21世紀未来圏 日本再生の構想 寺島実郎 岩波書店 ISBN978-4-00-061640-9 2,600円+税 2024年5月
「日本は一瞬だけ繁栄した奇妙な国」として終わるのか、再生の道はあるのかという問題意識で書かれた本。筆者が繰り返し書いているのが、日本のGDPは20世紀初頭世界の3%程度、敗戦後の1945年も同程度、それが1994年には18%を湿るまでになる(一瞬繁栄した)、でも2024年には再び3%という現実。、この現実を見ないで、過去の栄光がまだ続いていると錯覚している人も多い。また、過去の栄光を無理にでも取り戻そうとする動き=アベノミクスもあった。まか不思議なアベノミクスの評価もある。
明治維新(1868年)から77年で敗戦、敗戦(1945年)から77年で2022年という時間間隔も繰り返し述べられている。確かに不思議な時間間隔と感覚。
円安についての危機感(食料・エネルギー資源が買えなくなる)、赤字国債の問題(後生にツケを回す)などはその通りだと思う。プーチンの評価(ロシア正教を信仰する行程に回帰、偉大なるロシア帝国)とか、習近平の評価(毛沢東に回帰、偉大なる中華民族)とかもだいたいその通りだと思う。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻についていくつかの文が載っている。ここだけではなく他の文もそうだが、日付入りとものが多い。岩波の月刊誌「世界」に載せたものなのだろうか。日付入りなので、その時点での限界もわかる。つまり、ロシアを過小評価していたことが。軍事大国ではあるが、いまや経済小国であるロシア、経済制裁を受ければ国内からはものが消えるという予想、これは見事に外れ、2年以上も戦争を続けている。あと、マスコミは当初ロシアの正規兵は士気が低く、実際の戦闘はワグネルに頼っているという論調だったが、これも実態とは違っていた。プーチンは、トランプが当選すれば、底に活路を見いだそうとしているのか。
そういえば、ロシアの軍事侵攻から1ヶ月くらい経って、親ロシア(?)文化人たちが、「日本政府と中国政府、インド政府が協同して仲介すべき」などと声明を出していたが、あれはあまりにもピントずれ。それに対する自省はないのだろうか。このあたりが文化人の限界。
また筆者は、級統一境界問題に対しては、「『反社会性』よりも『反日性』にある。」とばっさり。「反共」なら「反日」とも平気で結びつくK元首相につながる系譜をばっさり。これはその通り。もちろん、あの団体は「反社会的」でもあると思う。
日本は、ものづくり日本であると自負しているようだが、実際は技能オリンピックでの入賞への関心なし、成績低下に対する危機感なしなどを指摘する。NHKの「魔改造の夜」でも、T橋科学技術大学の学生が(ロボコン世界大会でいい成績だったのに)「日本に戻っても何ら反応がなかった。」といっていた。ものづくりに対するリスペクトがなくなっている。
少子高齢化、つまり選挙時の高齢者得票数の多さが、「老人の老人による老人のための政治」になりつつあることも警告している。とりわけ団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)、若い頃は高い志を持っていただろうに、今は身のまわりにだけ関心、それも懐古趣味に陥っている人が多い。どうすれば、若い人たちにとってよりよい社会になるのかという視点が全く欠けている。
では具体的にどうすればいいのか、これが難しい。筆者は政府関連の委員にもなり、いろいろ提言もしているようだが、それが現実の政策に繁栄されているのか。政府自体(それを支える自民党・公明党)を変える、交代させるにはどうすればいいのか。斎藤幸平の本を読んでも同じことを思った。現実の政治を変えるのは大変。
2024年8月記