時間の終わりまで ブライアン・グリーン 青木薫訳 講談社ブルーバックス ISBN-978-4-06-532007-5 1,800円+税 2023年5月
科学書の翻訳では定評がある青木薫訳なので思わず買ってしまったが、 700ページ近いその分厚さと、なんとなく難しそうな感じもするので、ずっと積ん読状態だった。
まず、基本となるエントロピーの話から始まり(全体としては増大するが、局所的には減少できる=エントロピー・ツーステップ)、宇宙や物質の起源といった物理学・天文学の話、そしてヒトの意識や脳と心、最後にはまた宇宙の話に戻り宇宙の終わりまで。
ヒトの意識や認識も突き詰めれば“素粒子の運動”なのに、それが言語や心を生む不思議。最近読んだ「夢を叶えるために、脳はある」(池谷祐二、講談社)にもつながる話が、ひも理論・素粒子研究者からも出てくる。
この本を読んで、何かがわかったということにはならないが、色々と不思議なことが多い、わかっていないことが多いがわかり、いったいこの世(宇宙)の終わりはどうなるのだろうという漠然とした気持ちにはなる。
グリーンに対しては、すごい知性と教養、古今東西の文学、音楽に精通し、また、現在の人気TV番組やスポーツ(さすがに大谷翔平は出ないがトラウトは出てくる)までをろいろなとこでそれを引用できる人、知の巨人という感想。
本文では数式は出てこないが、26ページに及ぶ原注に数式での解説も出ている。
彼がダライ・ラマと対談したときの、ダライ・ラマの言葉「意識に関しては、仏教には語るべき大切なことがあります。しかし、物質的実在については、私たちは、あなたや、あなたの同僚のみなさんの仕事に目を向ける必要があります。あなたたちの方が、より深いところを見通しているからです。」に対しては、グリーンの、「世界中の宗教指導者や歴的指導者たちがダライ・ラマの簡潔で恐れを知らない誠実な言葉を手本にしてくれたらどんなにいいだろうと思った。」と全く同じことを強く思った。
※ 「進化」という言葉を使うとき、欧米の科学者は「ダーウィン進化」という場合が多いようだ。キリスト教的世界観に対峙するという意識があると思う。
目次
はじめに
第1章 永遠の魅惑 始まり、終わり、そしてその先にあるもの
第2章 時間を語る言葉 過去、未来、そして進化
第3章 宇宙の始まりとエントロピー 宇宙創造から構造形成へ
第4章 情報と生命力 構造から生命へ
第5章 粒子と意識 生命から心へ
第6章 言語と物語 心から想像力へ
第7章 脳と信念 想像力から聖なるものへ
第8章 本能と創造性 聖なるものから崇高なるものへ
第9章 生命と心の終焉 宇宙の時間スケール
第10章 時間の黄昏 量子。確率、永遠
第11章 存在の尊さ 心、物質、意味
謝辞
訳者あとがき
原注
参考文献
索
2024年8月記