその具体的な処方箋があるわけではない。旧ソ連、さらに中国などの失敗の原因をもっと分析し、また西型福祉社会の問題もえぐり出し(筆者が少しドイツを高評価しすぎているのが気になる)、さらには人間の本姓までも考慮した未来への道筋を考えるしかないと思う。が、既に自分は時間切れ、若い人たちに期待。
目次
はじめに 「資本論」と赤いインク
第1章 「商品」に振り回される私たち
第2章 なぜ過労死はなくならないのか
第3章 イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む
第4章 碧の資本主義というおとぎ話
第5章 グッバイ・レーニン
第6章 コミュニズムが不可能なんて誰が言った?
あとがき
2024年8月記