大洪水を前に

大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝 斎藤幸平 角川文庫 ISBN978-4-04-111849-8 1,400円+税 令和4年(2022年)10月(オリジナルは2019年4月堀之内出版)

 マルクスに対する生産力至上主義(この本ではプロメテウス主義)、環境(エコロジを考慮していないという批判に対し、晩年マルクスが残したメモ(読んだ本の抜き書き)を、新しい資料MEGA(1990年から刊行が開始されたマルクス・エンゲルス全集(これまで未刊だったノートなども含む))を読み解くことによって反論する。

 晩年のマルクスは自然科学書を大量に読み、なかでも農芸化学(とりわけリービッヒ)や地質学を批判的に検討して、それを反映させる形で資本論第二巻、第三巻を書こうとしていたが、志半ばで死んでしまったこと、じっさいに第二巻、第三巻を書いたエンゲルスにはマルクの意図が十分に伝わっていなかったと主張する。

 共産党宣言は1848年、マルクスが30歳のときなので、それ以後の考え方の変化・発展はもちろんある。そして、エンゲルスが解釈するマルクス(マルクス主義)は、どうしてもエンゲルスのメガネを通したものになってしまうのは当然。

 こうしたことは、既に1960年代にもいわれていたと思うが、MEGAによって文献的にも裏付けがしっかりと出来るようになったということかな。ともかく筆者はマルクスこそが環境(惑星としての地球)をも含めた資本論を構築しようとしていたことを、マルクスが読んでいた本、その本のマルクス自身の抜粋箇所から実証しようとする。もちろん、現在は当時とまた状況が異なっているので、マルクスが書いたこと・考えたことを金科玉条として捉えるのではなく、「新たな時代のマルクスを(エコ社会主義?」構築しなくてはならないとする。

 ただ、現在日本の野党、とりわけ左翼はどうしたらいいのかという、現実政治については述べられていない。

 表題はもちろんマルクスの(資本家たちの姿勢である)「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ」を踏まえていて、筆者はその洪水が迫っているという認識を持っている。
 目次は裏表紙帯参照。

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2023年4月記

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