「日本左翼史」に挑む

「日本左翼史」に挑む 私の日本共産党論 大塚茂樹 あけび書房 ISBN978-4-87154-229-6 1,980円 2023年3月


 挑まれている「日本左翼史」は、講談社現代新書から三部作として出ている池上彰・佐藤優のもの。もう一つ筆者が念頭に置いているのが、中公新書の「日本共産党」(中北浩爾)。筆者は長らく岩波書店の編集者をやっていて、現在は退社して作家活動、かつ長らく民主青年同盟(民青、共産党の青年組織)の同盟員(ただし日本共産党員にはなったことはないらしい)だったという人。


 学者が書いた中北本にはあまり興味がないようだが、反代々木党派の一つ社青同解放派に属していたと自分でいっている佐藤優(このみずから語る経歴には疑問を持っている)、マルクス主義に興味を持つが日本共産党は一線を画している池上彰の「日本左翼史」に対してはいろいろといらだっていて、とくに佐藤優にはいらだっていて、その即時的な反発心からこの本を執筆したようだ。しかし、その反発心がきちんと対象化されていないところも多いので、読む方としてはいまいちわかりにくい。佐藤優の言葉として引用しているものは、まったくこちらの意識には残っていなかった。興味が違うようだ。


 ただ、日本共産党の下部組織である民青に属していたという立場から見た60年代以降の話なので、そういう面ではその実態がわかる。下部党員が日常劇に必死で行わなくてならない「赤旗」拡販、選挙運動など。1977年の民青の大集会での宮本顕治が言った党と同盟の関係=「党の導きを受ける」ということについて「そういう仕組みになっています。」に対して、参加者たちば大爆笑した(実際は自嘲した?)というエピエード。宮本顕治と上田兄弟(上田耕一郎、不破哲三(上田健二郎))の対立、それを内部から見ているわけだし。帯に推薦文を書いている有田芳生への上田耕一郎の掌返し的な仕打ち、それが彼らの“政治”らしいが。大衆組織(原水協の問題やベ平連に反発したりとかSEALDsにすり寄ったりとか)との関係もつねに揺れ動いている。


 いずれにしても、歴史は難しい。個人が知ることができた、経験することができた範囲は全体の中のごく一部でしかない。まさに、「群×象をなでる」ということなのだろう。だから、それぞれの人が立っていた位置によって、様々な歴史が存在することになる。


 この本で印象に残ったのは、宮本顕治の趣味がライフル射撃ということ。そういえば、一時問題にされたような気もする。調べたら正しかった

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2023年5月記

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