科学という名の信仰

科学という名の信仰−新型コロナ「ワクチン」政策を問う 福島雅典 岩波書店 ISBN978-4-00-061660-7 2,700円+税 2024年10月

 筆者は1948年生まれの現役の医師であり、LHS研究所(COVID-19とその後遺症、そしてワクチン接種後症候群の問題に取り組むための様々な活動を推進/支援する社団法人)の代表理事でもある。この本の表紙カバーの裏に、「科学データと学術路論文を基にしており、観念論等による『反ワク』論とは別物である」と謳っている。

 だが、筆者はもともとワクチン懐疑派、インフルエンザ・ワクチンも接種したことがない(それでもインフルエンザに罹ったことなない)といっている。だから、コロナ・ワクチンに懐疑的なのは当然(もちろん接種していないし感染もしてないそうだ)。だからmRNAワクチン(この本ではいちいちMessengerRNA「ワクチン」と書いている)そのものに疑問を持っているようだ。コロナ・ウイルスはどんどん変異するのでそもそも意味はないとも。だが、変異にも素早く対応できるのが、mRNAワクチンの特徴でもある。

 コロナ・ワクチンについて丁寧のその問題を展開するのかと思ったら、過去に自分が関わった肺がん治療薬イレッサの薬害について多くを割いている。まあ、「薬害」についての考え方が応用できると考えているのだろう。

 そして、コロナ・ワクチンについては、接種後に死亡した5例とその症状を挙げている。また、身内の接種後癌になった話しとか、同僚でワク新接種をした全員が感染したなど(自分は接種しなかったけど感染しなかった)などの話しも。ただ、ワクチンを接種すれば不死身の体になるのではない。だから、接種後に死んだからといって、ワクチン接種がその原因とはいえない。もちろん、無関係とも断定できない。接種後の死亡例は確かに詳しく検討すべきだろう。

 この点は、厚労省のデータの出し方については自分自身も不満があり、それは接種者・非接種者の感染率・死亡率の比較がきちんと公表されていないこと、死亡者の状態(既往症の有無など)が不明であること。初期にはこうしたことも公表されていたのに(添付資料参照)、最近はきちんと報告されていない。そうした点については同じ感想を持つ。

 でも、逆に世界中で接種が進んだ今日の結果と、ワクチン開発が遅れた場合の結果とを考えるべきだと思う。この評価は難しいが、感染拡大初期の死亡率の高さから考えると、かなりの死者数になったと想像される。この評価もしなくてはならない。

※ 下の日本感染症学会など三学会は「新型コロナワクチンは、世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1,440万人防ぎ 」としている。
https://www.kansensho.or.jp/.../gakkai_covid19_241021_2.pdf

 イレッサの薬害を持ち出すのなら、逆のケース、子宮頸がんワクチンの問題も評価すべきだと思う。つまり、接種推奨ができなかった間にどれだけの命が失われたかも。

 筆者は、「感染症対策は、一人一人が感染防止の基本的な日常生活や行動の注意事項を守ること、一層体調管理に注意して免疫力の低下を防ぐこと、これに尽きる。」といっている。また別なところでは、「我々の体には、もともと健康を維持して、病気や怪我から回復する自然治癒力が備わって」とも書いている。そして自分なりの健康法(食・動・眠・心)も紹介している。確かにそうなのだが、それでも感染して発症することがある。その対策の一つとしてワクチンがあると思う。筆者の言い方では、感染したのはその人の自己管理のなさが原因ということになってしまう。

 表紙カバーに「『利益がリスクに勝る』など、まともな医者なら口が裂けても言えない妄言である。」と本文中の文が抜き出されている。奇しくも2024年10月21日に日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の三学会の「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が出され、そのなかで「ワクチンの利益とリスクの?きさを科学に基づいて正しく?較し、」と書かれている。リスクがゼロでない以上、利益と勘案せざるを得ない。三学会の医師たちもいっているし、政府もそうだろう。だから、個々人もそう判断すればいいと思う。もちろん、この本のような主張も大切なので、それを踏まえて。
https://www.kansensho.or.jp/.../gakkai_covid19_241021.pdf

 2023年のノーベル生理学・医学賞は「mRNAワクチンを実現した修飾塩基の研究」だった。これが科学界の一般的な評価だと思う。もちろんこの評価がぜったに正しいとは限らない、でも今日的な段階ではこれ以外よりはいいだろうと判断する。

※ 受賞の際の解説記事(産総研マガジン)
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20231220.html

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目次
 はじめに
序 章 日本の「ワクチン」政策を問う
 科学・技術立国とは相容れない現実
 温故知新
 「ワクチン」政策の実態
 検証のポイント
第一章 「ワクチン」接種後死亡の現実
 私が意見書を書いた3人のケース
 ケース1:2回目接種5日後、心不全で死亡
 予防接種健康被害救済制度適用認定
 ケース2:2回目接種翌日、大動脈解離
 Kさんの家族の思い
 ケース3:3回目接種翌朝、大動脈解離で死亡
 ケース4:3回目接種後、ヤコブ病の後死亡
 モンタニエ博士報告のヤコブ病か?
 ケース5:2回目接種後、脳出血・心筋梗塞で死亡
第二章 全世界で広がる「ワクチン」の健康被害
 知らされない未曽有の健康被害
 健康被害者と向き合う医師たち
 科学のメスを入れよ
 スパイクタンパク質症(Spikeopathy)
 全国民に「ワクチン」接種手帳を!
 私の身近な人々の場合
 身近な経験から臨床科学へ
 一筋の光明と韻を踏む医学史
第三章 繰り返される薬害
 薬害を生む構造的背景
 イレッサの薬害はなぜおこったのか
 薬害イレッサ裁判での証人証言記録に添えて
第四章 薬の有効性と安全性のバランス
 医療者としての責任の自覚
 規制の科学としての薬剤疫学
 薬物療法と因果関係
 くすりのリスク/ベネフィット
 薬剤疫学と臨床医学
 医療における意思決定
 ベネフィットの理解
 ベネフィットの正しい評価
 リスクの正しい評価
 リスク/ベネフィットのバランス
 リスク――有害反応
 ベネフィット――治療効果
 疾患のリスク、治療効果の算出
 漢方薬の問題
 薬剤疫学上の根本課題
 医薬品適正使用の問題点
 規制の意思決定
 それぞれの自律性(オートノミー)
 補遺 ワクチンの「利益がリスクに勝る」は妄言
 副作用のない薬はない
終 章 健康とは何か?――健康を守るための科学する心
 「ワクチン」でパンデミック解決は不可能
 「病気は薬で治す」という思い込み
 医学のパラダイム変換
 幹細胞療法とは?
 組織工学的治療法とは?
 細胞社会の原理を知って治療をデザインする
 これからの医療は変わる
 新しい医学・医療建設に向けて
資料編
 資料1:薬害イレッサ裁判において、大阪地裁に原告側から証拠として提出された、筆者による厚生労働大臣宛意見書
 資料2:MCIフォーラム講演録〔2023年10月6日〕
 おわりに
 謝辞

2024年11月記

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