大量絶滅はなぜ起こるのか 

大量絶滅はなぜ起こるのか 尾上哲治 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-533395-2 1,000円+税 2023年9月

 知られている過去の生物大量絶滅は、オルドビス紀末(4.45億年前、O/S境界、種の85%絶滅)、デボン紀末(3.74億年前、F/F境界、82%)、ペルム紀末(2.52億年前、P/T境界、96%)、三畳紀末(2.15億年前、T/J境界、80%)、白亜紀末(0.66億年前、T/Pg境界、78%)の5回。

 有名なのは恐竜絶滅のT/Pg境界で、これに関する本はいろいろ出ている。一番現在から近いし、原因は隕石衝突というインパクトのあるもの。ただ、絶滅に至る過程は諸説あり、そのシナリオは確定していないと思う。

 最大の大量絶滅はP/T境界、よく生物は死に絶えなかったというほどのもの。絶滅の原因については諸説あってよくわかっていない。

 この本は、生物の大量絶滅の中では地味(?)なT/J境界(三畳紀−ジュラ紀境界)を考察する。全9章のうち、7章までは大量絶滅の解説、8章・9章はT/J境界での大量絶原因についての筆者の仮説を提示する。つまり「定説の解説」ではない。入門書では珍しいかもしれない。
 フィールドワークの体験も書かれているので、地質学者の研究とはどういうものかのイメージもわかると思う。


tairyozetsumetsuhanaze-01.jpg (162105 バイト) tairyozetsumetsuhanaze-02.jpg (139204 バイト)

目次
プロローグ 大地
1980年代、ヨーロッパやアメリカから鳥たちの異変の報告が相次いだ。殻が不完全な卵の産卵率はなぜ急上昇したのか? その原因は大地の変化にあった。
第1章 異変
ニューカレドニアには、三畳紀末の海で形成された地層がある。三畳紀末に起きた異変の謎を解く、最初の手がかりだ。生物が小型化し、絶滅した世界「スモールワールド」が見えてきた。
第2章 混沌
ロッキー山脈の東端、ブラックベアリッジという丘陵地にも三畳紀の海の地層がある。そこでは、海退、酸性化、無酸素化という多様な環境変化の記録が見つかった。この混沌の中に大量絶滅の原因が隠されているのだろうか?
第3章 犯人
三畳紀末のさまざまな環境変化を引き起こした有力な容疑者は、巨大隕石と史上最大規模の火成活動。広範囲で見つかる海底地滑りの証拠は、犯人特定につながるか?
第4章 指紋
世界中の地層を対比するには、時間の物差しが必要だ。その目盛りとして、炭素同位体比という「元素の指紋」が使える。海洋の異変、生物の小型化と絶滅、そして地層から見つかった3つの目盛りはどのような順で並ぶのか?
第5章 連鎖
三畳紀末大量絶滅を説明する美しい理論が発表された。それは、二酸化炭素が形を変えながら大気・大地・海洋を変化させていく「連鎖モデル」だ。謎はすべて解けた……のか?
第6章 疑惑
オーストリア・タトラ山脈で見られる三畳紀末の地層には、生命活動の豊かな海と突発的絶滅が記録されていた。連鎖モデルへの疑惑が湧く。二酸化炭素のリレーでは「遅すぎる」!
第7章 消失
化石に記録された三畳紀の海水温が、驚くべき温暖化を示した。温暖化は生物の小型化をもたらしうる。さらに、2つの新しい異変が見つかる。海で生物が小型化したとき、陸地では森と土壌が消失していた。
第8章 限界
どれだけ暑く、湿度が高ければ、生き物は死にはじめるのか? スモールワールドは、極端な温暖化が生命の限界を超えた世界だったのかもしれない。
第9章 境界
現在の地球では、「第六の大量絶滅」が進行中だという。それは本当なのか。環境変化がどの境界を越えると、大量絶滅が起きるのだろうか。
エピローグ 深海
岐阜県の木曽川沿いには、三畳紀末の深海で形成された地層がある。そこで見つかる化石は、何かがおかしい。新たな謎が立ち上がる。

2023年9月記

戻る  home