核燃料サイクルという迷宮 山本義隆 みすず書房 ISBN978-4-622-09679-9 2,600円+税 2024年5月
おもにヨーロッパ中世の科学史に関する本を出していた筆者(1960年代後半〜70年代初の東大全共闘議長)は、最近今日的な話題についても積極的に発言するようになってきた。1941年生まれの筆者(2024年現在で83歳)にとって、このままでは死にきれないということなのか。
原発(核発電)の一番の問題は、自分自身も再三述べてきたが、もし万が一事故を起こさなかったとしても、運転すればするほど放射性廃棄物が生み出され、それがどんどん貯まっていく、その放射能は人の力ではいかんともしがたい、つまりツケを子孫に回すことにある、という点で思いは一致している。
この本ではさらに、現実的には実現不可能な核燃料サイクルというお題目を掲げることによって、それは自己運動を続けていること、さらにその背景には明治以降の富国強兵という思想が脈々と流れていること、具体的にはそれによってプルトニウムの蓄積はできる(すでに47トン(原爆6000発分)に達する)、つまり潜在的核(爆弾)保有国であり続けたい、それが“一流国”の証でもあるという核ナショナリズムにつながっていることと指摘する(他国からは疑惑の目)。
この本で、最近は高速増殖炉(※)とはいわず、高速炉というようになったというという指摘があり、改めて政府・電力会社の「核燃料サイクル」の図を見てみたら、かつてのキモであったはずの高速増殖炉はなくなり、単に使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して、核燃料に混ぜるMOX燃料サイクルになっていた。たとえば、資源エネルギー庁(2017年)の図。高速増殖炉を含んだ核燃料サイクル図は電気事業連合会。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kakucycle.html
https://www.ene100.jp/www/wp-content/uploads/zumen/7-2-2.jpg
※ 使ったウラン燃料以上のプルトニウムが生産できるという触れ込みだったが、増殖率が1.0を超えることはほとんどないので、その看板が下ろされた。また、“高速”の意味は、核分裂で飛び出した中性子を水で減速する軽水炉(熱中性子炉)ではなく、中性子を減速しない(そのために炉心には軽水(普通の水)のかわりに液体金属ナトリウムで満たす)原子炉。各国で計画は頓挫、もちろん日本も。
最近、電力会社・政府は、カーボンニュートラルの決め手として原発をいうようになった。たしかに“運転中”はそうかもしれない、だがフロントエンド(採掘〜精錬〜核燃料作成)、バックエンド(放射性廃棄物の“処理”)の過程ではCO2を排出する。とくに後者についてはどうするか決まっていないのだから、CO2の排出量を見積もることはできない、電力会社・政府の言い分は、まったくのまやかしだと思う。
目次
序章 本章の概略と問題提起
第1章 近代日本の科学技術と軍事
第2章 戦後日本の原子力開発
第3章 停滞期そして事故の後
第4章 核燃料サイクルをめぐって
終章 核のゴミ、そして日本の核武装
あとがきにかえて
参考文献
人名索引
事項索引
2024年8月記