モンゴル帝国

モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち 楊海英 講談社現代新書 ISBN978-4-06-536677-6 1,300円+税 2024年7月

 筆者は1964年南モンゴル・オルドス高原生まれ、モンゴル名はオーノス・チョクト、現在は日本に帰化して日本名は大野旭、静岡大学人文社会科学部教授。生まれたころは、中国文化大革命時、筆者の家族は酷い目に遭ったらしく、その件については別の著作がある。

 この本は、筆者の出自であるモンゴルが一番輝いたころ、チンギス・ハーン登場の少し前からフビライ・ハーンの元王朝が崩壊するまでを描く。それも「中華の眼鏡」を通さない(モンゴル=北狄(北狄)であり禽獣(父や兄の妻を娶る風習=生活救済措置)であるという評価、ちなみに当時の日本は東夷)、モンゴル人によるモンゴル史を目指している。

 これまでの歴史において物扱いされていたという女性は、そうではなく政治や経済の実権を握り、ハーンの後継を決める際も決定的な役割を持っていたことを強調する。つまり、男は戦士としての役割だけ、女は生産(家畜の世話、織物)を担っていたので、社会的な地位も低くない、実際、宮帳(オルド、貴人用天幕)内の会議・宴会ではハーンの左側は后などの女性、右側は男性の高官が座っていたとする。

 たしかにそういう面はあると思うが、強調しすぎている気もする。実際はハーンに権力があったわけだし、一夫多妻制、(近代まで残っていたという)略奪婚など。たまたまハーンや実力者の配偶者になれた場合に、うまくすると(本人の才覚と周りの状況)という程度のものだと思う。

 この本で、当時のモンゴル社会に結構キリスト教(ネストリウス派=異端と認定されていた)が入り込んでいたことを知った。東方のキリスト教の王プレスター・ジョン伝説はあながち全く根拠のない話しではなかった。
目次
第1章 遊牧民と女性が世界史をつくった
第2章 チンギス・ハーンと4つの宮帳
第3章 国母ウゲルンとボルテ后
第4章 キリスト教徒の姫君と遊牧社会
第5章 帝国のために、名誉のために
第6章 ハラ・ホリムとオゴダイ・ハーンの宮廷
第7章 二人の孤独な女
第8章 ソルカクタニ・ゲキとその息子たち
第9章 大都に交錯する光と血
第10章 高麗の虹
第11章 ユーラシア大再編のなかで
第12葉 マンドハイ妃の物語
あとがき
年表
参考文献

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2024年9月記

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