残月記

残月記 小田雅久仁 双葉社 ISBN978-4-575-24464-9 1,650円 2021年11月2021年12月第2刷)

そして月がふりかえる
 妻と子供二人を連れてファミレスに行ったとき。トイレから何気なく月を見ていたら回転しだして“裏側”が見えるようになった。席に戻ったら、妻も子供も自分を知らないようだ。しかも他の自分もいる。自分は他の人になってしまったようだ。でも、家の鍵だけは残っている。“自宅”に忍び込み、妻と対峙する。でも、妻のことはよく覚えているが、やはり自分は他人になったようだ。大学教授だった自分の家から、タクシー運転手の自分。そのうちで着信がたくさん入っていた携帯を見てみたら…。

月景石
 石集めが趣味だった叔母の遺品風景石。何か風景らしいものが見える。しかもだんだん変化しているようだ。叔母からこの石を枕の下に入れて寝ると夢を見ることができる、でもその夢は見てはいけない夢といわれている。(当然))夢を見てしまう。その夢は月の世界と行き来できるチャンネルだった。風景石の模様は月の大月桂樹だった。月の世界の大月桂樹は信仰の対象、でも衰え、枯れ始めていた。叔母からもらったような風景石を持つイシダキたちは狩られ、大月桂樹を祭る神殿に送り込まれる。それはなぜか…。

残月記
 月昴病(げっこうびょう)という、伝染性の不治の病がはやり、日本が未曾有の西日本大震災後の国家社会主義政党の一党独裁政権の支配下にある近未来(21世紀半ば)。月昴病は満月が近づくと心身ともに高揚し、暴力を振るうようになる人もいるが、一方芸術的センスが花開く人もいる(明月期)。逆に新月は暗月記。 月昴病にかかり、“捕獲”されて隔離された男、宇野冬芽。木工職人だった彼は、高校まで剣道をやっていたことに目を付けられ、支配階級を楽しませるための剣闘士にさせられる。優秀な剣闘士になった冬芽は、試合の勝者に与えられる女性瑠香(彼女も月昴病)と恋仲になる。また、クーデターの片棒を担がされるようにもなる。そのクーデーターは冬芽が独裁者杯の決勝に勝つことによって成立するはずだった。でも、負けた。だが、闘技会場は混乱している。冬芽は死の床で夢を見る。月の世界、砂漠を泳ぐ月鯨に乗って、常に昼と夜の境を旅をし続ける一員となって…。でも現実は証拠隠滅のために生き埋めにされるところだった。必死に逃げた冬芽は、身を潜めながらも施設に隔離されている瑠香に自分が生きている証として、自分で掘った仏像を送り続ける。

 不思議な感覚の小説。SFというか、幻想小説というか。ちょっと安部公房の初期風というか。月残記は「日没」(桐野夏生 岩波書店 )にも似たところがある。

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2022年2月記

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