なぜヒトだけが老いるのか

なぜヒトだけが老いるのか 小林武彦 講談社現代新書 ISBN978-4-06-532640-4 900円+税 2023年6月

 筆者は、老化はDNAのコピーミスの蓄積(で細胞が劣化)、またヒトが生殖年齢が終わったあとも長く生きるのは、おばあちゃん仮説(おばあちゃんが赤ちゃん(孫)の面倒を見ることができる)とともに、シニア(筆者によると“徳”を持った高齢者)の経験・知識、調停能力が社会生活をしているヒトには必要で、それが進化上有利だったとする。

 だいたいそうだと思う。また筆者の「たまたまそういう進化」という進化観もその通りだと思う。TVの生物番組(「ダーウィンが来た」とか)で、この環境ではこの形質・生態が有利だったのでここで生き残って繁栄したとかいっていることあるが、ではなぜその場所にいる他の生物はそうではないのかという疑問がすぐに出る。

 生物の進化に最適解はなく、いくつもある適解に近い形質・生態のものへと“たまたま”進化したものが生き残ってきたのだと思う。

 それはいいのだが、この本ではそれらはあっさりと書かれていて、残りは筆者の社会観というか人生観が大半を占めている。言葉を換えれば思い込みが、生物学以外では検証抜きに書かれてる。

 かつては高齢者が少なく、その経験は貴重だったのかもしれない。でも、今日のように高齢者が多くなると、筆者のいうシニアは少なく、若い世代には老害でしかない人、あるいは老害とはいわないまでもお荷物(IT機器を使えないとか)になっている高齢者が多いという現状がある。

 だから、これからの社会に本当にシニアが必要なのか、これを考えなくてはならないと思う。人口に対する高齢者の割合、あるいは高齢者の絶対数が増えていく近未来、深刻な問題だと思う。

 例えば2023年度日本の予算、その一般歳出費の半分以上を社会保障費が占めている。そのうちの45%以上が年金給付金と介護給付金、これに社会保障費の33%を占める医療給付費のうちの半分以上は高齢者だろうから、60%程度が高齢者に支払われている。社会的にはすごい負担、予算の硬直化の一つの原因になっている。

https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2023/seifuan2023/13.pdf

 とても筆者がいうような社会を支える“シニア”になれない自分は、社会の片隅でひっそり、目立たぬよう、少なくても若い人たちの邪魔をできるだけしないように、残りの人生を生きていくしかないと思う。

※ p.94の繁殖年齢後の生存期間。シャチとゴンドウクジラは母系の群れを作っている。おなじように母系の群れを作るマッコウクジラはどうなのだろう。

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2023年7月記

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