人新世の「資本論」 齋藤幸平 集英社新書 ISBN978-4-08-721135-1 1,020円+税 2020年9月(2022年2月第20刷)
かなり前に話題になった本(実際発売1年半くらいで20刷)をようやく読んだ。
ソ連の崩壊という歴史的現実や、臆面もなく“偉大なる中華民族の復権”を唱える中国(習近平政権)の現在、さらには伝えられる北朝鮮(金王朝)の実態から、「共産主義」は敗北したと捉える人は多いと思う。だが、それは資本主義の勝利でもない。このことは、現実社会で起きている様々な問題の解決の展望を示せていないことからも明か。上に出した国々は共産主義とは無縁だし。
著者は<コモン>という概念を提示する。この<コモン>は地球資源・環境も含めた幅広い意味での生産手段のようだ。この<コモン>を市民たちが、具体的にはワーカーズ・コープのような組織が管理・利用するというものらしい(<コモンズの悲劇>にならないように)。それは資本が利潤を追求するという目的で自己運動するのとは根本的に違う(資本によって人(社会的存在である存在、労働者も資本家も)が疎外される)、成長が目的ではない、人の幸福を目的とする脱成長経済に移行する、これこそが今を逃しては解決できない環境危機(人類の活動による気候変動)救う道だとする。
世の「共産主義者」の多くが、科学技術の発展によってすべての人たちが豊かになるという科学至上的幻想(科学技術により生産が無限に発展すれば矛盾は解決するという考え)を持っていることも批判する。そしてこれは、マルクスが「資本論第一巻」を書いたあと、いろいろな本を読んで、とくに科学書を読んで考えていたこと、その手書きのメモを読み解くことから分かった来たことだという。つまり資本論第二巻・第三巻には、こうしたことが反映されておらず、マルクスの死後第二巻・第三巻を編集したエンゲルスの考えに沿ったたものになってしまっているという。
第7章では脱成長コミュニズム実現の4つの提案もしている。そして、それは3.5%の人が動きだせば可能ともいっている。確かに実現の可能性はあるかもしれないが、自分の年齢を考えると、それを見ることは不可能だと思う。
マルクス主義の復権をいう著者と、日本共産党の関係はどうなのだろう。日本共産党は自分たちの「公認マルクス主義解釈」以外のマルクス主義解釈は、「修正主義」としか見ないだろうから、著者には批判的だろうな。ましてや、共産党党首公選論を発表して党を除名された松下氏との対談(しかも文藝春秋のお膳立て)までしているので、危険人物と見なされているかもしれない。
個人的には日本共産党の問題は、党首公選制などの規約(戦術)の問題ではなく、情勢分析とそれに基づく綱領(戦略)の問題だと思っている。この本でいうと、マルクスの最晩年(死の2年前の1881年)に書いたという「ザスーリチへの手紙」(帝政ロシア時代の“革命”に対する質問に対する答え)と繋がる。つまり革命は、封建社会→資本主義社会(それも産業革命後の西欧のイメージ、政治的にはブルジョア(形式的)民主主義)→社会主義社会(政治的にはプロレタリアート独裁(実際は党独裁))という単純なシェーマだけではないという回答を、筆者が重視しているという姿勢に繋がる。これ、日本共産党の綱領(根幹)を否定することなので、やはり日本共産党にとっては筆者に対して否定的態度を取るしかないだろうと思われる。
2023年4月記