銀の枝 ローズマリ・サトクリフ 猪熊葉子訳 岩波少年文庫 ISBN978-4-00-114580-9 760円 2007年10月(2017年12月第4刷)
ローマンブリテン3部作(4部作)の第2作目。前作「第9軍団のワシ」から100年以上たった西暦282年〜296年くらいの時代。すでにローマ帝国は衰退を始め、各地の軍隊の指導者が「皇帝」を自称すようになり、また軍隊(軍人)もローマ市民ではなく、“蛮族”が主流となり、規律も緩んでしまった時代。
ブリテンも海賊討伐に功績があったカロシウスが「皇帝」と称するようになる。カロシウスがいるルトピエ(現リッチボロー)に、軍医(外科)として赴任したジャスティン(じつは「第9軍団のワシ」のマーカスの子孫)、そして百人隊隊長として赴任した真面目な青年将校フラビウス)、互いに従姉妹関係であることを知り、以後生死を共にする親友となる。
二人はひょんなことからカロシウスの側近(大蔵大臣)であるアレクトスの謀反の計画を知る。カロシウスにそれを伝えるが信用してもらえない。逆に二人は、ルトピエから遠く離れた辺境の砦マグニスに赴任させられることになる。じつは最後の方で、これはカロシウスの思いやりであることがわかる。ルトピエにいたら危ないので。
二人が恐れていたとおり、カロシウスはアレクトスに暗殺され、アレクトスが皇帝を僭称するようになる。そして、過酷な税金を取り立てるようになる。
二人は反アレクトスの地下組織と連絡ができ、その活動に加わる。ドクムギの茎(地下組織がばれてからはエニシダの枝)を腰に差しているのは反アレクトス組織の一員である印し。しかし、仲間が尾行され、隠れ家を急襲される。一人の犠牲を出しながらも、危うく逃げるジャステンたち。ジャスティンとフラビウスはガリア(フランス)に亡命することを止め、ブリテンで戦うことに。
伯母(マーカスとコティアの子孫、だから腕輪を持っていた)の家に秘密の部屋に潜り込んだジャスティンたちは、隠れた秘密の空間で偶然に「第9軍団のワシ」をみつける。以後、ワシは反アレクトス軍のシンボルとなる。こうして、叔母にもらった腕輪(マーカスの)は武器調達の軍資金となる。
この間ローマ帝国はディオクレティアヌス帝により四分統治体制に移行しいる。その西ローマ帝国副帝コンスタンティウス1世が、ブリテンに親政して、アレクトス討伐に向かう。呼応して、ジャステンやフラビウスたちも合流する。
激しい戦いから1ヶ月後、ロンディニウム(現ロンドン)での、勝利の式典でコンスタンティウスに面会したジャステンやフラビウス。かつてカロシウスに忠誠を誓っていた二人だが、コンスタンティウスの正規軍の一員として、新たな任務地に赴任することになる。
ブリテンで勝手に「皇帝」を僭称したカロシウスに、「ローマ帝国」からブリテンへの赴任を銘じられたジャステンとフラビウス、その二人があくまでカロシウスのために命をかけるというところがいまいちわからない。イギリス出身の著者がブリテン人(サクソン人)を“蛮族”として書いたのは、第9軍団のワシと同じく、巻末の解説にある。
2023年5月記