オーウェル『1984』を漫画で読む

オーウェル『1984』を漫画で読む ジョージ・オーウェル文 フィド・ネスティ編・絵 田内志文訳 いそっぷ社 ISBN978-4-900963-98-6 1,600円+税 2022年7月(2023年1月第2刷)

 あのオーウェルの「1984」の漫画版。オーウェルがこれを書いたのは1948年(出版は1949年)、テレビすらまだなかった時代に、画像・音声の双方向通信システム(監視システム)を想定しているという驚くべき発想。これは、ディストピア小説といわれているが、もう某C国ではこれにきわめて近い形で現実になっている。

 オーウェルがスペイン内戦(1936年〜39年)に身を投じ、たまたま所属した部隊(組織)がPOUM(マルクス主義統一労働者党)だったこと、POUMがコミンテルン(→スペイン共産党)によって“トロツキスト集団”とされたこと、フランコに対して統一して闘うはずだったのに(統一戦線)「背後から撃たれた」こと、こうした経験が彼の目を覚醒させたことは間違いない。つまり、当時のコミンテルン(共産主義インターナショナル)が主導した国際共産主義運動は、“国際”(インターナショナル)ではなく、ソ連共産党の利害を貫徹するためだけのものだったことを。

 この小説では三つの超大国、主人公ウィンストンが住んでいるオセアニアと他にユーラシア、イースタシアが戦争を続け(互いに敵対したり同盟したりの繰り返し)、他の国の政治形態は分からないが(同じようなもの?)、オセアニアでは党(ビッグブラザー=スターリン)の独裁体制。そして内部の敵は(姿は見えない、つまり何でも彼のせいにできるゴールドスタイン(トロツキー))、また下級党員ウインストンの仕事は「歴史の改竄」という、当時のソ連の実態の戯画化というよりそのまま。

 つまり戦争という非常事態を続けることによって生活水準の劣化を我慢させ、また敵国(しょっちゅう相手は変わる)と、さらには内なる敵ゴールドスタインに対する憎悪を煽り立てることによってのみ維持される独裁政権。その維持のためには言語すらも“批判”という概念をなくすために変えようとするという世界。でももう予測ではなく、現実化してしまっているという恐ろしい時代になってしまった。

 オセアニアでいつも大声で叫ばれているのは、下の3つのスローガン。
戦争は平和なり
自由は隷属なり
無知は力なり
 これは決してオセアニアや、さらにはいまの某C国だけのものではないと思う。

 この漫画を描いたのはブラジル出身の人らしい。日本の漫画とセンスが違うので少し読みづらいところもある。でも、全体にオセアニアの陰鬱な状態はよく表現されていると思う。

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2023年2月記

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