数学者の思案 河東泰之 岩波科学ライブラリー ISBN978-4-00-029727-1 1,600円 2024年6月(2024年6月第2刷)
筆者は元勤務校の卒業生。もう60歳になるのか。彼は結婚して姓が変わっていて、在校生時代はA君。もちろん当時から数学は抜群で、中学生のうちからT大数学科で勉強していたはず。数学のテストはほとんど満点ばかりだったが、あるとき(実力テスト?)60点台のときがあった。当然他の生徒は0点続出、当時A君の担任(国語系?)が「数学科はA君ばかり見ている、他の生徒のことも考えてほしい。」と数学科にクレームを付けていた。
大学時代はASCII社でバイトというか、社員というかで働いていたはず。この本でも、ゲームプログラムやパソコンの解説本の印税で暮らしていたとある。端から見て、溢れる才能をそんな分野に使うなんともったいないと思っていたが、そうではなく、こんなことは彼にとっては片手間、朝飯前の仕事でしかなかった。実際彼にとっての中高時代は、知っていることばかりの内容でつまらなかったそうだ。彼は飛び級で、高校を飛ばして大学にいきたかったようだ。ただ、彼ほどの才能がないと、飛び級はどうなんだろう、社会全体でそれを積極的に認めるようにならないと、現実的には厳しい結果になる場合が多いと思う。
この本は岩波の月刊「科学」で連載されていたコラムを単行本としてまとめたもの。だから内容は数学の本ではなく、大学の数学研究者の生活、大学の数学教育について(日米の違いなど)、また数学という学界の様子についてなどが書かれている。大学で数学の研究者になろうとする人、数学以外でも研究者になろうという人にはヒントになると思う。
彼自身の最近は、物理学との関係を深めているらしい。じっさい、「科学」8月号の特集「量子力学100年の展開」に彼の名があって、あれっと思ったが、そうだったのかという感じ。
それにつけても、こうした本が1ヶ月も経たないうちに第2刷とは、読者層を知りたい。
目次
まえがき
数学者のなり方
1 頭の良さと研究
2 飛び級
3 日米大学の授業
4 アメリカ大学院留学
5 数学研究と英語
6 数学研究とフランス語
7 数学者のなり方
8 研究と年齢
大学の中で
9 試験の採点
10 難しい試験・難しい授業
11 入学試験
12 専攻長・学科長
13 日本の大学の国際化
14 大学院重点化前の数学科大学院
15 数学研究への公的支援
数学のコミュニティと研究
16 フィールズ賞と国際数学者会議
17 コロナ以後の海外出張
18 ルーマニアの数学
19 ジャーナルの編集委員
20 プレプリントサーバー
21 数学と物理学
22 数学とコンピュータ科学
23 数学者の時間感覚
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2024年9月記