真珠とダイヤモンド

真珠とダイヤモンド(上・下) 桐野夏生 毎日新聞社 ISBN978-4-620-10860-5 ISBN978-4-620-10861-2 1,600円 1,500円 2023年2月

 ホームレスとなり、夜の井の頭公園を歩き回る伊藤水矢子、突然長い間音信不通だった小島佳那に遭遇する。

 30年前の1986年、福岡の証券会社に入社した3人、短大卒小島佳那、高卒伊藤水矢子、大卒望月昭平、みんな2年後の東京を目指す若者。水矢子は悲惨な母子家庭環境から逃げるための大学進学の学資金を稼ぐ目的で事務職。ほかの二人は業績を上げて東京栄転を目指す営業職。佳那と水矢子はなんと無く気が合う仲。

 ひょんなことからお金持ちの顧客をつかんだ佳那、さらにその人脈を拡大させていく望月、望月はまた佳那に接近していく。なりふり構わぬ望月、場合によっては手段を選ばない方法を使う、佳那はそんな彼にすべてを託そうとなっていく。

 佳那と望月がつかんだ特A客は、大病院の御曹司遠藤、長崎のやくざ山鼻だった。そして念願の東京転勤。ときはバブルの真っ最中。顧客を儲けさせるだけではなく、望月も私腹を肥やしていく。そんな望月を危ぶみながらも、だんだん派手な生活が染みこんでいく佳那。住まいも憧れのディズニーランドを望むマンションから銀座のビルへ。

 佳那はさらに東京での山鼻の愛人美蘭とつきあい始め、そのすさまじい浪費生活、ホスト遊びに傾倒していく。望月は相変わらずのマネーゲーム。将来の海外でのリッチな生活を夢見て、今のうちは危険な橋も渡る覚悟。

 一方水矢子は第1志望の大学に落ちて、不本意で相変わらずの貧乏生活始めることになる。そして結局は大学を中退して、中年女性占い師南郷の助手になる。

 希望した東京勤務になっても、長崎時代以外の特A客をつかめない望月。だが、ひょんなことから兜町の幸運児・仕手筋の亀田優成の知己を得ることに成功する。そしてその恩恵を蒙ることに。

 地味な生活を送っていた水矢子も。佳那の仲介で亀田の第一秘書的な川村と知り合うことに。だが、水矢子は佳那に憧れ、あまり男性には興味が無いようだ。川村はかなり年上の南郷と関係を持ち出す。堅実な水矢子も佳那や川村情報によって、株で少し儲ける。

 とうとうバブルがはじける。亀田の逮捕も近いという噂。川村は自殺(?)。遠藤や、さらにはやくざ山鼻たちに追い詰められていく望月。すでに、山鼻の愛人美蘭は行方不明。望月が山鼻の追求を受けている最中、預金通帳のお金が急になくなったので不安になって銀座のビルの自宅に戻ってしまった佳那。二人は自殺を強要される。

 で、話は水矢子へ。川村も佳那も死んだあとはだんだん生活が荒れて、忌み嫌っていた母親のように酒に溺れて行く。彼女も少しの儲けも母親が借金をしていて、その支払いで大半を失う。だ派遣社員やスーパーの裏方などの転々と、だんだん条件の悪い職しかか無くなる、それさえもコロナのおかげ無くなり、ホームレス生活へ。そして、井の頭公園で佳那(水矢子の頭の中で)と再会。

 なお、表題の「真珠とダイヤモンド」は、汚れた真珠が佳那で、ダイヤモンドの原石(だが原石のままで終わってしまったの)が水矢子。上下合計650ページほどの大部だが一気に読める。

※ 冒頭の井の頭公園の描写は少し土地勘があるのでイメージが得られる。また、亀田の台詞「金がただの紙の塊にしか見えなくなる。」というのばバブル時に、その中にいた人の感じだったのだろう。 さらに亀田の「ゲームオーバー、大人たちにやられた。」もそうだったのだろう。バブルと縁のない職業だったので、当時のことはよくわからないが、こんな雰囲気の世界があの頃にはあったんだという感想。

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2023年7月記

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