夢の砦 矢崎泰久・和田誠 ハモニカブックス ISBN978--4-907349-27-1 2,100円 2022年10月(2022年11月2刷)
雑誌「話の特集」(1965年〜1995年、断続期間もある)を作った二人、矢崎泰久(1933年〜)が、反権力・反体制・反権威な面白い雑誌を作ろうと、和田誠(1936年〜2021年)を巻き込着込もうとしたら(一度酷い目に遭わせている)、「ノーギャラでもいいからデザイン全部やらせてくれて、内容にも口出ししていいなら手伝う。」といわれて、そのとおりになったということらしい。矢崎泰久32歳、和田誠29歳のとき。1965年〜1995年まで続いたこの雑誌の歴史。
※ 「話の特集」という雑誌の名前は、別会社がエロ雑誌として国鉄(!)特別運賃と鉄道弘済会売店販売の許可を得ていたので、それを流用。特別運賃とか、販売許可があったんだ。
表紙はいつも横尾忠則(当時は異端、和田誠は才能を早くから認めていた)、写真では篠山紀信と立木義浩、イラストでは宇野亜喜良もいた。
原稿を寄せたり、対談で登場する種々様々な「有名人」たち。1960年代〜70年代、一部ではとても面白がられていた雑誌、それなりに売れていたと思っていたら、いつも赤字だったらしい。
この本のほとんどは雑誌からの再録。真面目なもの(ユージン・スミスと矢崎泰久の対談とか)、かなり危ないもの(宇野亜喜良と和田誠の対談など)、創刊20年企画では篠山紀信、立木義浩、横尾忠則、和田誠、矢崎泰久の当時を振り返った座談会もある。そのときも、みな互いを「ちゃん」で呼び合う仲間。
和田誠のものもたくさん採録されていて、ショートショートやSF漫画(和田誠虫名)、「おさる日記」も面白い。さらには川端康成「雪国」のパロディもある。
このパロディは大変なもので、「雪国」の冒頭を、庄司薫風、野坂昭如風、植草甚一風、星新一風、淀川長治風、伊丹十三風、赤塚不二夫風、五木寛之風、永六輔風、大藪春彦風、笹沢佐保風、井上ひさし風、長新太風、山口瞳風、池波正太郎風、筒井康隆風、田辺聖子風、東海林さだお風、川上宗薫風、大江健三郎風、田中角栄風、「ねじ式」風、落合恵子風、椎名誠風、司馬遼太郎風、村上龍風、つかこうへい風、横溝正史風、浅井愼平風、宇能鴻一郎風、谷川俊太郎(マザーグーズ)風、蓮実重彦風、、J.D.サリンジャー(野崎孝訳)風、レイモンド・チャンドラー(清水淳二訳)風、丸谷才一風、村上春樹風、俵万智風、吉本ばなな風、井上陽水(コード付き)風と、似顔絵とともに書き分けている。声帯模写でなく文体模写、すごい才能。
即席ラーメンメニューというものあり、インスタントラーメンを素材に6種類の料理が出ている。イラストはもちろん和田誠だが、レシピは平野レミなのだろうか。この雑誌に日本ラーメン工業協会(いまは即席食品協会として発展)がスポンサーとしてついてくれたこと。単純な広告でないところがミソ。
この雑誌に関わる「文化人」は多かったと思う。青島幸男もいた(矢崎泰久は後に彼には批判的)。さらに、中山千夏もその一人(弟子をとらなかった和田誠の押しかけ弟子)。この本には、「テレビ入門」で講師中山千夏、生徒和田誠で出てくる。彼女が参議院議員だったとき、矢崎泰久は秘書だったそうだ(秘書業に忙しく、ほかはおろそか)。そういえば、革自連(革新自由連合、1977年〜1983年)もあった。夢幻の“組織”。
※ 革自連メンバー:愛川欽也、青島幸男、五木寛之、色川武大,、岩城宏之、宇都宮徳馬、永六輔、大島渚、大橋巨泉、加藤登紀子、小室等、鈴木武樹、妹尾河童、田原総一朗、俵萌子、手塚治虫、中山千夏、野坂昭如、長谷川きよし、花柳幻舟、ばばこういち、美輪明宏、矢崎泰久、八代英太、横山ノックと当時の人脈が透けて見える。
経営者としては明らかに失格な矢崎泰久だが、不思議とまわりから支えれるという人望がある人という印象。和田誠の人脈もすごいし。面白い雑誌だった。
2023年2月記