「死んだふり」で生きのびる 宮竹貴久 岩波科学ライブラリー ISBN978-4-00-029714-1 1,300円+税 2022年9月
「死んだふり」が本当に生き伸びるために有利なのかの考察から始まり、「死んだふり」の損得(有利なら少なくともその種のみんなが「死んだふり」をするようになるはず)、さらにはそのメカニズムを、分子生物学者、工学者などとの共同研究で追求する。さらには、人間の病気(アルツハイマー)との関連まで。
筆者の研究の出発点は、沖縄で害虫駆除(不妊虫放飼法)の仕事に携わっていたとき、その対象となったアリモドキゾウムシが「死んだふり」をすることに興味を持ち、仕事が終わったアフターファイブの「自由研究」だという。興味を持ち続けることの大切さ。
昨今の「選択と集中」が、研究の多様性を喪失させるという危惧は、たぶん多くの研究者が共有していることだと思う。ただ、その背景にこうした研究でさえ多額の資金が必要になっていること、その資金を潤沢に提供できる社会ではなくなっているということがあるのだと思う。
目次
はじめに
1 世界はなぜ死んだふりで溢れているのか?
ミジンコも哺乳類も死んだフリ
虫での研究がやっぱりダントツ
混乱する定義
結局、死んだふりは本当に食われないのか?
襲う側だって死んだふりするのだ
交尾するため・させないための死んだふり
生きていくためにはとにかく死にまねだ──とかく社会は生きづらい
2 死んだふりを科学する
けったいな不動ポーズ
そもそも科学になるのか?
死んだふりの5W1H
歩いている虫は死んだふりしない
夜もするのか?
腹が減っては死にまねできぬ
死にまねもゆとりのうち
暑くてもできない
活動モードと静止モード
3 死んだふりの損と得── 生と性のトレードオフ
死んだふりは適応的か?
実験に最適の虫、コクヌストモドキ
育種する
天敵はなんだ?
世界初! この行動、捕食者回避に役立っていた!
生きのびる上で得ばかり
異性との出会いがなかった...
ストレスにも弱かった...
天は二物を与えることも
よく飛ぶ虫は死んだふりをしない
二律背反は野外でも機能した!
4 利己的な餌── 他者を犠牲にして自分が生き残る術
Nature誌上で受け取った挑戦状
死んだふりは不味いことをアピールするポーズなのか
襲われたときの反応が大事
スッキリしないときは原点に戻る
「だるまさんが転んだ」
利己的なエサ──集団で暮らすメリット
少数派の利点
ハエトリグモには死んだふり、カメムシにはフリーズ
動きが大切
5 体のなかで何が起こっているのか
動きを司る物質
脳のなかでは?
カフェインを飲めば虫だって興奮する
ドーパミン、ドーパミン、ドーパミン
やはりドーパミンだったのだ!
虫の歩む軌跡
歩く角度が違っていた
曲がるときスピードが減速しない
死にまねを制御するゲノム
死んだふり研究が医療に役立つ?
死にまねシンドローム
6 いつ目覚めるべきか?
虫がこける?
瓢?から駒
擬死からの覚醒
ランダムな死にまね持続時間が最適?
これからの死んだふり研究
表 死んだふり行動が観察された生物の分類群と種類
あとがき
2022年11月記