トランプ信者潜入1年

トランプ信者潜入1年 横田増生 小学館 ISBN978-4-09-388852-3 2,000円+税 2022年3月

 463ページの大部。正直読み切るのが大変だった。それは“潜入”と謳いながら、トランプ陣営の選挙活動(おもに戸別訪問)をやった程度で中枢への潜入ではないこと、その潜入のレポもこの本の中ではそれほどの割合を占めているわけではないこと、つまりこれまで報道されているトランプ信者像を深化させたものではないことなどのためだ。

 異常なまでのトランプ信奉をしている人も、政治的な場面以外ではふつうの人も多く、単なる場面場面でのインタビューに終わらずに、こうした個人の日常と背景をも追った方が良かったのではないかと思う。

 この本で改めて知ったのは、法輪功がアメリカでは熱心なトランプ支援活動を行っていることくらい。

 この本の終わりの方にも書いてあるが、分断と憎悪をおる希有な大統領、嘘(例えば「選挙を盗まれた」)を大声で言い続ける典型的なデマゴーグであるトランプが、2020年の選挙で敗れたとはいえ、2016年選挙(6,300万票)のときよりも1,100万票も増やした7,400万票も獲得していること、トランプに危機感を持った人が多く投票に行った結果、ヒラリー・クリントンの(6,600万票、票数だけならトランプより多い)から、バイデンの8,100万票と1,500万票を上積みしたということで、トランプは支持者を減らしているどころか、増やしているというのがアメリカの現実だと思う。

 国会突入を煽りながら、実際に支持者たちが突入すると関与を否定したりする卑劣な現実も支持者たちには見えていない。中国共産党指導部にとっては、あれが「西欧の民主主義」として、「自分たちの民主主義」の優位性を確信・宣伝する材料になってしまっている。

 トランプのアメリカ・ファーストは、実際のところトランプ・ファーストでしかなく、つまり、アメリカと世界をどうしたいのかの明白なビジョンはない。その個人的な目的のためにはQアノンに代表される陰謀論者も利用しているということだろう。

 恐ろしいのは、上に書いたように民衆の支持者を減らしていないこと(ますます信仰を深めている人たちも多い)、さらに共和党内部の批判者たちを次から次へと追い落として、党内では批判を許さない大きな力を持っていること、つまりこのままでは2024年大統領選挙で共和党候補として指名される可能性が高いこと、さらに民主党の現状から対抗できる候補者が出ない(出せない)可能性もあること、だから2024年の選挙ではトランプが当選する可能性がある、それもかなり高い確率ということだ。

 トランプ支持者を理論的に説得するのは、陰謀論者理論的に説得するのと同じくらい大変だと思う。これまでのトランプの失態も見えていないようだし。

※ 筆者はこれまで、アマゾンやユニクロにも“潜入”して、ルポを書いているようだ。

 

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2022年7月記

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