天変地異の地球学

天変地異の地球学 藤岡換太郎 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-529098-9 1,000円+税 2022年8月(2022年10月第3刷)

 地球史の中で何回も起きた天変地異、この本ではその原因と結果(おもに生物の大絶滅)をいくつかあげ、さらにその周期性に言及している。周期性については地球内部のマントルプルームの周期、さらに宇宙では太陽系が天の川銀河を公転するときの銀河の腕を上下に横切りながら通過する周期をあげている。これら、とくに後者はなかなか実証が難しいので、読む方としてはこれらを事実とはぜずに筆者の仮説を聞いたということでいいと思う。

 この本で興味を引いたのは、自分自身が在籍していた大学について、かなり具体的に書かれていたこと。地球物理の島津康男(故人)、熊沢峰夫、地震学の深尾良夫氏などは直接教わったり、話したこともあるので。確かに当時はまだ「地球科学」という枠組みはなく、地質系と地物系で分かれていた大学が多かったと思う。それでも、自分自身が在学中はまだ両者の連携はうまくいっているとは思えなかったが(※)、熊沢氏のその後の活動(全地球史解読プロジェクト)や、その一貫である深尾氏&丸山茂徳氏らの地球トモグラフィー→マントルプルームなどは、「地球科学科」という枠の成果だと思う。

※ 当時、地球科学科は5階建ての建物の1階が地球物理と地震、4階が岩石鉱物と構造地質、5階が地史と地球化学の研究室があって、なんとなく1階と4階・5階の違いを感じていた。あまり具体的に書くのも何だが、1階の住民のなかには上階の人たちを「論理的でない」といっている人もいた。その後の彼についてはあまり知らない。構造地質の水谷伸治郎さんからは、何かの折に「物理帝国主義」という言葉を使ったらえらく共感されたことがある。いろいろと思うところがあったのだと思う。現役を辞めるころ、大学とはずっと縁がなかったのに、突然熊沢さんと水谷さんに呼ばれて、研究会に参加したことがある。この研究会での感想は、島津研に行かなくてよかったというものだった。当時の島津さんは「一人学際」といっていて、地球科学・自然科学ばかりか、社会学、経済学、法律なども一人でやることを目標にしていた。具体的に携わった仕事は「環境アセスメント」。本としては、NHKブックスの「国土科学」。で、この研究会に当時島津研にいた人も参加していたが、彼らを見て、やはり「一人学際」は、島津さんのような卓越した能力がないとダメと思った。

※ 明らかな間違い
p.126-127:エディアカラ動物群や澄江(チェンジャン)動物群は古生代カンブリア紀のものとしているが、これらは先カンブリア時代エディアカラ紀。
p.208:ダークマターを光を通さない正体不明の物質としているが(“ダーク”(暗黒)という言葉に引きずられたのだと思う、“ダーク”は正体不明の意味)、光は通す(反応しない)、また通常の意味での「物質」とはいい切れないと思う。これらを含めてダークマターについての記述はかなり怪しい。つまりあやふやな知識をもとにした終章はかなり怪しい。

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目次
はじめに
序章 天変地異とは何か
第1章 人類が経験した天変地異
第2章 空、海、陸と天変地異
第3章 生物を襲った天変地異
第4章 究極の天変地異
終章 銀河と天変地異

2022年11月記

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