知っておきたい地球科学 鎌田浩毅 岩波新書 ISBN978-4-00-431950-4 880円 2022年11月
多くの若い人が地球科学的知識を学校で学ぶ機会がなくなっているという現状、つまり高校理科での物化生と並ぶ科目である“地学”の絶滅危惧種化(地学を開講している学校の減少、高校地学が元気な公立高校がある都道府県は少ない、東京都の都立高校ではほとんど壊滅、一部“進学校”に限られている状態)がある。こうしたことから災害をもたらす地震、火山、気象の基礎的なことを学んでいない、またいわゆる「我々は何者か」という根本的な人類の問いへのアプローチ、宇宙の歴史から生命の歴史という時間スケール、また原子から宇宙という空間スケールを学ぶ機会もなくなっている。
こうしたことに筆者は非常に大きな危機感を持っているようで、いろいろなところで「長尺の目」を持つ大切さを訴えている。ここは共感するところ。
でも、若い人たちがウェゲナーの「大陸移動説」で衝撃を受けたという時代は既に終わったと思う。日常的に「プレート」という用語が使われる時代になって久しい。
正直なところ、もう少し一冊一冊を丁寧に書いた方がいいと思う。定説の定まっていない事柄について断定的に書くのは、読者に「わかりやすく」というサービスなのだろうが。地球温暖化とその影響についての慎重さを、他でも示してもらいたいところ。
記述に対して、おやっと思ったところをあげると切りがないが
・月は地球からだんだん遠ざかっているという記述のあとで、月がなくなったらといきなり飛んで、そのときは地球は超高速で回転するとある。月が地球からだんだん遠ざかれば、地球の自転はだんだん遅くなるはず。P.26-27
・地球の一次大気とおもにヘリウムとしているが、実際は水素が主成分で、次いでヘリウムという考えの方が多数派だと思う。例えば天文学辞典。p.31
・ニュートリノを鉄原子核の崩壊のときに発生するとあるが、太陽ニュートリノは水素→ヘリウムの核融合反応でも生じる。p.47。ここではさらに太陽風と宇宙線があいまい。
・「平衡状態」のとらえ方。筆者は地球にはある一定の「平衡状態」があり、多少の変動があってもそこに戻ろうとするというような書き方だが、本当はいろいろは平衡状態(第4紀に限っても、氷期と間氷期)があると思う。
・マウンダー極小期(17世紀半ば〜18世紀初頭の寒冷期)について、「夏でもテムズ川が凍った」とあるが、さすがにそれはない。最大半年間全面結氷して、冬には人が乗れた程度の厚さ。P.111
・ライエルをダーウィンの親友としている。たしかにダーウィンはビーグル号の航海にライエルの「地質学原理」を持ち込んだが、二人は直接の友人関係でないはず。p.165
他に気になったのは、挿入されている図の大部分を「筆者作成」とし、一部を「○○に加筆」とかしている。でも、「筆者作成」としている図も、どこかで見た図が多い。どの程度の改変ならば「筆者作成」としていいのだろう。版権の確認が面倒なのは分かるが。
全体として一般の人には、記述全部を丸呑みにするのではなく、「お話」として読んでもらいたい。ある程度地球科学の知識がある人、これまでも類書を読んだことがある人は、とくに読まなくてもいいと思う。
2023年2月記