核のゴミをどうするか 今田高俊・寿楽浩太・中澤高師 岩波ジュニア新書 ISBN978-4-00-500967-1 960円 2023年4月
原子炉を運転すれば必然的にできてしまう高レベル放射性廃棄物=核のゴミを、具体的にどうすればいいのかについて、そしてその方法についての合意をどう形成して行くのかについてを考えるための本。だから、ある程度の原発について、放射能について、放射性同位元素についてなどの基礎知識を前提としている。読者層を考えると、最初に同じ岩波ジュニア新書である、「原発を考える50話」とか、「原子力災害から守る科学」などを紹介しておくという手もあったと思う。
この本の筆頭筆者の今田氏は、原子力委員会から日本学術会議に核のゴミをどうするか諮問(2010年)されてできた、学術会議の検討委員会(2010年10月、あの2011年3月11日の5ヶ月前)の委員長だったそうだ。
※ 学術会議の任命拒否については、この本では触れられていない。
だから、この本ではその「回答」(提言、2015年、つまり2011年3月以後)の説明と、この提言への理解度を深め、いかに多くの賛成を集めるかという方法論がメインで書かれている。
提言は、核のゴミを“総量規制”し、またある程度地層処分を前提とした“暫定保管”(技術開発の時間と考え・合意形成の時間の保証、“中間貯蔵”より少し柔軟)というもの。ただ、こうした「政策」への合意形成は、その「政策」自体の評価抜きには、語ることは出来ないと思う。
具体的にはやはり、これ以上核のゴミを出さない・増やさないといということ、つまり原発を全廃するということを明示的な前提(根本)としないと(つまりこの本でも述べられている、エネルギー政策、電源確保の政策などの根本的なこと)、結局は、ある「政策」(この本では「提言」)に対する支持の集め方というものになってしまう(応用できる)。この本でも、たぶんうっかりだろうけど「地層処分について理解が深まった。」などと書いてあるし。
やはり、この本でも何回か書かれているように、「後世につけを回さない」ということを第一に考えることが大切だと思う。既に今ある原発がもう、今の現役世代が生まれる前の時代のもの、つまり建設に責任がある世代ではないのに、その後始末を考えなくてはならないという不合理が生じている。
※ 本当は、低レベル放射性廃棄物だって問題。
重箱の隅
p.58 ネアンデルタール人に対して、現生人類をクロマ二オン人としているが、クロマ二オン人はおもにヨーロッパにいた現生人類に対して使われることが多いと思う。
p.68 「火山フロント」を火山帯のような意味で使っているが、本来は、これ以上海側(海溝側)には火山が分布しないという線(前線、フロント)。
p.97など 「核のゴミは高温」と何回か出てくる。そうなのだが、「熱を出し続ける(ために高温)」という方がいいと思う。
p.104 「長寿命核種」を「短寿命核種」に変換する技術というのが出てくるが、期待を持たせすぎだと思う。まあ、「現実的な技術とは言えない。」と書いてあるが。
2023年5月記